『地方自治』2008年4月号(ぎょうせい)に、務台俊介自治体国際化協会ロンドン事務所長の「英国の『国と地方の関係基本協定』とその示唆するもの」が載りました。これは、2007年12月に、自治大臣と地方自治体協議会(日本の地方6団体に相当)との間に結ばれた協定です。国と地方が対等の立場で協定を結ぶところが、興味あります。
ことの起こりは、2007年7月に政府が発表した、「英国の統治」という統治機構改革に関する白書(緑書)に、中央政府と自治体間の関係を規定する協定を策定することが、盛り込まれたことです。ブラウン政権は地方分権には熱心でないと考えられていたけれども、選挙を意識してこのような動きになったのではないかと、推測されています。分権のような統治機構改革は、官僚機構からは出てきません。詳しくは、務台論文をお読みください。また、「英国の統治」については、ロンドン事務所のHPを参照してください。
月別アーカイブ: 2008年4月
教育方法の輸出
4日の朝日新聞が、世界の国々で日本の学校教育が高く評価され、採り入れている国がたくさんあることを伝えていました。教師同士の授業研究、教員指導方法、理数科科目の教育方法などです。小学校の算数の教科書が英訳され、1万冊が輸出されているとのことです。
モノだけでなく、このようなソフトもどんどん輸出したいですね。
慶応大学2008春学期
2008年春学期
行政学特論Ⅰ「行政管理論:日本の行政と官僚」土曜日第2時限(10:45~12:15)
2007年度に引き続き、行政管理論を講義します。内容は大きくは変わりませんが、組み立てなどを変更します。
講義の狙い
日本の統治は、中央政府と地方政府で分担されています。中央政府にあっては、執政(executive)を担うのは内閣(政治家)であり、執行(administration)を担うのは各府省(公務員)です。地方政府にあっては、前者は首長で、後者は市役所(公務員)などです。
行政管理論は、この執行についての学問です。つい最近まで、日本の公務員は世界一優秀であると評価されていました。しかし近年、大きな批判にさらされています。なぜこのように、評価が急激に変化したのでしょうか。ここに、行政と官僚だけでなく、それを包含した日本の政治や社会の転換が表れているのです。
この講義では、日本の行政機構と官僚制を解説するとともに、転換を求められている日本の官僚制と行政について、同時代的視点から分析します。
授業計画
第1章 日本行政の成功と失敗
1 私たちの成功
2 私たちの失敗
第2章 行政機構と官僚制
1 日本の行政機構
2 日本の官僚制
3 官僚の失敗への批判
4 官僚制の限界
5 責任の所在と対応策
第3章 政治の役割と行政の役割
1 政治の機構と担い手
2 官僚主導から政治主導へ
3 政治の役割
第4章行政構造改革
1 行政改革の進化
2 行政の構造改革
授業予定
4月12日 開講、ガイダンス、はじめに(1 分析の視角)
4月19日 (2 行政と行政学)、第1章(1 私たちの成功)
4月26日 第1章(2 私たちの失敗)
5月10日 第1章続き。小レポート提出期限
5月17日 第2章(1 日本の行政機構、2 日本の官僚制)
5月24日 第2章続き
5月31日 休講
6月 7日 第2章(3 官僚の失敗への批判、4 官僚制の限界)
6月14日 第2章続き(5 責任の所在と対応策)
6月21日 第2章残り、第3章(1 政治の機構と担い手、2 官僚主導から政治主導へ)
6月28日 第3章続き(3 政治の役割)
7月 5日 第3章残り、第4章(1 行政改革の進化)
7月12日 第4章残り
配付資料
レジュメ p1~5(4月12日)、p6~8(4月19日、p8は小レポートの課題)、p9~12(4月26日)、p13・14(5月14日)、p15・16(6月21日)、p17・18、レポートの課題(6月28日)
資料 1-1~1-3(4月19日)、日経新聞小冊子(4月26日)、2-1~10、人事院パンフレット、国家公務員Ⅰ種ガイド、受験案内、内閣府パンフレット(5月10日)、厚労省パンフレット(5月17日)、2-11、厚労省パンフレット、総務省パンフレット2種類(5月24日)、3-1~3-5(6月14日)、4-1・4-2(6月28日)、4-3~4-6(7月5日)
参考
IT化
先日の「使い勝手の悪いIT化」の続きです。今度は、民間の方との会話。
民:役所の旅費システムを、作りかえるようですね。
全:そうなんよ。今は役所ごとに違っていて、古いシステムを使っているところ、そもそもIT化していないところなど、バラバラなんだ。それを共通化しようとしたんだけど、失敗している。それを、もう一度見直そうということ。
民:でも、それってムダじゃありません。交通機関って、「駅探」とか「駅スパート」とか、インターネットや携帯電話で、しかも無料で調べることができますよ。最短コースや金額も。
全:そう言われれば、僕も使っている。
民:ね。だから、それを使えば良いんですよ。旅費の申請に、その画面をつけておけば。会計課はそれを基に、旅費を職員の口座に振り込めば良いんです。違う経路を使いたい職員は、別途、理由を書いて申請すればすみますよ。各役所の伝統的手法をIT化しようとするから、複雑になるのです。そうでなくても、民間企業でもやっていることは、どこかのシステムを買ってきたらすむのに。役所の独自性を発揮する必要はありません。
もう一つ、あの民間議員ペーパーに出てくる企業(年間15万件を一人の職員で)は、IT化の前に、業務の見直し、フローチャートを見直したんだって。簡単に言うと、出張の際の上司のはんこを2つにした。役所だと、下手をすると10個くらい並ぶぜ。その業務の見直しに8割を費やして、IT化は2割だったんだって。
民:そうなんです。IT化って、IT技術者に任せればいいと思っている人が大半ですが、それは半分以下です。どこをIT化するか、人間作業の方を見直すことが大切なんです。
全:そうやね。ところが、官庁には、そのような業務監督者や組織がないのよ。人事課は人事異動と給与計算しかしていない。会計課は支払いしかしていない。「業務見直し課」って、ないんだ。
民:そこが問題ですね。
サービス業の生産性はなぜ伸びないか
これに関連して、朝日新聞が3日から、「成長戦略の足元」を連載しています。3日は「生産性、伸びぬサービス業」で、散髪屋さんが出ています。散髪屋さんは、生産性の上がらない代表例として、良く取り上げられます。でも、10分1000円の散髪屋さんが、はやっています。逆に、カリスマ美容師がいるのですから、理容もカリスマ理容師が、良いサービスと高い料金を取ればいいと思います。一律料金でカルテルを結ぶから、生産性が上がらないのです。
4日は、「商店街、進まぬ代謝」です。高松市の成功した商店街と、寂れた商店街を取り上げています。ここは、諮問会議が出張した場所です。成功した秘訣は、所有と利用の分離です。地権者は共同出資した会社に、土地を定期借地で貸します。そして、別の使いたい人が、商店を使うのです。寂れている商店街は、土地建物を持った商店主が、はやらない店を続けます。記事は、中小企業の延命策が起業家の参入を阻み、結果として商店街を衰退させていることを指摘しています。これは、農業も同じです。
わかりやすく、読み応えある連載です。