6月8日の朝日新聞生活面が、雇用調整助成金制度について解説していました。会社の経営が悪くなった時に、従業員を解雇せずに雇い続けている会社に、政府が助成する制度です。多くの人は、ご存じないと思います。私も、総理秘書官になるまで、詳しいことは知りませんでした。厚生労働省の解説は、こちら。
2008年秋のいわゆるリーマンショックによる世界同時不況の際に、支給要件をゆるめて、この制度を使ってもらうようにしました。市場経済の論理では、業績の悪くなった企業は従業員を減らし、良くなったら従業員を雇います。失業した従業員は、失業保険をもらいつつ次の職を探す。当然のことです。なぜ、国費を使って、その人たちや企業を支援するのか。疑問を持つ人もいると思います。
しかし、クビになった従業員にとっては、職業を失うことは、そんな生やさしいものではありません。収入がなくなるだけでなく、生活も家庭も不安定になります。そんなことは、経済学の教科書には書いていません。また、社会と国家にとっても、負の要素は甚大です。仮に、ある従業員が月額30万円もらっていた、しかし企業は20万円しか払えなくなったので解雇する、としましょう。この場合、政府が10万円出せば、解雇は避けられます。政府が10万円出せずにその人が解雇され、失業保険をもらうようになったら・・。功利主義的に、金銭的コストと、社会不安と、本人と家族の不安を合算しても、社会の合計コストは「安い」のです。
その新聞記事にありますが、2009年4月には6万1千事業所が、253万人分を申請しました。この数は、その半年前のなんと700倍です。ごく簡単に言うと、この制度がなければ、253万人が失業していたのです。最近の失業者数は350万人です。最近の数字は、インターネットで調べてもわかりませんでした。また、この制度の重要性を、マスコミが報道してくれないことも残念です。中学や高校の教科書にも、書いていないのでしょうね。暮らしていく上で、微分積分の知識より、重要だと思うのですが。
実は、ここには、日本の行政の転換が現れています。かつては、業界を支援することが、政府の仕事でした。しかし、この制度は会社も救っていますが、従業員の生活を救うことが目的です。会社を救うのが目的なら、国民から批判も出ると思います。生産者支援から生活者支援への、政府の仕事の転換が、ここに出ています。