川北稔著『私と西洋史研究』の続きです。
谷川稔著『十字架と三色旗―近代フランスにおける政教分離』(2015年、岩波現代文庫)が、宗教と社会との関係や社会と政治との関係について、勉強になります。
フランス革命以前のフランスでは、キリスト教(カトリック)が国教でした。生まれた際の登録、結婚の認定、死と葬儀も教会が担当していました。教育もです。宗教と言うより、習俗であり、行政機構であり、住民統合の機関です。それを、フランス革命が否定します。まずは聖職者を公務員とし、次に聖職を放棄させます。教会は閉鎖され、キリスト教に代わる新しい「理性の祭典」や学校教育・社会教育が作られます。壮大な文化革命です。その後、王政復古などを経て、キリスト教は復活しますが、もはや国教に戻ることはありませんでした。しかし、19世紀末から20世紀初めにかけて、教育現場を中心に、宗教色を排除するために、政府の介入とそれに対する抵抗など、大きなエネルギーが注がれます。このあたりの実情は、ぜひこの本をお読みください。各村々では、大変なできごとだったと思います。
それらを経て、現在の政教分離=ライシテが成立します。三色旗(フランス国家)と十字架(キリスト教)との共存に、折り合いを付けるのです。ところが現代では、マグレブや中東からの移民がイスラム教の習俗を持ち込むことについて、対立が生じています。女性がかぶるベール(ヘジャブ)を、学校に着用してよいかどうかです。今度は、三色旗と三日月(イスラム)との衝突です。
「政教分離」とは、近代民主主義憲法が保障する原理の一つですが、国と社会によって成り立ちが異なります。先進諸国では、フランスが最も厳格でしょう。イギリスでは女王が国教会の首長であり、アメリカでは大統領が聖書に手を置いて宣誓します。日本では、戦前の国教であった神道からの分離が問題でした。これまた、かつてはそして民衆の生活現場では、習俗でした。そして、靖国神社の問題があります。
宗教と政治、そのような習俗と政治をどのように折り合いを付けるか。教科書に、唯一の正しい回答は書いてありません。それぞれの国が、解決する=どのように折り合いを付けるかを決めていくしかないのです。この過程が、日本の民主主義に必要です。先進諸国を教科書にしても、書いていないこと。それを、日本国民がどのように解決していくかです。