5月31日の読売新聞夕刊に「『助けて』電話1日2万件。震災受けスタート、相談パンク寸前」という記事が、大きく載っていました。
社会的包摂サポートセンターが運営している、24時間対応の「寄り添いホットライン」です。
「死にたい」「5日間何も食べていない」など深刻な悩みが多いそうです。かかってくる電話相談のうち、2割が自殺に関することです。
1日約2万件の電話に対し、つながるのは1200件程度という、「繁盛ぶり」です。相談する相手がいない、ということでしょう。家族、近所、会社といった「共同体」が弱くなったことも、背景にあると思います。さらなる対策を、考えなければなりません。
月別アーカイブ: 2012年5月
資料を作って説明するのか、説明するために資料を作るのか。その2
昨日の記事を読んで、質問がありました。「そんなええ加減な資料で、良いのですか?」と。
答は、「それで良いのです」。
だって、あなたがそのまま作業を続けても、それが上司の考えていることと合致しているかどうか、わかりません。違っていたら、無駄な作業です。早く案を見せて、上司と頭揃えをしましょう。
私としては、部下がどのような作業をしているか、早く知りたいのです。私の意図と違っていたら、早く修正しなければなりません。
上司の意図と違っていたら、それは多くの場合、上司の指示が不明瞭だったか、適切でなかったかです。もし部下に能力が足らなかったら、それは能力の足らない部下に、過大な指示を出した上司が悪いのです。
ここで、脱線します。
時には、「まだ、ここまでしか、できていないのか」とか、「こんなことを指示したのではない」と怒る上司が、いるかもしれません。そんなときは、「はい」と殊勝な面持ちで頭を下げつつ、早く上司の前を逃げ出しましょう。
たぶんその時、あなたは腹の中で「そんなに言うのなら、あなたが書けばよいでしょ」と思っているでしょう。そうです。ほとんどの場合、その上司は、自分も良くわからないのに、部下に「できていない」と叱って、照れ隠ししているのです。
もし、あなたに勇気があるなら、上司に赤鉛筆を渡して、「では、書いてください」と言ってみてください。もっとも、その後のことは、私は責任を持ちません(笑い)。
私は、上司に黙ってペンを差しだしたことが、何度かあります。最初から、赤鉛筆(その方の場合はBの鉛筆)を書類に添えて出した上司もいます。その方は、2Bや4B の鉛筆が好きでした。
これは、相手がそれを許す上司でないと、通じません。誰彼なしに行うことは、お勧めではありません。そもそも、それを許す上司は、部下を怒りませんわね。
いずれにしろ、部下をしかる上司は、上司としては不適格です(我が身を省みて、反省)。そもそも、上司が部下と同じ土俵で勝負していては、ダメです。部下とは違った角度から、抜けている点を加筆したり、次の段取りを指示すべきです。職場は、予備校の赤ペン添削教室ではありません。千本ノックは、別のヒマなときに行いましょう。
資料を作って説明するのか、説明するために資料を作るのか
今の職場での仕事は、前例がなく、前年通りというわけにも、いきません。毎日のように、初めての課題について、どのように対応するかを、考えなければなりません。その前に、誰が対応するかも、考えなければなりません。
職員が、知恵を絞って考えて、資料を作ってくれます。その際に、私と、スピード感がずれる場合があります。職員は一生懸命、完璧な資料を作ろうと努力します。一方、私は、なるべく早く、あるいは一定の期日までに、大臣や地元に対し答を示さなければなりません。しかし、難しい課題であると、いくら時間をかけても、完璧なものはできません。
「資料を作って説明する」では、間に合わないのです。「説明するために、資料を作る」=不完全でも説明してしまうことが、重要です。
私がするのは、指示を出す際に、「○月○日に、地元に説明するとしよう。そのために、そこから逆算して、×日前に大臣に説明する。その案を、今日から△日後に作って議論しよう」と、後ろを決めて段取りを示すことです。このような「工程表」では、決められた日までに、満足できる内容の説明資料ができない場合もあります。それは、仕方ありません。「完成度60%を目標に」とか、時には「完成度30%で良いわ」と指示します。
相手がある仕事ですから、時間も重要な要素です。「拙速をもって良しとする」。もちろん、課題の内容にもよりますが。
日本美術の見方
田中英道著『日本美術全史―世界から見た名作の系譜』(2012年、講談社学術文庫)が、興味深かったです。
