2004.09.30

月刊『地方財務』(ぎょうせい)10月号に、関西社会経済研究所「三位一体改革のシミュレーション分析」の概要が載っています。また、新たに淵上俊則氏の「公務員制度改革の動向を読む」の連載が始まりました。公務員制度については、法令解説はありますが、制度全体の概要解説書は見あたりません。不思議なことですが。今後の執筆に期待します。長谷川彰一氏の「年金問題を考える」は最終回です。

本業

今日、内閣改造がありました。新大臣に総務省の仕事を説明するのも、総務課長の仕事です。でも今回は、麻生大臣が続投なので、楽をさせてもらいました。(9月27日)
閣僚名簿が発表されると、新閣僚が順に記者会見されます。通常、各省は官房長・総務課長・大臣秘書官が官邸で待機して、新大臣の発表を待ちます。そこで、記者会見に臨む新大臣と打ち合わせをするのです。その後、皇居での認証式、初閣議を終えて、大臣が省に初登庁されます。省の幹部と顔合わせをし、記者会見に臨みます。翌日には、新旧大臣の引継などがあります。大臣が留任されると、打ち合わせ等が不要になるのです。大臣の交代に続いて、副大臣・大臣政務官の交代もあります。

日本経済学会大会パネルディスカッション(岡山大学)

25日は岡山大学で開かれた、日本経済学会のパネルディスカッションに出席しました。受付で、まず貝塚啓明東大名誉教授とばったり。「岡本君、こんなとこまで来てるのかね」「はい、パネルに呼ばれまして。先生が福祉のパネルをやっておられる時間に、私は都市対地方のパネルです」「官僚は出不精なんだけどねえ」「私は着実に学者の道を歩んでいるようです」
パネルは、井堀利宏東大教授、八田達夫国際基督教大学教授、藤田昌久京都大学教授、小西砂千夫関西学院大学教授、土居丈朗慶応義塾大学助教授とでした。そうそうたるメンバーと、「異業種交流」ができました。ありがたいことです。大きめの教室が満員でした。会場からは、林正義先生(財務省研究所)からコメントをもらいました。発言録は、来年出版されるとのことです。
私の発言骨子は、財政論1のページに載せてあります。
「放課後」は、齊藤愼大阪大学教授、林宏昭関西大学教授、小西砂千夫教授、前田一浩岡山県総務部長らと、議論を続けてきました。

財政論2

パネルディスカッション「都市対地方:財政、公共事業、一極集中の是非をめぐって」発言骨子(続)
財政論1から続く
3 財政から見ると
(1)都市から地方への財政移転
代表は、補助金(公共事業、農業など)と地方交付税。
地域間格差と財政問題を議論するときには、一人当たり所得やGDPが比較される。一方、税金がどのように配分されているか、補助金と交付税で分析するのが主な手法。
しかし、補助金と交付税のすべてが、地域間格差を埋めるためのものではない。
財政移転を二つに分けて考えるべき
①対人サービス
ナショナルミニマムといわれる支出は、地域でなく個人に着目して配分される。教育、医療、介護など。
これらは、1人当たりほぼ同額の支出。全国一律のサービス水準である。一方で、地方団体に事務を担当させているので、税収格差がある。それを埋めるための手法が、補助金と交付税。
②公共事業や産業支援
これは、国民1人あたりで支出していない。これを、どう評価するか
通常、都市対地方を比較する際に、公共事業費を住民1人当たりで比べるが、面積当たりで比べると東京が圧倒的に大きい。
また、公共事業支出が、地域の人たちに帰属しているとは限らない。地域外の大手企業が受注することを考えればわかる。
(2)経済論と政治論
このように、地域間再配分と国民間再配分を、分けて議論しなければならない。
そして、国民間の再配分は、まさに財政の仕事。
地域間の再配分は、この国をどうつくるか政治の仕事。
いずれにしても、この国のかたちをどうするかの問題。
補助金交付税の地域間帰属分析は、さらに三位一体改革議論も、行政分野だけの「狭い議論」でしかない。
4 国際比較
中国財務省幹部から、質問を受けたことがある。
「日本では、経済発展による地域間格差、人口移動にどう対処したか」「人口移動を法律で禁止したのか」
私の答は、「日本は、(最初に述べたように)いくつかの組み合わせで処理をした。人口移動は禁止しなかった。」
中国では、経済発展格差による人口移動は、人口増加問題に次ぐ、重大問題。
一方、先進諸国では、この問題はどのように設定されているか。
社会文化的背景が違う。ドイツ、フランス、アメリカ。
それによって、問題意識も、用いる政策も違う。
純粋経済学のみで議論したり、解決する問題ではない。
5 林正義先生(財務省研究所)からのコメントに対する発言
林先生が指摘されるように、現在の日本では、都会と地方とどちらが果たして豊か。
いつまで、一人当たり所得(お金)で、豊かさを測るのか。
西ヨーロッパ各国に比べ、一人当たりGDPでは1.5倍になっている。でも、幸せを感じない。
豊かさと平等を達成した日本。キャッチアップの終了は、戦後型政治の終了でもある。

