26日の朝日新聞夕刊「夕日妄語」で加藤周一さんが、「退職症候群」について書いておられました。
イラク戦争の直前、国連の安全保障理事会で戦争の必要性を力説したのは、パウエル国務長官であった。退職後のパウエル氏は、今も続く戦争を批判している。このような「退職症候」発現は、アメリカの方が、日本よりはるかに多いのではないか。それは、次のような背景からであろう。
伝統的な日本社会では、職場の集団へ個人が高度に組み込まれていること。そのことは、一方で個人の安全を保証すると同時に、他方では成員すべてを同化させようとする強い圧力として働く。強制的な同化現象、個人・少数意見の圧殺、個人の自由の極端な制限。これが、集団の中の個人の次のような3つのあり方を生み出す。
第一、少数意見を持ち、それを表現する。第二、少数意見を持ち、沈黙する。第三、多数意見に順応し、それに従う(合唱に参加する)。第一は極めて少なく、第三は大多数である。退職症候群は、第二に現れる。意見が退職後に変わるのではなく、現役の時から多数派と対立していたが、退職後に沈黙を破るのである。
アメリカの指導者が現職の間は愚行を演じ、退職後に自由を行使して自説を唱えるのは、自由な批判精神の「沈黙」の証言であると同時に、自由な精神の「存在」の証言でもある。