著者は、日本の古代からの美術を世界の美術史の中に位置づけることや、日本の美術史を歴史学の年代区分でなく、「様式」の発展として区分することを試みたと書いておられます。著者の考えは、必ずしも「正統」とみなされていないようですが、私には、「こんな見方があるのだ」と、勉強になりました。
日本美術の歴史書としては、辻惟雄著『日本美術の歴史』(2005年、東大出版会)があります。これは分厚いので布団の中では読めず、途中で挫折しています。田中さんの本は文庫本なので、布団の中で読むことができました(反省しつつも、仕方がないですね)。
また、作者が不明の作品について、推定を試みておられます。これまで、「作者は一人の芸術家でなく、工房で作られた」と書かれることが多かったようです。しかし、著者は、「優れた芸術は、一人の天才芸術家が作るのであって、その人の下で共同作業があったとしても、作者を同定すべきだ」と主張されます。西欧でもそうですから、これまた、「そうか」と考えさせられました。
田中さんは、自ら選んだ「特に水準の高い作品」に◎を2つ付けておられます。その選定理由を読んで「なるほど」と、また有名なのに◎がついていない理由に、これまた「なるほど」と、勉強になりました。「私の見方とは違うな」と思うのもありますが。
この本に載っている仏像や絵画を見て(合計500近い写真が載っています)、「私も、案外たくさんの作品を見てきたのだなあ」と、嬉しくなりました。奈良の仏さんは若いときによく見ましたが、それ以外は展覧会で見たのだと思います。それだけ美術展が盛んだということで(主に東京で)、素人にも見る機会が多いということでしょう。
さて、「一つだけ選べ」と言われたら、あなたは何を選びますか。難しいですね。私だと、長谷川等伯「松林図屏風」(東京国立博物館)か、尾形光琳「紅白梅図屏風」(MOA美術館)でしょうか。彫刻(仏像)では、「山田寺仏頭」(興福寺)が好きだったのですが、少し考えを変えました。東大寺戒壇堂の四天王「広目天」(飛鳥園の写真)が、厳しい性格が良く表されているので。
情報をすっぱ抜く
マスコミ(新聞やテレビの報道)が、ニュースの競争をします。例えば、政府が発表する内容や政府が公表していない情報を、いち早く報道するのです。
記者の間では「抜いた」「抜かれた」と、他社との競争が激しいようです。もっとも「どうせ明日になれば公表されるのに」と思うことが、しばしばあります。「抜く」という言葉には、他社より速く報道する(他社を出し抜く)と、非公開情報をすっぱ抜くの、二つの意味があるのでしょう。
政府側は、何らかの事情があって、ある期日まで部内限りの秘密とします。その事情はさまざまです。閣議決定事項なので、閣議後公表する予定になっている、あるいは関係者への事前説明が終わっていないとか。相手(外国だったり国内の交渉相手)との交渉途中なので、まだ公表できないとかです。これらは、ある日が来ると、あるいは交渉がまとまり公表できる段階になると、公表します。別に、「部外秘」というのもあります。国家機密(例えば日本の防空体制、政府のコンピュータシステムへのアクセスするパスワードなど)です。また、個人のプライバシー情報も、保護されます。これらは、かなりの期間、秘密とされます。
すると、記者が「抜く」ことの意義や影響を、場合に分けて考えることができます。不十分な検討ですが、次のように整理してみましょう。
閣議決定内容が事前に報道される場合。これは内容が決定済みなら、影響はそう大きくはないでしょう。事前根回しがまだの関係者が、すねる場合があります。決定案が作成途上だと、やっかいなことになります。漏らしたのは、情報をもっている人(政府部内)でしょうから、情報管理に問題があります。
相手と交渉中の場合。これは大きな問題になります。まだ交渉中なのに、その過程が明らかになる、あるいはこちら側の手の内が明らかになると、交渉はうまく行かないか、不利になります。そして相手が複数の場合は、さらにややこしくなります。交渉が難航するか、相手国を利することになります。途中経過を、相手側が「意図的に」漏らす場合も考えられます。これはそうすることが、その人にとって有利に働くと考えた「作戦」かもしれません。情報管理に問題があるとしても、このような情報を記事にすることは、一考の余地があると思います。
国家秘密の場合は、内容によって、違ってくるでしょう。防空体制を公表することは、相手国を利することで、国家の利益を害します。パスワードも、犯罪者を利することになります。他方、アメリカのペンタゴンペーパーズや、ウォーターゲイト事件では、「政府の犯罪」を追求することになりました。