経済財政6

八代尚宏先生が、「健全な市場社会への戦略」(東洋経済新報社)を出版されました。「小泉時代から始まった構造改革は、まだ始まったばかりであり、市場経済と社会保障を組み合わせた『健全な市場社会』を実現するには何が残された課題かを示す必要がある」と書いておられます。取り上げられている項目は、労働契約法制、社会保障改革、年金制度、医療制度、働き方、保育所と育児保険、外国人労働者、義務教育、大学、農地と農協、構造改革特区、市場化テストなどです。
日本の経済社会の課題と、どのように改革すべきかが、わかりやすく取り上げられています。日本経済と構造改革の教科書でもあります。ご関心ある方は、お読みください。(1月30日)
2日の日経新聞経済教室は、樋口美雄教授の「仕事と生活調和、基本法で」でした。これまでの企業と正社員との間には、誇張して言えば「保障と拘束」の関係があった。企業は正社員に家族手当などを支払い、生活を保障する代わり、その代償として長時間残業や頻繁な転勤といった拘束をかけてきた。その反面、この拘束に耐えられない労働者は生活保障の対象から外され、非正規労働者として天井の低い補助的な仕事しか与えられてこなかった・・・。(2月3日)
16日の経済財政諮問会議は、成長力底上げ戦略、 規制改革・構造改革特区、 市場化テストについてでした。
規制改革では、民間議員から「規制大国からの脱却と消費者主権の確立を」という提言がなされています。ここに、考え方とこれから取り組まなければならない分野が書かれています。
「・・岩盤の如き規制が残っている。それは、健康・医療・保育・教育など生活に密着した分野であり、消費者の潜在的ニーズが高い分野の規制である。この分野の規制改革によって、消費者の立場に立った良いサービスが豊富に供給されない限り、豊かな高齢化社会は実現しない。
これらの分野は、何らかの政府関与が不可欠な場合が多く、それゆえに規制が強固に残されてきたとも言える。しかし、だからと言って、消費者の選択肢が狭められたり、供給不足による行列が余儀なくされたり、価格が高止まりしたりする状態が是認されることにはならない。消費者ニーズの高い分野こそ、供給者の創意工夫を高めるために規制を緩和し、それとセットで事後的監視を強化することが必要である・・」
そして、「事後的な監視機能を高める」方法として、 消費者保護ルール(情報開示ルール等)の確立、 各省庁における消費者保護部門と産業振興部門の切り離し(消費者保護を徹底させるために、各省における消費者保護行政と事業者監督部門とを明示的に分断)、消費者の視点からサービスの質を評価する第三者機関の整備・強化が挙げられています。
市場化テストについては、「公共サービスの全面的な改革のために」で、これまで対象事業が少ないことへの対策として、これまでは民間提案だけだったが、下記のように、監理委員会が官が自ら直接行う必要があるとは言えない」分野を選定し、市場化テストを導入する手法を加えるべきではないか、と提案しています。(2月17日)
9日の日経新聞経済教室は、林良造教授の「イノベーション、医療軸に」でした。技術の発達と良い医療を求める国民とで、医療分野は発展が期待される分野です。しかし、最新の機器や医薬が使えないのです。現在の医療制度や規制が、それを阻んでいます。もちろん、安全に関することですから、十分な配慮は必要ですが。次のように述べておられます。
この分野では、生命を扱うという特殊性や情報の非対称性の大きさ、公費投入などから、どの国においても参入・価格設定などで政府の影響力が強かった。現在、グローバル化と技術革新に対応し、医師、患者、企業とも最新の技術にアクセスできる環境を求めて、国境を越えることが現実になりつつあり、政府の関与のあり方も大きな変革期を迎えている。
すなわち、医療制度改革は、単に医療費総額や医師数、病床数を算術的に抑制するのではなく、各種資源の適材適所への配置がなされ、質の高い医療サービスの効率的な提供を実現するインセンティブを内蔵した制度へと変換していくことが求められている・・。
そうですね、行政構造改革は、単に公費支出を少なくするために行うもの、小さい政府を目指すだけではありません。規制改革も、より視点を広げています。近年は、「官製市場」改革という言葉を使っています。例えば、規制改革・民間開放推進会議の「官製市場の民間開放による民主導の経済社会の実現」(平成16年8月3日)では、官製市場を、
「・政府自らがサービス等の提供を行っている
・民間に開放されてはいるものの、サービス等を提供する主体が制限されている
など公的関与の強い市場」と定義しています。
先日、このHPでは、行政改革を行政構造改革まで視野を広げて、目的別に近年の実績を整理しました(行政改革の分類)。(3月11日)
日経新聞14日の経済教室は、清成忠男先生の「底上げ戦略、革新企業軸に。中小=弱者は誤り」でした。
一般の中小企業像には、しばしば誤解がある。中小企業の象徴的な存在として、よく製造業の下請け企業がイメージされる。だが、総務省の事業所・企業統計調査によると、2004年には中小企業の76.9%は第三次産業に属し、その割合は拡大傾向にある。製造業は11.3%、下請け企業の比率は中小企業全体のわずか数%にすぎない。下請け取引関係も、かつての縦割りの支配・従属の状況にはない。製造業を軽視するつもりはないが、中小企業の主要分野は第三次産業であることを確認しておく必要がある・・・(3月14日)
(政策立案の手法)
16日の日経新聞経済教室は、清水谷諭助教授の「社会保障制度の再設計へ、世界標準のデータ整備を。中高年を追跡調査」でした。
これまでの社会保障議論には、2つの大きな視点が欠けている。まず、密接に関連する年金、医療・介護といった社会保障政策や高齢者雇用などが、それぞれ縦割りで議論されていて、分野を超えた横のつながりが弱い。政策のあり方を考える際に、担当する役所でなく、政策の恩恵を受ける受益者の立場に立つことが重要だ。
次に、財源論だけに議論が集中している。政策変更に対して個人がどのように反応するかや、個人の多様性を見落としている。
従来の縦割りで財源論に特化したアプローチから、受益者の立場に立って分野横断的で個人の違いにも目配りの利いた新しいアプローチへ、発想を転換する必要がある。
それを実現するには、ケーススタディの積み重ねでは難しく、豊富な情報を含む数万人単位のデータベースを構築し解析することが必要だ。欧米やアジア諸国でも行われており、唯一の空白地帯が日本である。(3月17日)
(イノベーションが広がる仕組み)
17日の朝日新聞は、「無償で開花、QRコード」を解説していました。最近、バーコードに変わって見かける、あの変な幾何学模様の四角形です。携帯電話のカメラで取り込むと、ホームページに簡単に接続できたりします(私はやったことがありませんが)。元々は、トヨタ自動車の工場で使われる生産管理のためのものだそうです。バーコードでは情報量が不足するので、開発されました。バーコードの数十倍もの情報量を書き込み、読み取ることができます。あの小さな四角形で、400字詰め原稿用紙を4枚半も書き込めるのです。
特許を公開したことで利用が広がり、いまや車検証、空港のチェックインにも使われ、健康保険証にも利用される予定だそうです。物流での履歴管理を想定していたのに、携帯電話で使われるとは、想定外だったとのこと。
でも、イノベーションって、そうなんですよね。思わぬ方向で広がることがあります。もっとも、このような2次元コードには、欧米にライバルがいて、まだこれが世界標準ではないそうです。(3月17日)