2002年欧州探検記(イギリス編)

2002.9.22~10.4
その1:イギリス編 (写真その1
報告書は別にまとめます。これは旅行中に気づいた点を書き留めた「日記」です。今回は、パソコンを携帯して、職場や家との連絡、日記や報告書を書くのに使うことにしました。携帯用といっても、1キログラムありますが。ホテルや車中で書き留めたものです。
その一部については、月刊『地方財政』2002年12月号に制度と運営と-ヨーロッパで地方自治を考える-」にまとめてあります。報告書は「第28回欧州地方行財政制度調査報告書」として刊行されています。ご入り用の方は、地方財務協会にお問い合わせ下さい。
今回の調査
地方財務協会主催の欧州地方行財政制度調査団の団長として、訪欧する機会をいただきました。各国の地方制度は、自治体国際化協会ができてから、調査が充実しました。そこで私は、かねて考えていたテーマを調査の重点に置くこととました。私の関心はいくつかありますが、今回知りたかったのは、制度ではなく「成熟社会の地方自治」です。
日本は戦後、地方自治制度を憲法で位置づけました。そして、自治と民主主義は十分に定着したと言っていいでしょう。では、これで日本の地方自治は完成したのでしょうか。今、地方分権が叫ばれています。第1次分権は成就しました。残る分権は、財政の分権と国の規制をなくすことです。(このあたりは、『地方行政』に連載中の「地方自治50年の成果と課題」をご覧下さい。)
しかし、この残る2つが成就したら、日本の地方自治は完成するのでしょうか。私は、どうも違うような気がします。今年、東京大学で講義を持つ機会をいただいたので、さらにこの問題を考える時間が増えました。今回、訪欧の話がきたので、この問題関心を調査の中心に据えました。
地方団体職員12人と私の調査団です。訪問先は4カ国。
イギリス(クレア・ロンドン事務所、ロンドン郊外のセント・アルバン市)
ドイツ(オランダ国境のイッセブルグ市)
フランス(クレア・パリ事務所、南仏山中のサン・タンニェス村)
イタリア(トスカーナの古い町シエナ)です。
9月22日(日曜日)ロンドのホテル
12時成田発、ロンドン到着16時(現地時間。日本時間23日0時)。今日は、1日がかりで、ロンドンへ。
ホテルの部屋から、インターネットの接続に成功。市内通話でロンドンのアクセスポイントにつなぎ、そこからは提携している会社経由で、日本のプロバイダー(私はニフティ)に接続。市内電話代の他は、国際接続料が1分につき10円。便利なものだ。
23日(月曜日)引き続きロンドン
到着翌日、時差をものともせず朝から調査。自治体国際化協会ロンドン事務所を訪問。安藤所長が自ら、イギリスの地方行政の説明をしてくださる。イギリスも、サッチャー政権以来、地方行政の仕組みや仕事のやり方をどんどん変えている。聞きたいことがいっぱいあったので、時間をはるかに超過して質問をしてしまった。
小さな自治体が、どうして仕事ができているのか?