財政論1

パネルディスカッション「都市対地方:財政、公共事業、一極集中の是非をめぐって」発言骨子
日本経済学会2004年度秋季大会(9月25日岡山大学)
司会 東京大学井堀利宏
国際基督教大学八田達夫、京都大学藤田昌久、関西学院大学小西砂千夫、慶応義塾大学土居丈朗、総務省岡本全
私の発言骨子
「なぜ今、都市対地方が問題になるのか」から、問題を整理したい。
1 歴史的、社会的背景(かつての問題)
まず歴史的な経緯から見ておく。
(1)高度経済成長期
経済発展が、地域間の経済力格差を生む。
生産性の高い工業対農業=都市対地方という構図。
しかし日本では、それが政治的対立につながらなかった。
その理由は、次の3つと考えられる。
①人口移動:社会的解決
地方から都市(太平洋ベルト地帯)へ、大移動があった。
農家の二男、三男を都市が吸収
②工業分散:経済的解決
新産業都市建設をはじめ、農村部へ工業が立地。
兼業農家を可能にした。
③農業と農村の保護:政治的解決
米価政策、輸入制限
公共事業を中心とした補助金の配分
「自民党形政治」と呼ばれるもの。
こうして、世界一の経済成長と平等を達成
(2)東京一極集中
このように、高度成長期は、日本全体では「地方対太平洋ベルト地帯」、地方でも「中心都市対農村」という構図。
しかし、その後(1980年代以降)の東京一極集中は、それとは違う。
これについては、八田先生が説明してくださったとおり。
東京一極集中に対し、政治的、経済的に有効な対策を打てなかった。
以上が、日本の都市対地方問題の歴史である。
2 今なぜ問題になるのか
象徴的なのが、「骨太の方針2001」策定時の議論。
「均衡ある国土の発展」という国是を、「地域間競争」という言葉に転換しようとした。そこには、次のような背景がある。
(1)経済発展の終了
財源がないのに、都市から地方への財政移転を続けていることへの疑問。
赤字国債を大量発行しながら、まだ補助金と交付税を配るのか、という批判。
(2)補助金と公共事業の手法への疑問
米価政策は終了。
これまでの農業補助金は、農家を育てたか。疑問。
公共事業は農民と農村を豊かにしているか。疑問。
このまま補助金と公共事業を続けて、地方はよくなるか。
(3)問題の変質
農民は、4%を切った。
農業対策が、地方対策か。
都市対地方は、有効な問題設定か。
有効な地方振興策は、何か。
経済成長の終了=もはや、経済発展が生む地域間格差の問題ではない。
均衡ある国土の達成=公共事業によるインフラ整備もほぼ完了した。
課題を達成したときに、手法は変わるべきであり、また問題の立て方も変わっているのではないか。