川北稔、イギリス近代史講義

川北稔著『イギリス近代史講義』(2010年、講談社現代新書)が、面白かったです。イギリスが最初に産業革命に成功し、そして衰退した歴史を、社会史と世界システム論から論じておられます。そのために、世界に先駆けたロンドンの都市化から書き始めます。産業革命・工業化は、供給側の事情だけでなく、それ以上に需要側の要素が大きかったことを、指摘されます。新書版で、読みやすいです。
かつてこのホームページで、アンドリュー・ローゼン著「現代イギリス社会史、1950-2000」(2005年6月邦訳、岩波書店)を紹介しました(2005年8月20日の記事)。これも、川北先生の翻訳でした。学校で習う歴史は、政治史と「出来事史」が中心です。しかし、社会と歴史を動かしているのは、政治家ではないと思います。国民の暮らし、生産と消費、労働と生活、人間関係がずっと大きな要素だと思うのですが。それらの条件と変化の上に、企業家や政治家の判断の余地があるのでしょう。政治史や出来事史は年表に書きやすいのですが、社会の変化は書きにくいのです。

フランスの歴史学者フェルナン・ブローデルは、歴史を3つの時間に分けて考えることを提唱しました。一つ目は、ゆっくりと変化する人間を取り囲む環境と人間との関係の歴史。これは、構造的な長い時間です。二つ目は、社会史という、変動局面の中くらいの時間。3つめは、出来事の歴史という、短い時間です。拙著『新地方自治入門』でも紹介しました。
日本の歴史特に庶民の歴史を大きく分けると、皆さんはどのように分けますか。私は、3つに区切るとするなら、縄文時代、弥生時代とその後、そして高度経済成長期以降に分けるのが、わかりやすいと考えています。第1期は狩猟と採集経済の時代。第2期は稲作の時代(1950年頃まで、多くの日本人は農業で生きていました)。第3期は工業の時代です。この生産と生活の仕組みが、日本人の個人、家庭、社会の暮らしを規定したと考えるからです。
戦後の経済成長は、農村から都市へ、農作業からサラリーマンへ、村での暮らしから会社勤めへと、大きく私たちの暮らしを変えました。平安時代の農民が明治時代の田舎の村にタイムスリップしても、暮らしていけると思います。村の中で稲作ですから。しかし、平成時代の都市に来たら、とても困ると思います。明治維新も戦後改革も、日本のかたちを大きく変えました。しかし、地方の庶民の暮らしは、それよりも経済成長で変わったと考えるからです。