国家の役割変化と財政学

持田先生の「混沌から希望への羅針盤」を読みながら、いろんなことを考えました。(12月7日から続く)
1 国家の役割、福祉が中心に
先生は、「福祉国家財政」という観点を、著書の中心に据えておられます。歳出では社会保障費を取り上げ、歳入では社会保障負担を大きく扱っておられます。社会保障費は、他の先生の教科書でも出てきます。
先生は特に、「社会保険拠出を既存の租税と合わせて総合的にとらえた」と述べておられます。「社会保険拠出の実態は、保険の仕組みと政府の強制力を利用した世代間の租税・移転制度に限りなく近づいている」。そして、社会保険拠出は税制の累進性を低下させると指摘し、「納税者の公平な負担」を考えるためには、社会保険拠出を真正面から議論しなければならないと、述べておられます。
私は、これを「国家の役割の変化」と理解します。すなわち、財政的にも、かつての産業振興・社会資本整備から、福祉の役割が大きくなり、それが中心になったということです。
2 歳出だけでなく負担の議論が必要
すると、財政学の議論の仕方も、変わってきます。
かつての産業振興・社会資本整備の場合は、歳出を議論すればすみました。もちろん「減税」という手段も使いましたが、それはいわば補助金の一種であり、歳入論として大きくは議論されません。これまでの歳入の議論は、総量確保と、誰に負担させるか(累進度など)の議論でした。
しかし、福祉の場合は、所得再配分の観点から、歳出だけでなく、「負担=租税+保険料」の議論が必要です。それも総量でなく、個人への帰属の議論が必要なのです。
「給付付き税額控除」は、その典型です。貧しい人への支援として、低所得者には減税します。しかし、さらに収入が低い人は納税していないので、減税ができず、この人たちには現金給付をするのです。税金という負担の議論が、給付という歳出の議論に連結しています。