日本大学2010年秋学期

2010年秋学期は、「公共経営論」です。

授業の内容
主に市役所を例に、「地域社会の経営」と「市役所組織の経営」を議論します。
「国家経営」が、行政機構(省庁)の管理だけではなく、国民の集合体としての国家を経営すること、豊かで安全な社会を発展させることを指すように、公共経営も地方自治体の組織を運営することだけではありません。社会は、政治システム、経済システム、社会システムの3つからなっていますが、経済システムと社会システムをうまくいくようにすることも、政治と行政の仕事です。
何を行政の課題とするかは、その時代と社会を反映しています。今、行政改革だけでなく、地域経営が議論になるのは、それが社会の課題であると認識されたからです。
講義では、これまでどのような課題が認識され、どのように取り組まれてきたか。また、これからの課題は何かを議論します。

授業計画
はじめに
1 講義の狙い
2 公共経営、2つの次元
3 公共とは何か
4 政治と行政の役割:3つのシステムの統合・経営

第1部 公共経営論の現在
第1章 今、なぜ議論されるのか
1 停滞する日本と地域
2 行政と日本社会の成功、その後に来た停滞
第2章 「日本の改革」:行政改革から社会の改革へ
1 行政改革の歴史
2 近年の改革の分類
3 行政改革から構造改革へ

第2部 自治体は地域を経営したか
第3章 市役所は「良い地域」を作っていたか
1 住みよい地域とは何か
2 地域の課題は何か
3 市役所はマチをつくってきたか
第4章 地域を経営する
1 住みよい地域をつくる主体
2 政府の役割
3 行政の役割の変化

第3部 市役所の経営
第5章 組織管理論から経営論へ
1 官と民のガバナンス論
2 行政改革の進化:スリム化から新公共管理論へ
3 社会の制度設計
第6章 市民の満足
1 市民の満足を得る成果(アウトカム)
2 市民を納得させる説明(アカウンタビリティ)
第7章 組織の管理
1 部門の管理
2 全体の管理と部分の管理
3 役所では経営と管理が行われているか
第8章 大きな政府と小さな政府
1 政府の大きさとは何か
2 大きな公共と小さな政府

授業の予定
シラバスに記載した内容を、少し順序を変えて講義します。
9月18日 はじめに
9月25日 第1章 今、なぜ議論されるのか
10月2日 第1章続き
10月9日 第2章 「日本の改革」
10月16日 第2章続き
10月23日 第2章続き、運営・管理と経営・統治との違い
10月30日 (大学院休み)
11月6日 第3章 市役所は「良い地域」をつくっていたか
11月13日 第4章 地域を経営する
11月20日 休講
11月27日 第4章続き
12月4日 第5章 組織管理論から経営論へ
12月11日 第5章続き
12月18日 第6章 市民の満足
1月15日 第7章 組織の管理、第8章 大きな政府と小さな政府

所得格差の広がりと再分配効果

9月1日に、厚生労働省が所得再分配調査を発表しました。2日付けの各紙が伝えていました(古くなってすみません)。それによると、2008年の再分配前の当初所得のジニ係数は、0.5318で、過去最大になりました。貧富の差が開いたということです。この原因は、高齢者世帯と単身世帯の増加だと説明されています。一人暮らしや高齢者世帯は、貧富の差が大きいのです。簡単に言うと、所得の大きいAさんと少ないBさんがいる時、別々の世帯だと貧富の差は大きいままです。二人が同一世帯にいると、足して2で割った数値になって、格差は縮まります。
ここから、年金や医療などの社会保険料と所得税などを引き、年金給付・介護保育などの現物給付を加えた後(再分配後)の係数は、0.3758です。当初所得に比べ、約30%縮小しています。この数字は2005年よりも0.0115小さくなり、格差が縮まっています。
この結果について、八代尚宏教授は「・・再配分機能は年金・医療に偏り、母子世帯のような低所得者支援の面では不十分だ・・」、樋口美雄教授は「・・働き方が大きく変化しており、非正規と正規の賃金格差も大きい。パートや派遣、契約などの働き方がジニ係数にどんな影響を与えているかについて要因分解できるように調査を実施すべきだろう。そのうえで、格差が一時的なのか、固定化しているのかを分析してみることが重要だ」と指摘しておられます(2010年9月2日づけ日本経済新聞)。

