カテゴリーアーカイブ:行政

こどもの事故予防

2024年8月24日   岡本全勝

日経新聞夕刊「人間発見」8月13日の週は、Safe Kids Japan理事長、山中龍宏さんの「親らが「目を離せる」社会に」でした。
・・・小児科医で「NPO法人 Safe Kids Japan」の理事長、山中龍宏さん(76)は「子どもの事故予防」に40年近く取り組む。科学的な検証で原因を究明。改善策の実行により事故を減らすことで、保護者らの責任や努力だけを追及する社会の風潮に立ち向かってきた・・・

・・・中学2年生の女子が学校のプールの排水口に吸い込まれ、当時の勤務先の病院に搬送されてきました。引き上げられるまで30分も水中にいれば命は病院では救えません。排水口の蓋さえきちんと固定してあれば良かったはずです。文部省(現文部科学省)に電話をすると「私の担当ではない」との答え。「何をバカなことを言っている」と憤りました・・
・・・1985年に起きた静岡県の中学校プールの排水口の死亡事故で、被害生徒の保護者は教育委員会宛に謝罪文を書かされていました。聞き間違いかと思いましたが、静岡の別のプール死亡事故でも、保護者が「我が子が不祥事を起こして申し訳ない」と教委に謝罪文を提出したという。そういう対応が疑問視されない時代でした・・・

明治以来、日本の役所はサービスを提供する側として仕事をしてきました。産業振興や公共インフラ充実だけでなく、教育も医療もそうです。生徒や患者ではなく、学校や病院を相手にしてきました。国民ではなく、提供者側でした。それが、公共サービスを拡充する際には効率的でした。しかし例えば、問題を起こす高校生に学校は困りますが、退学してくれると「縁が切れて」「ほっと」します。国民の側に立った役所は、消費者庁とこども家庭庁くらいです。
この問題を是正するために、提供者側でなく、国民の側に立った役所が必要なのです。私は「生活者省」の設置を主唱しています。

「公共を創る」第155回「「生活者省」設置の提言─「安全網」への転換を明確化」。「国民生活省構想」なお、国民でない人も暮らしているので「生活者省構想」に名前を変えました。

官僚の給与の低さ

2024年8月22日   岡本全勝

8月9日の日経新聞「公務員給与、若手に重点 深刻な官僚離れ対応 賃上げ率なお民間と差」から。

・・・「キャリア官僚」と呼ばれる総合職を志望する学生は大手企業と併願するケースが多い。例えばトヨタ自動車の初任給は24年4月入社の新入社員(学部卒)から25万4000円、日立製作所は25万円とそれぞれ大幅に引き上げた。
国家公務員も総合職の23万円という初任給だけみれば大企業並みの水準だ。それでも全体の賃金水準はなお隔たりがある。

就活生に人気の高い総合商社5社の平均年収はいずれも1500万円を超え、三菱商事は23年度に初めて2000万円台(平均42.7歳)になった。日立も国内従業員の平均年収が935万円(平均42.9歳)に達する。
人事院によると、勧告を適用したモデル給与では35歳の本省課長補佐の年間給与(ボーナス含む)は756万8000円だった。官舎などの福利厚生があり、単純には比べられないものの、著名企業との比較では心もとない面がある。
人事院は新卒採用と並んで経験者の中途採用を重視する。中途採用でも民間との競争が激化しており、不利になる可能性がある。
勧告は民間給与との均衡を重視する。具体的には従業員50人以上の企業の給与水準をみて決める。キャリア官僚を志す学生らが比較対象とするような大企業との給与差を十分に反映できない制度上の限界がある・・・

公務員の給与は、民間の平均を見て決めます。その際の対象が、従業員50人以上の企業です。しかし総合職(かつての上級職)は、東大をはじめとする「有名校」出身です。大銀行や大会社などに就職した大学時代の友人と比較すると、情けなくなります。公務員の方は、難しい筆記試験もあります。
もちろん、若手が職業を選ぶ際には、給与などの待遇だけでなく、仕事のやりがいがあります。しかしその点でも、近年は低下しているようです。このままでは、優秀な若手は官僚を選ばないでしょう。

