憲法の定め、行政権は内閣と地方自治体に

23日の朝日新聞夕刊「窓」は、坪井ゆづる論説委員の「憲法65条のふたり」でした。
・・(菅直人首相が所信表明演説で述べた松下圭一先生が)菅氏のかつての国会質問を「あれが分権のひとつの起点になった」とほめていたのを覚えている。
質疑は1996年の衆院予算委員会であった。菅氏は憲法65条「行政権は、内閣に属する」について、「この行政権の中に自治体の行政権も含まれるのか」とただした。内閣法制局長官は「含まれない」と答えた。新しい解釈だった。これでやっと明治以来の政府に対する自治体の「従属」が終わり、「対等」な関係へと切り替わった。そして分権改革がすすみ始める・・
この答弁と行政権が内閣と地方自治体に属することについては、拙著『新地方自治入門』p22で解説しました。さらに、日本の統治は、まず中央政府と地方政府に垂直に分立され、そして次に水平的に中央政府にあっては三権分立、地方政府にあっては二権分立になっていることは、同じくp276で図示して解説しました。
社会科の授業や憲法の解説で、「日本は三権分立」と教えられるので、地方自治体の位置付けや垂直的分立が、国民には十分理解されていません。

消費者団体訴訟制度1年

18日の読売新聞は、消費者団体訴訟制度ができて1年になるので、その成果を評価していました。不当な契約に対して、被害者に代わって、消費者団体が差し止めを請求できるものです。それまでは団体に権限がなかったので、問題ある業者に問い合わせても、相手にしてもらえないこともあったそうです。それが団体訴権を持つようになったので、悪質業者と強く交渉できるようになり、相手も態度を変えてきたようです。不当行為改善を申し入れた実績や、業者が改善に応じず訴訟になったケースも紹介されています。じわじわと効果が出始めていますが、まだ認知度が低いようです。
新聞が、新しい制度改正を書くのでなく、このように結果を評価するのは、良いことですね。

梅雨の中休み

東京地方は、今日も快晴。とても、梅雨とは思えません。昨日が、夏至だったそうです。
雨が降らないので、家の椿と夏椿に、水をまかないといけません。夏椿は、次々ときれいな花を咲かせています。幹の3分の2が枯れたのは、どうやら、水やりがたらなかったからだそうです。お向かいのSさんのご主人の見立てです。木には、すまないことをしました。

国力と世界秩序

19日の朝日新聞「日米安保条約発効50年」、加藤良三前駐米大使の発言から。
・・冷戦が終わり、世界ではBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)と呼ばれる国々が台頭してきた。しかし、中国は、日本など先進民主主義国とは、社会システムや価値観などが明らかに異なる。最近、話をした米国の知識人は、おしなべて中国が傲慢さを増していることを懸念していた。アヘン戦争以後、中国は被害者意識を持っている。そこから脱却するために米国とは、戦略的提携ではなく、最終的には追いつき追い越そうと考えているようだ。
先進民主主義国側は、BRICsが民主主義や人権などのルールを受け入れるよう、エンゲージメント(関与)政策をとってきた。成否は、両者間の国力の相関関係で決まる。
先進民主主義国側が成功するには、軍事力や経済力を含む国力で優位を保ち、価値観や文化、ライフスタイルなどで主流派であることを維持しなければならない・・

人は失敗で進歩する

ギリシャの財政危機に端を発した、ヨーロッパの共通通貨ユーロの暴落が、ユーロ制度に対する不安をもたらしています。20日の日経新聞は、1面で「通貨混沌-ユーロ不安と世界」の連載、読書面では「ユーロ体制、危機に直面」の特集でした。他方、経済面では、太田泰彦編集委員が「災い転じてユーロ進化論」を、書いておられました。
・・単一通貨制度が近く崩壊するという予言や、地域統合を目指す壮大な実験が失敗に終わったと断じる論評もある。本当にそうだろうか。
たとえば老舗のプライベートバンク・・独メツラー銀行の共同経営者、ヴィースホイ氏は「ユーロの仕組みに対する一般の認識が深まり、制度改善の土台ができた」と語る。80歳になるコール独元首相も、珍しく口を開いた。「欧州統合は戦争か平和かの問題であり、ユーロが平和を保証している」・・
ユーロは、主権国家はそのままに、通貨発行権を上部機関に委ねるという壮大な実験です。神ならぬ人間がつくった制度、しかもいろんな妥協を重ねた「実験」です。最初から、完璧なものはできません。まさに、試行錯誤。いろんな問題を解決しながら、進んでいくのでしょう。
問題をあげつらうだけでは、あるいは問題があるからといって踏み出さないなら、進歩はありません。2008年の世界金融危機に発する世界同時不況を、大恐慌に陥ることなく、ほぼ克服しました。これは1929年の痛い経験があったからです。そして再発を防ぐため、金融監督制度は、改善が検討されています。
制度が問題なく運営されている時は、制度が非常に良くできていて、問題を発生させない場合や問題が起きても吸収できている場合のほかに、たまたま問題が顕在化しなかった場合があります。それらの場合は、制度を改善・改革しようという動きは出てきません。改善・改革は、問題が顕在化した時に進むのです。