「対立する立場の調整、トリチウム水の処理」の続きです。
利害が対立する課題を、どのように決着をつけるか。安東さんは、避難指示が出た区域での、避難指示解除の事例を紹介します。田村市都路地区です。
まず、政府職員が、現地で暮らした場合の放射線量を測ります。個人線量計を住民にも貸し出し、測ってもらいます。そこで、放射線量が高くないことが確認されます。
避難指示解除決定の直前に、住民への説明会が開かれます。そこでは、解除を求める住民と反対する住民がいて、意見は平行線をたどります。議論が膠着したときに、区長の一人が「そもそもは政府が決めた避難指示だ。解除も政府が決めてくれ」と述べ、政府職員がそれを受けて「解除を決定する」と引き取ります。
・・・そもそも、利害が異なる中で、すべての人間が満足し、納得する判断を行うのは不可能であろう。重要であったのは、ある時点での賛成・反対の結論を一致させることではなく、一定の方向性を模索しながら、最大公約数として、それでよかったと思えるように努力していくことではないだろうか。「それでも、振りかえってみれば悪い選択ではなかったのかもしれない」と思える状況を作り上げていくことが、結果としての利害調整を可能としたように思える・・・
自然科学の世界と違い、世間の問題では唯一の正解があるとは限りません。人によって、考え方が異なるからです。どこかで結論を出して、妥協するしかありません。
その際の「正しい方法」は、十分な手順を踏むこと(手順)と、将来振り返ったときによかったと言えるかどうか(内容)だと、私は考えています。
この項続く。