カテゴリーアーカイブ:仕事の仕方

日本型ジョブ型雇用

2026年3月26日   岡本全勝

3月6日の日経新聞経済教室は、濱口桂一郎・労働政策研究・研修機構労働政策研究所長の「導入広がるジョブ型雇用、制度の土台は日本型のまま」でした。

・・・「ジョブ型」というのは奇妙な言葉である。jobという英語が元になっているけれども、ジョブ型に当たる英語(job-type)は存在しない・・・なぜか。雇用にせよ人事・賃金にせよ、世界では職務に基づくのが大前提で、職務に基づかないとは想定しがたいからだ。それゆえジョブ型という用語は、労働に関わるどの言葉に冠しても冗長で無意味となる。
では、なぜ日本ではこの言葉が頻繁に用いられるのか。雇用も人事も賃金も、職務に基づいていないからだ。あるいは少なくとも、職務以外のものに基づいていることが多いからだ。
つまりジョブ型は、日本でそう思われているように特殊なものとして名指しされるべき概念ではない。むしろ逆で、ジョブ型ではない日本のあり方こそ、世界では特殊なものと名指しされるべき概念なのである。
そこで、こうした日本の特殊なあり方を筆者は著書「新しい労働社会」(岩波新書、2009年)で「メンバーシップ型」と名付けた。そして対義語として、世界ではとくに名前もない普通のあり方に対してわざわざ「ジョブ型」という言葉を案出したのである。
ところが、これが日本の文脈に投げ込まれてしまうと、筆者の意図とは全く逆に受け取られることになる・・・

・・・筆者はやむなく21年に「ジョブ型雇用社会とは何か」(岩波新書)を刊行し、正しい理解の普及に努めたが、今日でもなおジョブ型をタイトルに冠する書物の大部分は、新商品としてのジョブ型を売り込むためのコンサルタント本である。
そこで「ジョブ型」とされているものは、パソコンに例えれば基本ソフト(OS)としては従来の日本的なメンバーシップ型の雇用を前提としつつ、OS上で動くアプリケーションソフトたる人事異動や賃金制度において、ジョブ型風味の改革を唱道するものが大部分であるように見える・・・
・・・24年8月には「ジョブ型人事指針」と称する、内閣官房・経済産業省・厚生労働省連名の文書を策定した。ところが、この文書は政府が策定した指針でありながら、政府が企業にこのようにすべきだと指し示す部分はほとんど存在しない。富士通、日立製作所をはじめ20社の人事制度改革の概要をただ束ねただけであり、まえがき的な小文に「日本企業の競争力維持のため、ジョブ型人事の導入を進める」と書かれている。
その20社の実例を見る限り、その主眼は人事異動における社内公募制(ポスティング)と、賃金制度における職務給(職務等級制度)であるらしい。逆に言えば、雇用契約自体は新卒一括採用による職務無限定の正社員モデルでありつつも(つまり雇用のOSはメンバーシップ型のまま)、その上で走らせるアプリはジョブ型風に運用する、ということであろう・・・

噺家もウケる日とウケない日がある

2026年3月20日   岡本全勝

朝日新聞連載「語る 人生の贈りもの」、3月13日は噺家の桂南光さんの「落語はお客さんと一緒に作るもん」でした。

・・・《入門から56年。同じネタでも、ウケる日もあればウケない日もある》
そら、ウケへんかったら多少は気になります。でも、高座で話しているとき、なんか自分を俯瞰するもう一人の自分がおるんです。「うわ、あれだけ稽古してきたのに、今日のお客さんに全然ウケてないがな」と。
ひねった噺が好きなので、笑う人もいれば、全然笑わない人もいてますからね。落語っていうのは、お客さんと一緒に作るもんですわ。ウケないときは「今日のお客さんとはセンスが合わなんだな。自分のお客さんはどこかにおる」と思うようにしています・・・

私も、講義や講演の際に同じ経験があります。私の場合は笑いを取るのではなく、(少々笑いも取りますが)理解してもらうことです。噺家も同じですが、最初の「つかみ」である程度の反応がわかります。

「ボールにみんなが群がる子どものサッカー」

2026年3月17日   岡本全勝

働き方改革を時間で語るな」の続きになります。安永竜夫・三井物産会長は「働き方改革 時間で語るな」の中で「ボールにみんなが群がる子どものサッカーではダメだ。全体像を把握し、各組織・チームで最適な働き方を考える必要がある」と語っておられます。

思い出しました。高校時代にサッカー部に所属したのですが、いくつか金言を教えてもらいました。
例えば、「後ろの声は神の声」です。ボールを持った選手は、前とボールを見ます。周囲を見ることは難しいのです。その際に、横や後ろの選手が声をかけることは、とても役に立ちます。一番後ろにいるゴールキーパーやバックスが書ける声を「後ろの声」という場合もあるようですが。

