5月1日の東京新聞夕刊「憲法とどう向き合うか」、長谷部恭男教授の「現実と一致しない理想、大原則のみ示す条文」から。
・・改正すべきだとよくいわれるのは、憲法9条、とくに「戦力を保持しない」とする2項である。自衛隊があるにもかかわらず、こんな条文を持っているのでは、条文と現実とが乖離していることになる。法を尊重するという精神を保つためにも、9条を改正すべきだというわけである。
・・憲法の条文と現実が乖離しているのは、9条に限ったことだろうか。21条は「一切の表現の自由」を保障するというが、わいせつ文書や名誉毀損、児童ポルノなど、自由に表現できないことは多い。これも「ただし、わいせつ文書や名誉毀損、児童ポルノなどは別である」と修正しなければ、条文と現実が乖離していることになるのであろうか。
普通そう考えられていないのは、こうした条文は何が大事か(表現の自由は大事だ)という原則を示しているにとどまるのだから、杓子定規に理解するのはおかしいからである。表現は一切自由なのだから、どんな表現も規制できないといのは非現実的である。それでは社会生活は成り立たない。
同様に、自営のための実力を備えないで国民の生命・財産を守ろうというのは非現実的なのだから、9条がいっているのも、過剰な軍備は戦争の引き金になりかねないし、コストも高くつくので、なるべく持たない方がよいという大原則を示すにとどまると理解するのが常識的である。非武装でも安全を維持できるというのは真摯な信仰ではあっても、信仰をともにしない人も納得できる理屈ではない。特定の信仰を人に押しつけるのは、控えるべきであろう・・