本間研究部長のブログ

自治大学校の幹部(と言ってもまだ若いのですが)に、本間奈々研究部長がいます。かつて、自治大で教授をしていたことがあり、この夏に、春日井市副市長から転勤してきました。
実名で、ブログをつくっています。ブログを読んでいただくとわかりますが、パワフルな女性です。担当業務や授業のほかに、自主ゼミ(読書会)を開講するとのことです。1日で30人の申し込みがあったと、うれしい悲鳴を上げています。その積極性といい、参加する学生といい、うれしいことですね。

女性向け研修

今日は、第1部・第2部特別課程の入校式がありました。女性109人、男性2人です。平均年齢は41歳です。
この不思議な名前は、次のような理由です。自治大学校の第1部課程は、都道府県職員と市(かつては大規模市)職員向けで約5か月間、第2部課程はその他の市と町村職員向けで約3か月の宿泊研修です。23年前に、「第1部特別」が始まりました。長期間の研修に来にくい、家を空けにくい女子職員向けに開設しました。もちろん、女性幹部職員が増えてきたことが背景にあり、女性幹部を育てたいという自治体の要望にも沿ったものです。
私はその時、ちょうど教授でした。入校期間を3週間に短縮する代わりに、事前学習として通信添削を入れました。その添削が、教授の仕事でした。その後、第2部にも広がり、女性限定も外しました。といっても、男性が入校したのは、今回が初めてです。
政府は、男女共同参画型社会を掲げていますが、それを掲げなければならないほど、まだまだ女性には家事労働などが片寄せされています。いつもは男性が多いので、校長講話では、「慣れない寮生活で大変でしょう・・」と励ましているのですが、今日は勝手が違います。「ご家族の世話から解放され、羽を伸ばしておられることと思いますが・・」と申し上げました(笑い)。皆さん緊張されているので、ふだん以上に笑い話を盛り込んで、研修の心構えをお話ししました。
今日は、その後、中国の青年公務員一行をお迎えし、日本の地方行政と公務員制度を勉強してもらいました。結構、外国のお客さんも来られます。

政治の限界、国民の支持

7日の朝日新聞「耕論・混迷の政治」、山崎正和さんの発言から。
・・グローバル化が進んで、一国の政治にとってはできることが小さくなっているのに、国民の期待は大きい。
・・冷戦期、日本は国内にも55年体制という対決の構造があった。大枠が決まっているから、逆に政権は政策の独自性を出しやすい。池田勇人内閣の所得倍増も、佐藤栄作内閣の沖縄返還も、政府が自分で行動したり自分で米国に働きかけたりして、結果を出せるテーマだった。
ところが冷戦が終わり、グローバル化が進むと、政府やリーダーができることが著しく小さくなってしまった。時代の大きな枠組みが変化した。金融、特にサブプライム問題は象徴的だ。状況は深刻なのに、どの政府も有効な手が打てないでいる。
「時の政権担当者はどうするのですか」という問に対して。
自分たちの権力を維持し国民の支持をつかむために、いわば「虚」のテーマ、実体の薄い課題を大きく取り上げ、ニセの対決を作る。平たく言えば劇場型政治だ。小泉元首相の発明ではない・・現代は虚の政治テーマを作りうる人物だけが、強いリーダーになれる時代だ・・
「今後の政治に期待できることは」という問に対して。
強力なリーダーシップではなく、調整型を地道にやってもらうことだ。今は矛盾する課題が多く、あれかこれかでは決められない。面白くしようと劇場型になっても困る・・