この「ボールにみんなが群がる子どものサッカー」は、私の頃は「百姓一揆」と呼びました。みんなが一斉に、同じ所を目指して走って行くのです。
攻撃には、空きスペースを使うことが重要です。左サイドから攻めていて、敵の防御も左に寄っていると、右前に空いたスペースができます。右ウイングの選手は、ボールに近寄ることなく、離れてその空きスペースに動いてボールを待ちます。
野球のテレビ中継とサッカーの中継との違いが、ここにあります。野球の場合はボールを追いかけていたら画面ができます。しかしサッカーの場合は、それでは攻撃の善し悪しがわからないのです。

これらの考え方は、官僚になってからも役に立ちました。本人があることに夢中になって、周囲が見えなくなることがあります。その時に、他者からの助言は役に立ちます。また、みんなが同じ方向を向いているときに、少し離れて見てみる、そして別の方向を考えるのです。すると、違ったことが見えてきます。

職場に残る不思議な習慣

2026年3月17日   岡本全勝

2月28日の日経新聞別刷りに「Z世代が選んだビジネスの謎習慣」が載っていました。
・・・あなたの職場に、なぜあるのか分からない習慣はないだろうか。Z世代の正社員1000人に、時代遅れだと思う「ビジネスの謎習慣」をアンケートした・・・
1位「上司が帰るまで帰れない雰囲気」です。へえ、今時そんな職場があるのですね。
2位、有休申請時に「申し訳ありません」
3位、今もなお残るハンコ必須の紙書類
4位、面識がなくても「お世話になっております」と書くメール
5位、休日の社員旅行や社会イベント
まだ続きますが、これくらいにしておきましょう。

働き方改革を時間で語るな

2026年3月16日   岡本全勝

2月22日の日経新聞「直言×労働臨界」は安永竜夫・三井物産会長の「働き方改革 時間で語るな」でした。ウェッブ版では違う見出しになっています。

・・・高市早苗首相の「働いて、働いて」発言で関心が高まる働き方改革。「企業側が残業を過度に抑制している」(高市首相)という主張に対し、「改革に逆行」(連合の芳野友子会長)と議論が白熱する。日本貿易会の安永竜夫会長(三井物産会長)は外国人材の活用も念頭に「時間基準の働き方改革の議論はもうやめよう」と訴える。

―2015年の電通社員の過労自殺が社会問題となり、日本は19年施行の働き方改革関連法などを通じて、残業規制を厳格化した。どんな影響をもたらしたか。
「長時間労働で起きたひずみを発端に進めてきたが、結果的に海外に比べて生産性は上がっていない。長時間労働に賛成するわけではないが、時間だけに焦点を当てた議論はもうやめるべきだ。海外の働き方を基準に個人に裁量を持たせた働き方を模索すべきだ」
「欧米は月単位ではなく、1年など長期単位で達成すべき仕事を設定する。業務が山場の時期は集中して働き、仕事が達成できた時には『2週間休んでいいよ』という裁量を持たせる世界だ。そんな働き方の海外企業と仕事をする機会が増えるなか、日本の管理規制型の働き方はそぐわない」
「健康管理などバックアップ体制が前提だが、仕事をしたい時は徹底的に仕事をしないと達成感は生まれない。日本はそもそも祝日が多く、みんなが一斉に休む。全員が同じパターンで仕事をするのは変だ。自分の休みは自分で取ればいい」
「日本の経済成長の速度は遅く、どんな業種でも新しい仕事を作るのは海外だ。中堅も海外展開する企業が伸びている。社員の労働生産性を最大化するためにも、海外と同じように働き方を変える必要がある」

―短時間労働に慣れた若い世代には裁量労働への反発が予想される。
「若い人は自分のやりたいことをやるために、早く自分のキャリアパスを達成したいのではないか。社会人としてのベースを広げたいのに『午後5時半で帰りなさいはおかしい』と考える若者が比較的多いと思う」
「裁量労働といっても好きなだけ働くわけではない。導入する上で組織として大事なのは一人ひとりの役割・タスクを明確にすることだ。ボールにみんなが群がる子どものサッカーではダメだ。全体像を把握し、各組織・チームで最適な働き方を考える必要がある」
「大きな組織やプロジェクトであるほど、自分が何をしているのか見えなくなる場合も多い。社員に業務の達成感を感じてもらうため、『君の仕事は全体の中ではこんな大事な業務を担当している』と因数分解して説明し、責任範囲をはっきりさせる必要がある」
「日本は同調圧力が強い国だ。だが『上司がいるから帰れない』といった昭和発想の人はかなり減った。働き方改革を見直す中で『労働時間を増やせ』という圧力も出てくるかもしれないが、昭和に戻ってはいけない。時間軸の発想から脱し、生産性を最大化する働き方は何か企業が考え、変えなければならない」・・・