私たちが陥ってはならないこと、その2

9月3日に、「私たちが陥ってはならないこと」を書きました。その続きです。公務員が一生懸命に働いている。なのに、世間では評価されない。私が考えているズレの「その2」は、次のようなことです。
公務員がそれぞれの持ち場で、精一杯仕事をしています。たとえば予算を増やし、制度を拡充しています。残業もして、急いでがんばっています。しかし、公務員は既存の制度、自分が所管する制度を使って対応しようとします。当然のことです。決められたことを実行するのが、公務員です。ところが、これまでにない規模と性質の災害の場合、これまでの制度では対応できないことがあります。

小学校の建物が、津波で壊れました。その場所で再建するのは危険なので、移転して再建することになります。ところが、新しい土地の取得費は、復旧助成の対象ではありません。地震や火災の場合は、その場所での再建が通常なので、移転して再建することを想定していないのです。また、壊れた校舎を取り壊す必要があります。元の場所での再建ならば、取り壊し費用も復旧費の対象になりました。しかし、別の場所での再建なら、元の校舎の取り壊し費用は復旧費の対象になりません。これも、そのようなことを、想定していなかったのです。この問題を解決するとしても、学校再建として文科省の助成するのか、がれきの片付けとして環境省が担当するのか、市町村財政の観点から総務省が所管するのか。なかなかやっかいな問題です。これらは、今回解決しました。

また、以前にも書きましたが、避難所特に避難所の環境改善については、国にも県にも担当者がいませんでした。水、食料、電気といった個別事案であれば、それぞれの担当がいます。しかし、全体を受け付け、考える担当者がいなかったのです。これも、今回作りました。最近お願いしたのは、避難者を受け入れた県市役所での、担当者を決めてもらうことです。他県からたくさんの避難者が来て滞在が長くなることを、これまで想定していませんでしたから。
これらは、行政の中での問題です。これまでの制度では対応できない課題や、所管のない新しい課題に、どのように対応するかです。

さらに、行政の範囲を超える課題もあります。仮設住宅などに閉じこもりがちな住民を、どのようにして、近所や地域社会とつながりを持ってもらうか。個人の家の中に、行政が立ち入ることは、抑制されるべきです。しかし、手をこまねいていては、孤独な人が増え、孤独死も出ます。どの省が、あるいは市役所のどの部局が、どのように働きかけるか。「適切に対処されたい」といった通達を出すことで、こと足れりとするか。
行政だけでは対応できない、でも民間の力を借りることができる場合もあります。現在は、ボランティアの方に、声かけをしてもらう。その際に配るチラシは、行政が用意することとしています。
また、雇用を増やすことは、行政が頑張っても限界があります。企業が再開してくれることで、雇用の場が生まれます。その事業再開を後押しすることは、行政にもできることがあります。

それぞれの公務員が、自分が所管の制度で、そして行政の理論だけで対応すると、現場では漏れ落ちが出たり、矮小化されて十分な対応ができないことがあります。課題の全体を見渡し、各組織の対応で漏れ落ちがないか、目配りをすること。もし漏れ落ちがあれば、新しい担当者を決めること。さらに、行政の世界に閉じこもらず、お手伝いいただけるのなら、民間の力をお願いする。これが重要です。全体を、誰が見渡すか。私が気をつけなければならないことは、それです。
もちろん、すべての要望にお応えすることはできないでしょうが。なぜできないかを、説明しなければなりません。

反省と注意その2
「そのような制度がないので」とか「担当ではないので」では、納得してもらえない。自分の担当だけに閉じこもらず、行政の役割全体を見渡すこと。そして、行政の世界に閉じこもらず、民間の力を活用できないか考えること。さらに、組織として、それを見渡すこと。
「役所としては精一杯やっています」ではなく、被災者から「よくやってもらっています」「わかりました」と言ってもらえるように、しなければなりません。