この答えは、「仕事は、そんなにはしていない」が正解。市町村に当たるディストリクトは、学校も福祉もしていない。日本では県に当たる上部機構がやっている。住民税は、必要総額を住民の資産に応じて割り振る。細かい仕組みは昔のレイトとは変わっているが、資産に応じてというところは同じ。故に、毎年負担額は変わるし、支出が増えると税額が上がる。議員は名誉職。無報酬。
24日(火曜日)(ボーンマスのホテル泊)
今日は、セント・アルバン市(St.Albans)での調査。この町は、ロンドンの北30キロの所にあるローマ時代からの町。人口13万人。ロンドンへの通勤者で人口が増えている。旧市街は、古いたたずまいを残している。周辺の開発も規制が厳しいらしく、林(森)が十分に残されている。住宅開発のために地域規制の解除が問題になっているとのことであったが。
セント・アルバンでの調査は、政策評価を中心に聞いた。専門的なことなので、通訳さんもうまく訳せない。クレア事務所から同行してくれた職員が、助け船を出してくれる。同行してもらったのは「正解」(フランス・イタリアもパリ事務所から同行していただきました。ありがとうございました)。写真1
イギリスの自治体
1 議会
議員は名誉職。故に無給。セント・アルバンの例だと、執行部(内閣、9人)が、議員(58人)の中から選ばれる。この人たちは報酬がある。
本会議は2ヶ月に1回。委員会は6週間とか4週間とかに1回ある。日本との一番の違いは、夜の7時から始まって、3時間ぐらいやること。傍聴人は10人から20人ぐらいくる。ちなみに昨日(昨晩)は、町のパブに音楽などを許可するかどうかを審議する委員会があった。傍聴は、10人ほどが来ていたとのこと(反対派といっていた)。地元紙の記者も来る。いつ、どのような審議をするかは事前に広報するとのことで、来月分の予定表をくれた。
2 住民税
住民税は、必要総額を住民の資産に応じて割り振る。すなわち、所有資産の金額(価格帯)に応じて、税金の額の比率が決まっている。だから、総額が決まると、その比率で案分する。
セント・アルバンで聞いた。「去年と比べどれくらい上がったか?」
「10数%も上がった」との答え。「えっ。では、5年前と比べたら?」と聞いたら、「70%ぐらい上がっている」とのこと。
「住民は反対しないか?」との質問には、「反対はしてるが」といっていた。
「何でそんなに歳出が増えるのか」との質問には、「いろいろ。行政評価とか」と言って、みんなで笑う。「労働党政権はいろんな仕事を増やす」とぼやいていた。ちなみにこの地区は裕福な人多く、保守党と自由党が強い。執行部の長は、自由党である。もっとも、この市は珍しいことに3党連立とのこと。
3 地方自治の母国?
イギリスは地方自治の母国と、私はかつて習ったが、どうも様子が違う。安藤所長に質問したら、「その通り。私も日本人の思いこみだと思う。今度『地方自治』9月号に書いたので読んでほしい」とのことであった。私がそう思うわけ。
(1)自主財源比率
地方税の歳入に占める割合は大きくない。平均で3割自治以下。国からの交付金と譲与税が大きい。補助金も大きいが、これについて陳情はしないとのこと。たぶん、交付基準が透明なのだろう。
(2)中央政府による監査
中央政府による監査がある。もっとも、内閣からは独立した委員会ではあるが。日本の会計検査と違い、かなり権限が強く、かつ広範。
(3)中央政府による指示
強制入札制度やベストバリュー制度、包括評価制度など、最近の地方制度の改革は、すべて中央政府の指示によるもの。毎年のように法律がでているとのこと。事前質問項目で、セント・アルバン市のこれからの重点事業を挙げてもらっていた。その答えの4つのうち、3つが国の指示による評価関係。後の1つは中心部の再開発。
 
しかし、これらを考慮しても、日本より「地方自治」と考えられる。それは、税金を自分たちで決めているということ。課税標準は国が決めているが、必要金額を市内の課税標準総額で割返し、税率を決めているという点が、日本の実態と決定的に違う。
このほかに、選挙の投票率は、国政選挙が70%もあるのに、地方選挙は30%程度とのこと。争点がないらしい。また、地域によって、労働党の強い地域と保守党の強い地域がはっきりしているとのこと。
今日の泊まりは、ボーンマス。ここは、ロンドンの南西60キロの海岸縁の保養地。松林の中に、小さなホテルがたくさん点在している。海岸は、がけの下に砂浜が広がっている。広い意味の英仏海峡になるのだろう。当初、ボーンマスの近くの町を訪問する予定が、相手側の都合によりセント・アルバンに変更なった。それで、ホテルがこんなに離れてしまった。ここのホテルは、食事は・・・な上に、インターネットがつながらない。