カテゴリー別アーカイブ: 仕事の仕方

生き様-仕事の仕方

中途採用者の増加が与える衝撃

3月26日の日経新聞「銀行変身㊦働き方アップデート」に「みずほ、中途採用数が新卒超え 退職者カムバック歓迎」が載っていました。
・・・新卒で入行し、定年や出向まで勤め上げるのが当たり前だった銀行の働き方が変わり始めた。2023年度の3メガバンクの採用全体に占める中途採用の比率は半分に迫り、みずほフィナンシャルグループ(FG)は初めて中途採用数が新卒を上回る見通しだ。退職者は「裏切り者」という冷たい視線を浴びることもあったが、今では退職者の再入行も当たり前になり、「人材の回転ドア」が回り始めた・・・

3月25日の朝日新聞には、「転職=前向き、若手社員の価値観変化 「スキルつける」早めの決断」が載っていました。
・・・若手社員の転職に対する価値観が大きく変化しています。「早くスキルをつけたい」と転職を前向きに捉える人が増え、SNS投稿が後押しするケースも目立ちます。対する企業は、社員の定着に試行錯誤し、「もったいない離職」を防ごうと対策を進めています・・・
・・・「マイナスな話ではなくて、やりたいことを考え直して逆算した結果、今辞めた方が良さそうだと考えた」。東京都に住む20代半ばの男性は昨年秋、2年半勤めた大手金融機関を辞め、デザイン会社に転職した。
大学時代に就職活動をしていたころは、海外で働けることを優先して企業を選んでいた。だが、次第に空間設計やマーケティングを通じて人を幸せにしたいという夢が出てきた。将来、結婚して共働きになったときに全国転勤を続けることへの不安もあった。
終身雇用へのこだわりもない。転職前にみていた上司の姿は、ハードな働き方をして管理職になっても、自身がやりたかったことはできていないように映った・・・

霞ヶ関の各省も、中途採用が広がり始めました。早期退職者が増えて、新卒だけでは職を埋めることができなくなったのです。他方で自治体では、新規採用でも民間経験者が増えているようです。
この20年間で、労働に関する意識と慣行が大きく変化しました。記事でも書かれているように、転職者が増えたのです。かつては、採用された会社や役所で定年まで勤め上げることが「当然」であり、途中退職者には落伍者の烙印が貼られました。また、そのような人を企業は採用しなかったのです。社員にとっては「楽しくない職場であっても、しがみつくしかない」、企業にとっては「意欲のない社員だけど、飼っておく」という、双方に不幸せな事態が続いていました。

転職が普通になって、外部労働市場が活性化すると、「この職場は私には合わない」と考えれば、転職できるようになったのです。これは、よいことです。少し異なりますが、プロ野球でフリーエージェント制が導入され、優秀な選手はよりよい待遇を求めて移動することができるようになりました。球団は引き留めるためには、処遇を上げなければなりません。
企業や役所は、逃げていく社員や職員をつなぎとめるために、処遇を変えたり職場を変えたりしなければなりません。転職する彼ら彼女らは仕事のできる人たちですから、損害は大きいです。他方で仕事のできない社員は転職せずしがみつきますから、この人たちをどのように処遇するかも課題になります。
社内や役所内での人事方針や仕事の仕方も、変えざるをえなくなります。「やりたい人にやりたい仕事をさせる」「仕事をしない人にはそれに見合った処遇にとどめる」ことが進むでしょう。前者は例えば「手上げ方式」で、社員がやりたい仕事の希望を出し、希望者の中から適任者を選びます。後者は、いつまで経っても同じ仕事で給料も上がらないです。

事業縮小議論、人物が見える

日経新聞「私の履歴書」4月は、三村明夫・日本製鉄名誉会長です。11日の「大合理化」から。
1985年のプラザ合意によって、円高が急速に進み、日本の鉄は国際競争力を失います。1970年に富士製鉄と八幡製鉄が合併してできた新日鉄は、それまでも過剰な生産設備を削減してきましたが、大胆な削減はしませんでした。しかし、いよいよ避けて通れなくなりました。三村さんは計画づくりの事務局責任者になります。6万8千人いた社員を1万7千人、すなわち4分の1に縮小し、12基あった高炉のうち5基を閉めます。

・・・半年足らずのSPC(注、合理化検討会議)だったが、そこで得た学びは米国留学より何倍も大きかったように思う。ひとつは危機は組織再生の好機でもあることだ。長年引きずった課題に決着をつける絶好の機会であり、逃げずに立ち向かえば、企業は再び躍動する。
もうひとつは「聖域なき合理化」とはよくいわれるフレーズだが、実際は侵してはならない聖域が厳然としてあることだ。当社の聖域とは品質や職場の安全だが、これについては後述したい。

最後に人を見る目だ。14人のSPC構成員はいずれも私の上役だが、真剣勝負のやり取りの中で各人の実力や人格が浮き彫りになった。日ごろは偉そうに振る舞う人が急におとなしくなったり、地味な人が誰もがうなずく正論を堂々と開陳したりする場面がしばしばあった。
「上から3年、下から3日」という言葉をご存じだろうか。人を判断するのに上からみれば3年かかるが、部下として仕えれば上司の長所も短所も3日で分かるという格言だ。この言葉はいまに至るまで私自身への戒めでもある・・・

複製、加工、創造

コンピュータがどんどん発達し、人工知能が人間の脳に近づいていると言われています。確かに、過去の文章や画像などの保管、検索と、それを使った文章や画像の作成は、コンピュータが得意でしょう。では、人間に置き換わるのか。私はそうは考えません。

