文明的課題と政治の対応

8日の東京新聞「時代を読む」は、佐々木毅先生の「押し寄せる文明的課題」でした。一部分だけ紹介します。
・・1970年代、文明の転換を予感させるような時期があった。それは政府によって管理された国民経済体制の内部対立を激化させ、やがて「小さな政府」論やグローバル化へと道を開くことになった。政府よりも市場に問題解決を委ねるという発想が優位を占めた。今回はグローバル化が十分に進んだ上での資源高、環境破壊、食糧危機であり、グローバル化のチャンピオンである金融市場が投機的な傾向を促し、問題の深刻化に一役買っている。
市場の問題解決能力に任せるよりも、むしろ市場に立ち向かう政策が必要だ。仮にそこに、政治が問題の切り分け役として登場するとした場合、ある程度科学技術によって対処できるが、同時にわれわれの「生き方」や発想の転換に関わらざるを得ない。従って、70年代とは異なり、市場の問題解決能力をもっと限界的なものとして、位置付け直す方向が出てきてもおかしくない。
今や、小泉時代の政策論議とは全く違った文脈での、政策マンの時代が始まりつつある。日本の官僚制に本当の能力があるとすれば、今こそ実力を見せるべき時である。

インターネットによる授業公開

ハーバード大学の政治哲学のマイケル・サンデル教授の授業が評判です。NHKテレビが「ハーバード白熱教室」として放送中です。オンデマンドでも、見ることができるようです。ハーバード大学のホームページ「Justice with Michael Sandel」では、インターネットで授業を見ることができます。もちろん、英語です。
テレビで見ている人に聞くと、「学生に当てて、答えさせるところが新鮮だった」という意見がありました。確かに、この1,000人を超える大教室で討論させるのは、大変ですね。さらに、アメリカの大学では、毎週大変な分量の書物を読んでくることを求められる授業も多いようです。私も大学時代、毎週英語の原書を読んで概要をまとめ、発表するというゼミをとり、しばしば徹夜したことを思い出します。
東京大学でも、インターネットでいくつかの授業を公開しています。「UTオープンコースウェア」です。結構有名な教授の授業を見ることができます。

政策を鍛える責任

日経新聞6月8日の経済教室、田中直毅さんの「永田町も『失われた20年』」から。
・・鳩山由紀夫政権は、わずか8か月余りで終わった。その原因は、野党時代の民主党が「鍛えられていなかった」ことにつきる。日本では欧米と異なり、野党の政策提言能力を鍛えることを通じて政府に緊張感を抱かせ、民主主義の政治空間を活性化させるという手法が根付いていなかった。そして鍛えられていない野党が政権を奪取した結果、一国の政権という「重さ」に耐えきれなかったのである・・
・・「野党を鍛える」開かれた言論空間をつくりあげるうえで、学界や政策研究集団に大きな欠陥があったという問題もある。自民党と社会党が日本の政治を代表した、いわいる55年体制においては、政権交代が現実的なテーマではなかった。そのため、野党を鍛える言論空間の意味は乏しかったのかもしれない・・
・・この状況からの脱却には、学界にも言論界にも、相応の責任があるといわねばならない。今後は学界・言論界が野党の議員や政策スタッフも巻き込んで、公共空間を通じた政策形成過程を具体的に提示し続けなければならない・・

夏椿

わが家の夏椿が、花を咲かせ始めました。今年は、冬の寒さか水やりが悪かったのか、枝の3分の2が枯れてしまいました。しかし、残りの枝が葉を広げ、つぼみをたくさんつけました。白くて美しいです。ただし、一日花なので、はかないものです。

インターネットの功罪

(インターネットの功罪)
先日の新聞記事(5月23日の記事「ネット帝国主義、利益を吸い上げる仕組みと安全保障上の危険」)に触発されて、岸博幸著「ネット帝国主義と日本の敗北」(2010年、幻冬舎新書)を読みました。論旨が明快で、わかりやすかったです。私なりの理解では、岸さんの分析と主張は、ごくごく簡単にまとめると、次のようなものです。
1点目は、インターネットの無料ビジネスが、ジャーナリズムと文化を破壊しているということです。すなわち、インターネットの普及で、私たちは便利になり、ビジネスも変わりました。しかし、もうかっているのは、グーグルやヤフーといった検索サイトだけです。それらは、広告収入で無料利用を広めました。しかし、その結果起こったことは、新聞や音楽(CD)といったコンテンツ(インターネットに載せる情報の作り手)の衰退です。新聞の購読者は減り、広告収入は激減しました。違法なダウンロードで、CDは売れなくなりました。新聞各社もインターネット配信を始めましたが、もうかっていません。
2点目は、国家の安全保障についてです。グーグルもヤフーもアマゾンも、ツイッターも多くのクラウドも、アメリカ製です。利用する私たちは、その情報をすべて彼らに握られています。確かに、これは重大な問題です。
また第1点目の問題は、このままでは、このビジネスモデルは持続しません。グーグルはもうけていますが、新聞などのコンテンツ産業を無料利用していることで成り立っています。新聞社が細ると、成り立たない商売です。詳しくは、原文をお読みください。
知らない世界を読むことは、勉強になりますね。もちろん、どこまでが正しく、どこが違うかを指摘するだけの知識は、私にはありませんが。岸さんの分析と主張は、説得力があります。