カテゴリー別アーカイブ: 生き方

生き様-生き方

ささやかな喜びの重要性

2月19日の朝日新聞オピニオン欄「心潤す、ささやかな喜び」、竹村和久教授の「あなどれぬ、小さな豊かさ」から。

・・・苦しい生活の中で味わうささやかな潤い、喜び。プチぜいたくをしたくなる気分はよく分かります。
人の購買行動や満足感を説明するのに「心理的財布」という概念があります。心の中には複数の財布があり、状況によって別々の財布から支払っている、という考え方です。
スーパーのタイムセールで「50円引き」にこだわるのに、がんばった自分へのごほうびなら数千円~1万円単位の服や靴を平気で買う。同じ値段の化粧品を買うとしても、普段使いのスキンケアのためなのか、衝動買いなのかで心持ちが異なることがあります。

この考えを発展させて、私は「心的モノサシ」というモデルを考えました。消費者は、物を買うときに心の中にあたかも価値のモノサシを持っているかのように意思決定する、という考え方です。そしてその特徴の一つが「モノサシの感度の目盛りは目標値に近いほど狭い」ということです。
1万円の予算で買い物をする場合、5千円と5500円の違いより、1万円と9500円の差に敏感になりませんか。つまり、目標値ぎりぎり付近の喜びは大きくなる。予算ぎりぎりで買おうとしていたものに少し足すくらいの「プチぜいたく」は、この心的モノサシで説明できそうです・・・

千枚の服を捨てたら

2月18日の読売新聞に「1000枚の服 手放して気づいた! 心地よさ=自分のスタイル」が載っていました。原文をお読みください。

・・・ファッション誌編集者の昼田祥子さん(44)は、3年かけて1000着の服を手放した。過程をつづった著書「1000枚の服を捨てたら、人生がすごい勢いで動き出した話」(講談社)は、日々の装いに悩む女性から支持を集める。流行を伝え、消費意欲を促す側の人が、なぜ、どのようにして服を手放したのか?

昼田さんは、20年超の経験を持つベテラン編集者だ。30代半ばまで「同じ服を週2回着るなんてあり得ないと思っていた」。3~4畳のウォークインクローゼットに収まらない服が、隣室のラックにも並んでいたという。
手放し始めたきっかけは、興味本位で使ってみたフリマアプリだ。ブランドの高価な限定品より、使いかけのマニキュアが売れた。「これまで編集者として訴えてきたことが通じないことに、価値観が一気に崩れた」と振り返る。

その後3年かけて1000着近くあった服を50着まで減らした。当初、編集者はおしゃれであるべきだとの思いから整理が進まなかったが、そのうち、服を買い続けてきたのは、自分を大きく見せたいという自信のなさの表れだったと気づいた。「そんなの必要? 何を着ても私は私」

では、どのように手放していったのか。
まず、装うことに対する自分の思いに誠実に向き合った。気づいたのが、「毎朝、コーディネートを考えることに苦痛を感じていた」という事実。気負わず安心できる、心地よい服を身に着けていたい。そんな本心に従って、毎日シャツとパンツで過ごすことにした。おしゃれでも不便なポケットのないパンツや汚れが目立ちやすいブラウス、肌がチクチクするセーターなどを思い切って整理した。
すると、身支度の時間は大幅に短縮されたのに、「スタイルがあるね」と言われるように。「スタイルは作り込むものではない。その人らしさが表れているか、記憶に残るかということ」と話す。
「他人の視点」は不要だ。「大事なのは、どう見られたいかではなく、どうありたいか」と言う・・・

英会話、拙くても自分の言葉で自分の文化を話す

11月1日の日経新聞夕刊コラム「プロムナード」、新見隆・武蔵野美術大学教授「総合芸術の夢」に、次のようなことが書かれています。

イギリスのステンドグラス作家、ブライアン・クラークとの交遊についてです。クラーク氏が来日して、新見さんと展覧会をし、大企業の重役たちに高級レストランで接待されました。共通の話題がありません。社交的なクラーク氏は、くだらない冗談にも楽しそうに相づちを打って愉快そうです。

その夜、二人でバーに行ったら、次のように言われます。
「リュウちゃん、奴らのような、最低な英語を絶対に使っちゃ駄目だぜ。日本のビジネスマンは、だからバカにされる。お前さんは文化人だ。英語は人まねじゃない。拙くても何でも自分の言葉で自分の文化を話す。それが真の文化だ」

会社任せの職業人生

10月29日の日経新聞に「転職で年収増」最高の4割 求められる成果厳しく、降格や退職勧奨も」が載っていました。
・・・転職によって年収が1割以上増える人の割合が約4割と過去最高水準にある。人手不足やジョブ型雇用の広がりを背景に、働き手は転職に踏み切りやすくなっている。一方、外資系企業のように結果が出ない社員に降格や退職勧奨を実施する制度を国内企業の2割が導入する。人材流動化に伴い、日本の労働市場は変化している・・・

記事には、転職希望者が1000万人を超えたこと、正社員の転職率は7%を超えていることも書かれています。
他方で、思うような結果が出ないと給与が減ること。業務改善計画を会社とその社員とで話し合って作ること。それでも結果が出ないと、降格や勧奨退職があることも紹介されています。
社員の流動性の低さは、年収の差にも出ています。外資系企業の年収は部長職で1916万円で、日本企業の1408万円に比べ、4割上回っています。

世界11カ国の転職者を対象にした調査では、将来のキャリア形成のために実施していることはないという比率が、日本は30%、アメリカは2%、中国は3%です。他の国に比べても、日本だけが突出しています。
自分の職業人生を会社に任せていることが、現れています。

田中一村展

東京都美術館で開催中の「田中一村展」に行ってきました。
生前には評価されず、死後に見いだされた作家です。私は1980年代後半から5年間、鹿児島に勤務しました。奄美大島も何度か訪れたのですが、この作家と作品を知りませんでした。

今回の展覧会では、子どもから晩年までの画業をたどることができます。子どもの時から神童と呼ばれただけのことはあります。7歳や8歳で立派な絵を描いています。ただ、その技だけでは、上手な日本画家で終わったのでしょうね。
途中から画風が変わり、そして有名な奄美の植物や鳥を描いた絵になります。素晴らしいです。そして独創的です。アンリ・ルソーの熱帯の植物に通じるものがありますが、一村の絵は日本画を基礎としているだけに、一種の様式美があります。

もし、もっと早くこの画風ができていたら、世の中に認められたのではないでしょうか。