文章を書くことを、例に取りましょう。私たちが文章を書く際には、3つのものがあります。
1は、複製です。すでにある文章を、そのまま写すことです。
2は、加工です。すでにある文章を加工して、よく似た文章を作ります。コンピュータができるようになりました。しかも、たくさんの事例を記憶しているので得意です。しかし、ここまででしょう。

3は、創造です。これまでにない文章を考えることです。
生成人工知能が文章を作ってくれますが、それは「××という要素を入れた文章を、蓄積した文章を参考に作りなさい」と人間が指示することで、コンピュータが働きます。ここには「人間が指示すること」が必要であり、またコンピュータは「過去の文章にとらわれず、新しいことを考えなさい」はできません。
もっとも、私たちも人間も全くの白紙から文章を考えることはできません。日本語自体を、これまで読んだ文章や会話から学ぶのですから。過去に学んだ日本語の文章を基に文章を加工しているとも言えます。

生成人工知能と言いますが、この「生成」という言葉は要注意です。
ワードプロセッサを、文書作成編集機と呼びます。でも、ワープロがすることは、人間が言葉をローマ字やひらがなで入力すると、漢字仮名交じりの表記にしてくれることです。その形を編集できて、印刷できることです。作成も編集も、機械がやってくれるのではありません。人間が行うのですが、その作業が簡単だということです。
プロセッサという英語の意味は、フードプロセッサのように加工です。作ってはくれません。ワープロも正確に言えば、文字変換機でしょう。

野本弘文・東急会長、「予算ありきで考える傾向」

日経新聞私の履歴書、「野本弘文・東急会長、各組織の論理と全体を見る目」の続きです。今日は、3月20日の「渋谷の危機」から。

2000年代後半、東急の本拠地である渋谷の魅力が衰え、銀座、新宿、丸の内、六本木などと比べて存在感が薄くなっていました。駅周辺の建物を高層ビルに建て替える計画が進んでいました。その計画に対して、野本さんは「何か楽しさが足らない」と感じます。
「歩いていて楽しい場所でなければ人は来てくれない」と、新しい企画を提案します。それに対して社内からは「予算をオーバーします」という声が出ました。野本さんは、顧客からどう見えるかを優先します。
「施設の魅力向上に役立つ投資だと思ったからだ。予算ありきで真面目に考える傾向は多くの組織でみられるが、少し発想を広げて顧客をどのように楽しませるか考えてほしい」

この話は、私にとっても耳の痛いことです。県でも、財政課職員、財政課長、総務部長として長年にわたって予算査定に従事しました。第一の「哲学」は、予算の範囲内に抑えることでした。要求額を削減すること(「削る」と言っていました)を、任務と考えていたのです。
富山県総務部長の時、中沖豊知事が事業をじっくりと検討し、時に大幅な増額をされました。それを見て、目が覚めました。ある施設の改修事業案について、職員と利用者のことを考えて計画変更を提案し、予算額を増額しました。知事に報告したら喜んでもらえました。「岡本君も、ようやく分かったか」と笑っておられました。

3月22日の「事故」には、次のような文章も載っています。
「事故から1週間後に開いた集会をはじめ、たびたび社員に呼びかけてきた。
責任は「果たすもの」であって「取るもの」ではないという考え方。もちろん結果によって早々の責任を取らねばならないが、再発防止に向けて組織としては、責任を追及する以上に原因を徹底的に追求する姿勢を大切にしたい」

野本弘文・東急会長、各組織の論理と全体を見る目

日経新聞私の履歴書、3月の「野本弘文・東急会長の若き日の苦労」の続きです。今日は、3月16日の「開発事業」から。子会社社長から本社の開発事業部長に就任されます。

・・・たまプラーザ駅周辺でも大規模な再開発が進んでいた。・・・私が着任したとき、すでに段階的に開発・工事は進んでいたが、計画を変える大きな提案をした。
「駅を覆う大きな屋根をかけなきゃだめだ」。駅と商業施設を一体化するのが目的で、雨の時も傘なしで移動できる。外光をしっかりと取り入れ明るい空間を創り出す。見積もりを取ると10億円強。鉄道部門はそんなお金は出せないという。「それなら駅の施設ではあるが、開発部門のほうで出そう」と、自分の責任で引き受けた。私が担当する前にも屋根をつけたほうがいいという議論はあったらしいが、誰が責任を持つか、なかなか決断にまで至らなかったときく。

組織の論理だと、どうしても事業収支を考えコスト面を優先しがちだが、お金をかけた分は、それに見合う収入を会社全体で増やせばいいのだ。快適で楽しい場所になればお客様は来てくれるはずだ。後日、鉄道建築協会の「最優秀協会賞」を受賞し、駅の乗降客も増え、商業施設にも連日遠方から多くの方が来店するようになった・・・

もう一つ、後ろ向きの姿勢と前向きの姿勢について。
・・・バブル崩壊以降、10年以上にわたって、内向きの姿勢で事業の立て直しに多くの時間を費やさざるを得なかった東急グループ。「選択と集中」を掲げ、大なたを振るってきたが、主要事業の一角であるホテルやスーパーマーケットは、いまだ収益的な課題があり、その改善が急務であった。
「責任ではなく原因を追究しましょう」。越村敏昭社長に進言した。「たしかにそうだな」。誰に責任があるかというアプローチではなく、ビジネスの問題点を冷静に洗い出し、その原因を追究することが大事である。言い出しっぺがやれということで、私が構造改革のプロジェクトも担当することになった・・・