カテゴリーアーカイブ:行政

日本の政治、ねじれ脱出後の課題。その2

2013年7月1日   岡本全勝

第二は、党のガバナンス(統治)の問題である。安倍政権に対するこれまでの世論の評価は、おおむね良好である。その背景には民主党政権の混乱との対比でのプラス評価に加え、自民党自身が3年余りの野党暮らしの悲哀を繰り返したくないという思いに駆り立てられていること、特に安倍首相の場合は前回政権時の挫折の経緯から、失敗は許されないという緊張感があったことなどがあると思われる。
現政権では与党との関係を含め、大きな波乱は見られなかった。同時に、政権や与党の自制は「参院選まで」という条件付きとの見方がないわけでない。もし「参院選まで」という条件付きということであれば、質量共に膨大な政治的調整を必要とすると思われる成長戦略の実行にしても、その先行きは安心できない。
民主党と比べ、自民党には物事を決める伝統的なルールが安定的に存在する。しかし、仮に衆参の「ねじれ」が解消し、脅威を与えうる野党勢力が見当たらず、しかも、国政選挙が今後3年間ないということになれば、自民党は自らのガバナンスの力量に多くを依存せざるを得ない・・
将来的には、膨大な数に上る成長戦略の政策項目の優先順位に基づく取捨選択などが必要になるかもしれない。
市場との関係において成長戦略の実行は避けて通れない課題であるが、これまでのように首相や官邸中心の作業だけでは前に進まない。自民党の政権運営の本当の実力が試されるのが参院選後である・・

日本の政治、ねじれ脱出後の課題

2013年6月29日   岡本全勝

日経新聞6月27日「経済教室」「2013参院選―日本の進路」、佐々木毅先生の「ねじれ脱出後に正念場」から。
・・四半世紀前から、日本政府の政策が少子高齢化と社会保障支出の増加という重い制約要因によって拘束されることは予想されていた。冷戦終結後、バブルの崩壊や金融危機、長引く不況とデフレへの埋没など、経済環境の悪化が続き、この制約要因が加重された。さらに、消費税増税は政権の命取りになるとの恐怖感が政治家たちに広くつきまとい、政界と国民との一種の共犯的迷走状態が続いてきた。
すなわち、政界は国民負担の回避にひたすら腐心して自己保身を図り、無駄の撲滅によって問題が解決可能であるかのような議論を広めた。同時に多くの有権者は小さな政府を擁護(負担増を拒否)しつつ、社会保障給付の充実を求め続けるという、かつての高度経済成長時代の意識から抜け出ることができず、そこに独特のなれ合い構造が成立した・・
安倍政権が政治の先の根本的な混迷を打開したいというのであれば、成長戦略と併せて、あるいは、その安定的な遂行のためにも、負担と給付の問題に対する有権者の注意を常に喚起し続ける必要がある。それは自助を強調する保守の重要な役割である。その意味では消費税増税の取り扱いは大きな試金石である。成長戦略だけで全てが片付くというのであれば、無駄撲滅で全てが片付くという話と同じ構造になる・・
この項続く。

役人が妨げる研究

2013年6月23日   岡本全勝

読売新聞連載、秋葉鐐二郎さんの「日の丸ロケット」、6月22日「3機関統合、消えた自由」から。
2003年に、文部科学省宇宙科学研究所(ISAS、旧文部省系)、宇宙開発事業団(NASDA、旧科技庁系)、航空宇宙技術研究所(NAL、旧科技庁系)が統合して、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が発足しました。秋葉さんがかつて所属していた、宇宙科学研究所(かつての東大宇宙航空研究所)も、ここに統合されました。
・・統合前の宇宙3機関は、科技庁系が人員の8割、予算の9割を占めました。圧倒的に科技庁が強い。でも、まあ、今まで通りに研究がやれるなら、別に名前くらい変わってもいいんじゃないの、っていうぐらいの気持ちでした。
ところが、統合したら、そこから先、急に組織の文化が変わっちゃったんだよね。ひどいものでした。大企業が小企業を吸収するみたいな感じでした。
どう変わったかというと、研究の自由が奪われたのです。要は、事業団は役人なんだね。研究者だけでなく、役所出身者も寄せ集めた組織だったからでしょう。何かやろうとすると、すぐ、安全上の手続きが不足しているみたいなことを言う。とにかく、なんでもかんでも書類に書かせる。そして、書類を審査する側が、資料が足りないとか、説明不足とか何とか言って、どんどん研究者の時間を持っていく・・

