2007年

(年末のご挨拶)
2007年も、今日で終わりです。皆さんにとって、今年はどんな年だったでしょうか。私にとっては、次のような1年でした。
(本業)
引き続き、内閣府大臣官房審議官として、経済財政諮問会議の事務方を勤めました。諮問会議の動きや役割を、内部から勉強させてもらっています。地方での諮問会も、開催しました。関係者の方には、多大なご協力をいただきました。改めてお礼申し上げます。
内閣官房再チャレンジ室長としての仕事もあります。こちらは総理が交代し、位置づけが少し変わってきました。ただし、政策自体の重要さは、変わらないと考えています。特に、地域での若者支援拠点の拡大に、力を入れています。
(副業)
今年度から、慶応大学法学部に、講師として出講しています。春学期は行政管理論(日本の官僚論)、秋学期は地方自治論です。たくさんの学生が熱心に聞いてくれるので、こちらもそれに応えるべく力が入ります。
講演会も、いくつかお呼びがあました。依頼されるテーマが広がり、結構大変です。地方での講演会では、公務員に対する厳しい未来予測をお話しするので、聴衆にあまり喜んでもらえないようです(反省)。
原稿は、大連載「行政構造改革」を始めました。第2章までは順調に書きためたのですが、第3章から難渋しています。仕事の片手間に一人で書くには、少し荷が重いです。しかし、官僚機構内部にいる者でないと書けない論文を目指しています。
また、再チャレンジを勉強したことで、「再チャレンジ支援施策に見る行政の変化」を書きました。行政の役割転換や日本社会の変化についての考えを、かなり明確にすることができました。地方財政に関しては、「三位一体改革の意義」と「今後の課題と展望」(『三位一体の改革と将来像』所収)を書きました。
このHPは、今年も書き続けることができました。カウンターは年初に62万人、今日で88万人です。延べ26万人の方が、見てくださいました。ありがたいことです。最近は地方行財政の記事が少なく、日本の政治や経済の記事が多くなっています。また、ある人曰く「新聞記事の紹介やそれについてのコメントが多いですね」。そうですね。HPでは、まとまった長文は書きにくいです。また、毎日記事を書くのも結構大変なのです。
(暮らし)
娘は社会人になり、息子は大学生になりました。娘は社会人の大変さを実感しつつあり、息子も少しは勉強しているようです。少し共通話題ができました。他方で、子育て業務を卒業した奥さんに、何か「趣味」を考える必要があります。小生は、休日といっても、講義や原稿でお相手をしないものですから。
好奇心はつきることなく、読みたい本は山積みです。しかし、興味が発散しすぎて、なかなか読むことができません。いつもの反省ですが、思い切って何かを切り捨てなければならないのでしょう。
来年が、皆さんにとってよい年でありますように。

市長が手を出せない職業紹介

31日の朝日新聞が、国の行政改革の影響で、地方のハローワーク(職業安定所)が廃止されることを解説していました。その中で、地方団体が「国がやらないなら地方にやらせてほしい」と主張していることが、紹介されています。また、経済財政諮問会議は、職業紹介業務を民間に開放することを求めています。しかし、厚生労働省は、「雇用の確保は最低限のセーフティネット」であり、国が担うべきだとして拒否しています。
私は、地方団体に移管し、民間開放もすべきという考えです。セーフティネットであっても、国が直接執行していない分野は、たくさんあります。義務教育・生活保護・保育園・介護保険・警察などなど。命に関わる医療も、民間の医師や病院がやっています。「セーフティネットだから」という理屈は、通りません。国として一定の基準を定め、実行は地方団体なり民間に委ねればいいのです。
住民の雇用の場確保や紹介は、地方団体にとって、重要な責務です。それについて、知事や市長が手を出せず、責任も持てないのです。企業誘致をしても、従業員確保はできません。地域の問題なのに、国の行革で減らされては、市長もたまったものではありません。実は、地方行政にとって、労働行政は最も「縁遠い」分野なのです。ほとんどの業務が、国の直接執行となっていて、地方団体ができることはありません。職業訓練校くらいでしょうか。厚生労働省が、本当に職業紹介業務を充実しようとするなら、基準を決めて地方団体に委ねるべきでしょう。

日本の労働慣行

風早正宏「ここがおかしい日本の人事制度-職務給制への転換」(2007年、日本経済新聞社)が、勉強になりました。著者は、日本の企業を経験した後、アメリカで働き、また経営コンサルタントをしておられる方です。
日本型の終身雇用・年功序列制が、経済成長期にのみ成り立ち、もはや維持できないことを、明確に示しておられます。また、欧米型の流動雇用・職務給制に移行すべきであり、それが日本の経済と社会を活性化すると主張しておられます。日本がこれまで自由主義経済で発展しておきながら、労働については規制を続けていることの不思議さを、指摘しておられます。
私も大賛成です。終身雇用・年功序列制は、右肩上がりの時に機能します。そして、みんなが横並びで出世と昇級します。能力差を隠す仕組みです。それはまた、企業に丸抱えされる代わりに、企業に抱え込まれます。いやだと思っても、転職しにくいのです。退職金制度はその典型です。この「賃金の後払い」は、職員を引き留めるための制度です。途中転職者には損ですし、企業が倒産でもしたらえらい損です。このような制度は、労働者を守っているようで、その実、労働者を守っていないのです。

日本の魅力

NHKニュースによると、ことし日本を訪問した韓国人観光客の数は、先月末で24%増え推計239万人。これに対して、韓国を訪問した日本人観光客は推計206万人で、日本への韓国人観光客が初めて韓国への日本人観光客を上回ることが確実になりました。
外国に行く日本人の数は日本の国力に比例し、日本を訪れる外国人の数は日本の魅力(と外国の国力)に比例します。これからの観光業は、パイの縮小する日本人以上に、アジアの人たちを相手にすべきです。喜ばしいことですね。

行政組織のガバナンス

大連載を書く過程で、いろんなことを勉強しています。2月号に書き足したことに、ガバナンスがあります。気にはなっていたのですが、なかなか議論が整理できなかったのです。田村達也『コーポレート・ガバナンスー日本企業再生への道』(中公新書、2002年)を読み始めて、少し考えがまとまりました。
近年、企業統治(コーポレート・ガバナンス)が話題になっています。よく見ると、その中には、二つのものが含まれています。一つは、法令や社内規則、企業倫理を守ることです。有名企業で偽装などの不祥事が相次ぎました。これに対しては、内部管理体制の強化(コンプライアンスの強化)が求められます。もう一つは、業績の確保です。法令を守っていても、収益を上げないと、経営陣は株主から交代を求められます。
これを参考にすると、行政組織にあっても、法令順守と業績確保の二つが求められます。年金記録のずさんな仕事は、前者の法令違反に当たります。夕張市の「ヤミ起債と再建団体移行」は、企業の粉飾決算に当たるのでしょう。後者の業績確保にあっては、もちろん行政組織に求められるものは、収益ではありません。
さらに、企業にあっては、売れない商品を作っていたり、高価なサービスを提供していては、他社との競争に負けます。市場で淘汰されるのです。しかし、行政には市場原理は働きません。ムダな政策であっても、コストの高い事業でも続けられるおそれがあるのです。ただし、国家間の国際競争という観点から見れば、魅力ある国づくりに負けた政府は、国力を落としていくのでしょう。
このような視点からは、スリム化や効率化を超えた行政改革が、求められます。これまでの行政改革論では、NPMは議論されましたが、このような視点はあまり議論されていません。