繰り返される金融危機・市場経済に内在する不確実性

26日の日経新聞経済教室は、奥村洋彦教授の「繰り返される金融危機。不確実性の分析、不可欠」でした。不確実性が高まったと言われますが、金融危機は今に始まったことではありません。1970年代以降でも、イギリスでの中小金融機関の経営危機、日本や北欧のバブル経済、アジア通貨危機、アメリカでのS&L(貯蓄金融機関)問題、ヘッジファンドLTCMの破綻、ニューエコノミー・バブル、そしてサブプライムローン・バブルと続き、むしろ常時生み出されるものと指摘しておられます。
人間が経済活動を行う以上、バブルの発生と崩壊は不可避との考えがあります。ケインズらは、現在の経済行動は人々が将来をどう予測するかにかかっていること、将来の「場」は現在や過去の「場」とは異なるので、何が起きるかを客観的な確率で予想できず、主観的な確率に頼らざるを得ないことなどを理由に、経済システムには不確実性が内在していると考えました。さらに、客観確立のある場合をリスクとし、ない場合を不確実性と区別しました。
どうして、バブルはいつか崩壊するとわかっていながら、失敗するのか。詳しくは、原文をお読みください。

2008.06.28

今日は、10回目の授業。順調に、第3章が進んでいます。経済財政諮問会議も取り上げましたが、まさに「骨太の方針」を決めたところなので、最近の私の経験をお話ししました。
成績評価のためのレポート課題を、示しました。提出は7月23日ですが、事例を選んで考えてもらうために、早い目に示しました。評価の基準も示してあります。あと、2回で今学期も終了です。

