(日本の感覚)
このページでも時々紹介していた、原研哉さんの連載が、本になりました。『日本のデザイン―美意識がつくる未来』(2011年、岩波新書)です。各紙の書評でも取り上げられているので、読まれた方も多いでしょう。連載時の表題「欲望のエデュケーション」は、私にはわかりにくかったですが、この本になって理解できました。
日本人の持つ日常生活での美意識や感覚を評価し、それを伸ばすとともに世界に輸出しようという主張です。それは、繊細、丁寧、緻密、簡潔といった価値観であり、コンパクトな車や小さくても快適な住まいなどです。
日本文化というと、江戸時代以前の伝統文化、わびさび、茶道、華道、数寄屋造り、和服、日本画などが取り上げられます。この本で取り上げられているのは、「現代日本の生活文化」ともいうべきものです。すなわち芸術文化ではなく、古典文化でもありません。今の日本人の暮らしの中にある生活文化であり、都市の日本人の生活です。それは、経済発展を続ける新興国の中間層にとって、憧れなのです。
ヨーロッパの貴族やアメリカの富豪がつくった生活文化は庶民の憧れですが、それを手に入れることは多くの人にとって困難です。しかし、日本の中流家庭が手に入れた快適な生活は、新興国の人にとって手の届く目標になるでしょう。車でいえば「アメ車」でなく、日本の小型車です。ビバリーヒルズの豪邸でなく、戸建てかマンション(日本の集合住宅)での暮らしです。そこには、こぎれいなキッチン、快適なお風呂とウオッシュレットのトイレ、広くはないが居心地の良い居間(リビングルーム)、省エネの電化製品があります。
これからの日本が世界の中で生きていく際に、ヒントになることがたくさん書かれています。勉強になりました。ご一読をお勧めします。