鎌田浩毅京都大学教授が、また本を出されました。「富士山噴火-ハザードマップで読み解くXデー」(講談社ブルーバックス)です。ちょっと物騒な題名ですが、備えあれば憂いなしですね。
月別アーカイブ: 2007年11月
金融ビッグバン
17日の朝日新聞変転経済は、「金融危機10年」の第4回「96年秋、日本版ビッグバン構想。セーフティネットなかった」でした。金融行政が、護送船団方式から自由化へ大きく改革が進みました。その際には、さまざまな思惑があったこと、また自由化で脱落する金融機関への安全網がなかったこと、そして想定外のアジア通貨危機が起きたことが解説されています。
社会の変化と税制の改革
15日の日経新聞経済教室「税と社会保障、一体改革の方向」は、森信茂樹教授の「効率と公平、両立へ」でした。詳しくは原文を読んでいただくとして、そこでは、諸国の税制改革を二つの潮流に位置づけておられます。一つは、ヒト・モノ・カネの国際化・自由化の下で、高齢化に伴う社会保障費用を賄うためには、税制の中身を効率的で成長志向なものにしていく必要があるというもの。その現れが、所得税法人税を下げ、消費税に置き換える動きです。もう一つは、税制の効率化に伴う所得再分配機能低下への対応としての、税と社会保障の一体的設計です。具体的には、低所得者に対する減税と、減税しきれない場合は還付(社会保障給付)するのです。
このような議論は、経済財政諮問会議(11月8日)でもなされています。課題として、次の三つを挙げています。1つは、グローバル化の中での生産性向上・成長力強化です。2つめは、世代間の公平です。3つめは、社会保障財源の確保です。
私は、税制改革の課題を、次のように考えています。
1 大きな条件変化として、まず、国際化、高齢化、成長力低下を挙げましょう。国際化によって、日本独自の税制は困難になります。代表例が、所得税(個人所得課税)と法人税(法人所得課税)です。「大企業や金持ちからたくさん税金を取れ」というのは応能原則ですが、あまりに高くすると、その人たちや企業はより低い税率の国に逃げてしまいます。よって、国際的な水準とかけ離れた課税はできません。
高齢化と成長力低下は、社会保障費の増大を招く一方で、それに見合った税金が確保できません。増税が必要なのです。
2 2つめに、日本独自の問題があります。
このHPで何度も繰り返していますが、日本は、国民に本格的増税を問うたことがないのです。これが、必要な増税を遅らせ、国債を積み上げています。一方で、年金や高齢者医療は充実し、現役世代・将来世代への重い負担になっています。世代間に大きな不公平が生じています。私はこれを「究極の幼児虐待」と呼んでいます。
3 大きな課題の3つめに、どのような社会を目指すのか、という課題があります。
例えば、配偶者控除です。サラリーマンは、奥さんがいると税金を安くしてもらえます。しかし、これは働いている奥さんには、不公平な税制です。これまでは、妻は家庭を守るという通念で、このような税制ができたのでしょう。しかし、今や社会の実態に合っていません。また、減税しきれない低所得者に還付するというのは、税制を使った社会保障です。
こうしてみると、税制とは政治そのものであることがよくわかります。財政学の教科書では、公平だとか、応能負担・応益負担などの原則が、語られています。それらはもちろん必要ですが、社会の変化に対して税制も、昔のままではあり得ないのです。社会の変化に対し、税制の改革は遅れていると思います。
2007.11.17
今日は、久しぶりに、慶応大学での授業でした。今日で、地方行政の仕組みの解説が終わり、次回から地方財政に入ります。
税源交換
国と地方の税源交換について、「税源交換と交付税財源との関係は、どうなるのですか」との質問をいただきました。
税源交換に厳密な定義はありませんが、私は次のように考えています。
1 地方税と国税を交換する。例えば法人2税と法人税を交換する。
2 その際に、地方交付税財源を交換する場合が、「交付税財源を使った税源交換」です。
例えば、5月25日諮問会議民間議員ペーパー「地方税財政改革による自治の確立」の「原則2、矢じりの2つめ」には、この二つが書き分けられています。今回の総務大臣提案は、このうち、「2 交付税財源を使った税源交換」です。この場合は、各税目でも国の取り分に影響しません。
もし、さらに消費税を使って税源交換をするなら、残る交付税財源の消費税は0.5兆円と少なくなっていますので、次は交付税財源でない税源交換になります。
3 もう一つ、同じ税目での税源交換があります。三位一体改革で、3兆円の所得税から住民税への税源移転を行いました。実は、この際に、住民税を累進税率から一定税率(比例税)にしました。所得の低い階層では3.4兆円の国への移譲、所得の高い階層では0.4兆円の地方から国への移譲を行ったのです。0.4兆円は税源交換だったのです。
「地方財政の将来」神野直彦編『三位一体改革と地方税財政-到達点と今後の課題』(2006年11月、学陽書房)p206か、「今後の課題と展望」『三位一体の改革と将来像』(ぎょうせい、2007年5月)p86をご覧ください。