増税を問う

政府・与党が、歳入歳出一体改革の歳出削減骨子を決定しました。例えば27日の日経新聞によれば、概ね次の通りです。「2011年度に国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するため、11兆4000億~14兆3000億円の歳出削減を実施。黒字化に必要な16兆5000億円程度の7割以上を歳出削減で賄い、残りの2兆~5兆円は増税などで穴埋めする。
政府・与党は名目経済成長率3%を前提に今後の歳出の伸びを試算。2011年度に借金をせずに行政サービスの経費を賄う基礎的財政収支を黒字化するには、16兆5000億円程度の財源を捻出(ねんしゅつ)する必要があるとし、これを歳出削減と歳入増で解消する方向を打ち出した」。
その決定過程が、連日報道されました。参議院側が原案を修正したことなど、政治学的にも興味深いものでした。詳細は報道に譲るとして、私はこれが決定され実行されると、日本の政治にとって画期的だと思います。それは次の2点です。
1 国民に初めて負担をお願いする
今回の決定では、増税は正面から書かれてはいません。しかし、2011年までに埋めるべき金額が16.5兆円であり、歳出削減額を決めれば、残りは増税となっています。今回の重要なポイントは、実質的に増税を決めたことにあるのです。
日本はこの半世紀、国民に本格的増税をしたことがありません。正確には、ガソリン税やたばこ税を増税していますし、所得税・法人税での減税廃止はあります。年金や健康保険の保険料を値上げしたこともあります。しかし、基幹税目で本格的な増税をしたことがないのです。消費税は、導入時は増減税同額、5%に引き上げたときは減税先行でした。大平内閣の時に、一般消費税導入を企画しましたが挫折しました。たぶん、これが唯一の増税のお願いだったでしょう。この半世紀は、増税しなくても済んだのです。また、増税が必要になったのに、国債でつけ回しをしたのです。
そもそも、代議制民主主義とは「代表なくして課税なし」というように、国民に負担を問う代わりに意見を述べるための制度です。利益を配分するだけで負担を問わない政治とは、お気楽な政治だったのです。
これについては、拙著「新地方自治入門」p299を読んでください。
今回決まった数字は幅のあるものですし、今後の経済情勢で変わるでしょう。しかし、それはたいした問題ではありません。すなわち、歳出削減が厳しすぎると国民が考えるなら、削減額を小さくすればいいのです。その代わり、増税額が増えます。必要な穴埋め額が決まっているのですから、歳出削減と増税は、どちらかが減れば他方が増えるのです。それを国民に選んでもらうのです。今回は、この三段論法を国民に提示し、国民に選択してもらうこととしたのです。
2 自民党主導での負担決定
これまで自民党(野党も含めて政党)は、利益の配分は行ってきましたが、負担の配分は避けてきました。それが、与党政治家主導で増税に進むとなると、これは日本の政治にとって大きな転換点になるでしょう。
これまで政策立案は内閣、実質的には官僚が担って来ました。その案を与党が賛成するか、修正することで成案にしました。しかし、今回は新聞で伝えられる限りは、与党の政策責任者が議論をとりまとめました。もちろん、これが民主主義の基本です。国民が政治を付託したのは政治家であって、官僚ではありません。
また、今後の実施過程においても、政治家がとりまとめたことで、円滑に進むと思われます。
(6月27日)
昨日、歳出削減と増税の関係を書きました。今朝28日の朝日新聞に、次のような記事が載っていました。「小泉首相が22日の経済財政諮問会議で『歳出をどんどん切りつめていけば『やめてほしい』という声が出てくる。増税してもいいから必要な施策をやってくれ、という状況になるまで、歳出を徹底的にカットしなければいけない』と発言していたことがわかった」。諮問会議議事要旨では、11ページです。(6月28日)
朝日新聞は28日から、「検証、構造改革。第2部小さな政府」を始めました。第1回目は、「理念なき一律カット」です。(7月29日)
(政策評価)
27日の日経新聞「瀬戸際のWTO交渉・下」は「影薄い貿易立国。工業品輸出、好機逃す」でした。日本の農業市場開放が進まない=農産物の輸入を自由化しないため、相手国が工業製品の輸入を自由化しない=関税を下げないのです。一対一の関係だけでなく、多角的交渉ででも主導権を取ることができません。輸出で稼いでいる日本は、自由貿易体制の大きな受益者なのですが。
これまでも国内農業者を保護するために、輸入制限で守るほかに巨額の公金を投入しています。「国内農業の競争力強化」はずーっと言われてきたことです。長く言われていて、まだ言われるということは、どこかに問題があるのでしょう。どなたか、日本の農業政策の評価をしてくれませんかね。また、農業を守ることと、自由化による国益との比較評価も。農水省と経産省が合体して産業省になると、どんな判断を下すでしょうか。
私は、日本の農業政策は、「農業」政策ではなかったのではないかと疑っています。それは、農家政策であっても、業としての農業を育てなかったのではないかという疑問です。
ほかにも、農業高校や大学の農学部はたくさんあるけど、卒業生のほとんどは農業に就かないこと。新規農業従事者より、JAや農水省・農政部などへの新規採用者の数の方がはるかに多いこと。農業予算は巨額だけど、その多くは農業土木業者にわたっていること、などなど。いろんな疑問があるのです。(7月29日)
31日の日経新聞経済教室では、成田憲彦教授が「政策決定過程変えた経済財政諮問会議」を書いておられました。従来の自民党政治を、冷戦構造と高度経済成長という条件で成り立った、保守政治と分配の政治と位置づけ、その条件が失われたこと。小泉政権は、この自民党的政策と施策決定手続にノーを突き付けたこと。その際に、本人のパーソナリティーの他に、小選挙区制と経済財政諮問会議があったこと。経済財政諮問会議は、議院内閣制のものとでは異端の政策機関であることなど、を指摘しておられます。わかりやすい分析です。

骨太の方針2008

今日27日に経済財政諮問会議で、「経済財政改革の基本方針2008」(骨太の方針2008)が答申され、直ちに閣議決定されました。
今年のポイントの一つは、「骨太の方針2006」で決めた歳出歳入一体改革を堅持することです。これについては、各紙が報道しているように、「歳出削減は限界だ」「新たな歳出要素が出てきて、この原則は守れない」との大きな声が、各省や与党からありました。この点については、大田大臣の記者会見をご覧ください。
もう一つは、低炭素社会の構築が、柱として立ったことだと思います。そのほか、道路財源の一般財源化など、これまでに決まったことも、含まれています。

2008.06.26

26日の東京新聞社説は、「地方分権 出先機関縮小で挽回を」でした。・・分権を内閣の最重要課題と銘打っているのは福田康夫首相である。このままでは「看板に偽りあり」ではないか。次の焦点である国土交通省の地方整備局など出先機関の廃止・縮小にどこまで切り込めるか。挽回(ばんかい)へ大胆な決断を期待する。実行できないなら分権の旗を掲げるのはやめてもらいたい。地方の側にも権限移譲を「ありがた迷惑」ととらえる旧思考の首長がいる。住民が主役の地方自治に向けて首長の意識改革も不可欠だ。そうでないと、官僚側につけ入るすきを与えることになる。