財政を平時に戻せ

2024年8月21日   岡本全勝

8月9日の日経新聞経済教室は、井堀利宏教授の「財政健全化、将来世代へのツケは最低限に」でした。原文をお読みください。

・・・経済社会がコロナ危機の非常時から脱して、平時の経済状態に戻っているにもかかわらず、また欧米ではインフレ抑制のために財政・金融の両面から引き締め政策が実施されているにもかかわらず、日本では相変わらず非常時という名目で積極財政派の圧力が強い。
岸田文雄政権は、1年限りの減税(1人4万円の定額減税)を6月から実施した。さらに岸田首相は通常国会会期末の記者会見で突如、8~10月に電気・ガス料金の補助金を復活させるとともに、年金世帯や低所得世帯への給付金支給を検討すると表明した。コロナ危機を契機として財政規律が緩んだままの政治環境の中で、苦し紛れのばらまき政策を模索している・・・

鎌田浩毅著『M9地震に備えよ 南海トラフ・九州・北海道』

2024年8月16日   岡本全勝

鎌田浩毅著『M9地震に備えよ 南海トラフ・九州・北海道』(2024年、PHP新書)を紹介します。このホームページでしばしば登場していただく、鎌田先生の新著です。

宣伝文には、次のように書かれています。
・・・「大地変動の時代」に入った日本列島で生き延びるために。「京大人気No.1講義」で名を馳せた地球科学者が、列島を襲う巨大地震を警告!
今後、東日本大震災と同じマグニチュード9の巨大地震が、三つ起こる可能性がある。震源域はそれぞれ、千島海溝と日本海溝、南海トラフ、九州・沖縄沖の琉球海溝である。本書ではこの三つの巨大地震について取り上げるほか、犠牲者最大2万3000人と推測されている首都直下地震や房総半島沖地震、2020年代に桜島や有珠山が噴火する可能性など、警戒すべき大地震を平易に解説・・・

先日、8月8日に宮崎県日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震がありました。「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が出されました。この地震は南海トラフ地震ではないのですが、緊張感を高めました。
時宜を得た出版ですね。アマゾンを見たら、環境分野でベストセラーになっていました。

人権の再発見

2024年8月15日   岡本全勝

最近、基本的人権を考える事例が相次いでいます。
一つは、旧優生保護法で不妊手術を強制されたのは憲法違反だとして、被害者らが国に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁判所が同法を違憲と判断し、国に賠償を命じたことです。この基本的人権侵害は、半世紀も続いていました。同様の事例では、ハンセン病患者が、旧らい予防法による強制隔離について国を訴え、国が受け入れた件があります。(日経新聞8月5日、大林尚編集委員「苛烈な人権侵害に向き合う 強制不妊、責任あなたにも」)

もう一つは、性的少数者の権利を認めるいくつかの判決と、自治体などでの対応の変化です。(朝日新聞8月5日、遠藤隆史記者「記者解説 性的少数者の権利と司法 不利益正す判断続く、社会の変化影響」)
・・・性的少数者の権利を後押しする司法判断が相次いでいる。
日本に限らず、世界中で「男・女」の二分論と異性愛を前提とする社会制度がつくられてきた。その枠組みからはじかれた人たちが、当たり前のように扱われてきた制度を裁判で問い直している。
そして、裁判所の判断はケース・バイ・ケースながら、おおむね前向きに応じるようになっている。最近の司法の動きからは、そんな大きな流れが見てとれる・・・
・・・流れを読み解くもう一つの鍵は社会の認識の変化だ。それが端的に表れたのが、性同一性障害特例法をめぐる大法廷決定だった。
この決定の4年前、やはり生殖不能要件の違憲性が争点になった別の裁判で、最高裁第二小法廷は「現時点では違憲とは言えない」と判断していた。
23年の大法廷決定は、最高裁が4年で判断を変えるに至った理由は明示していない。
ただ、この4年間で性的少数者の権利侵害への認識は確実に広まった。呼応するように、同性カップルの関係を公的に認める「同性パートナーシップ制度」を導入する自治体も大きく増えている・・・

時代とともに、基本的人権が変わるのですね。気になるのは、憲法学者がこれらの点について、判決の前に問題を捉えてどのような発言をしているかです。解釈学でなく立法学としてです。不勉強で発言してはいけないのですが、新聞を読む限り発言はあまり取り上げられていないように思えます。
憲法学者である棟居快行教授の反省を、紹介したことがあります。
・・・遺憾にも私を含む憲法学者の大半は、研究の相当部分を占めるその人権論にもっとも救済を必要とする人々への致命的な死角があることについて、ハンセン訴訟の新聞記事等に接するまで自覚していなかった・・・「優生保護法と憲法学者の自問