日本語への引きこもり

2013年6月22日   岡本全勝


朝日新聞6月18日夕刊、藤原帰一教授の「翻訳文化の時代が過ぎて―日本語への引きこもり」から。
・・西欧と肩を並べる国家形成を目指して以来、外国文化の吸収は近代日本の課題だった。科学技術だけではない。旧弊に閉じこもった日本を変えるためには、欧米諸国の政治制度やその基礎にある価値観を学ぶ必要があるという自覚が、近代日本の知識人を支えてきた。
外国の言葉を話し、その知識や文化を伝える官僚、知識人、そして大学が西欧化の担い手になった。外国語を話さない国民には翻訳を通してその成果が紹介された。翻訳を読むだけで外国に発信することはできないし、外国語で意思を伝えることのできる官僚や学者は稀だったから、文化の流入は一方通行だった。とはいえ、外に目を開くことがなければ日本の変革があり得ないという感覚が多くの国民に共有されていた時代はあった。
高校生の頃から、私は翻訳文化を好きになれなかった・・
だが、国外に目を開くことに意味がないと思ったわけではない。翻訳を通すことなく原語を通して外国に学ぶ、いや、ただ学ぶのではなく、同じコミュニティーの一員として外国の人々と議論し一緒に仕事をするのが当たり前ではないか。翻訳文化とはその状態に変わる前の過渡的な現象に違いないと思っていた。
実際、翻訳文化とその時代は過ぎ去った。だが、代わって訪れたのは原語を通し国境を超えて議論を行う空間ではなく、日本語を読み、日本語で考え、翻訳された文章さえもあまり読まない空間だった・・
第2次世界大戦中のように政府によって強制されるからではなく、日本の外に広がる意味空間を、自分の選択によって排除するのである。
アメリカ人だって英語だけで勉強するひとがほとんどなのになぜ日本人が外国語を読まなければいけないのかと言う人がいるだろう。だがイヤな言い方を承知で言えば、外国語、特に英語で書かれた文章は、質量ともに日本語で構成された空間とは比較にならない。東西冷戦終結後の四半世紀、ヨーロッパでも韓国でも中国でも英語で構成された空間のなかで活動する人々が急増した。英語を母語としない人も英語で発信し、学術成果を発表するのが当たり前になった。英語を使わないと仕事にならないのだから無理もない。
ところがその時代の日本は、以前よりも日本語の世界に引きこもっていった。経済成長も達成し国内だけで大きな市場を持つのだから外国に目を向けなくても生きていける。英語を使わなくても豊かな生活を保持できるのは幸福だと言うこともできるだろう。しかしその幸福は、ものを知り、考え、議論する空間が日本語の世界に縛られるという犠牲と引き換えに得られたものだった・・
部分的に紹介するだけでは、先生の主張が正しく伝わらないので、原文をお読みください。

衰退の原因

2013年6月12日   岡本全勝


南川高志著『新・ローマ帝国衰亡史』(2013年、岩波新書)を読みました。あのローマ帝国が滅亡したことに、多くの人は感慨を持ち、その原因を知ろうとします。
結果には、原因があります。特に「失敗」の場合には。かつてこのページでも紹介しましたが、プロ野球の野村監督がよく使う言葉に、「不思議な勝ちはあるが、不思議な負けはない」のです。
いろんな要素が絡み合って、結果が出ます。隆盛を誇った組織が衰退したときに、誰しもが「なぜ?」と思います。そう簡単に、例えば3行で表現することは難しいとわかっていても、私たちは「単純な答え」を求めます。南川先生の本も、その一つの答えだと思いますが、成功しているかどうかは、それぞれお読みになって、判断してください。
まず、東ローマ帝国と西ローマ帝国は、ほぼ千年もの時間差をおいて滅亡しています。よって、原因は違うのでしょう。この点は、南川先生の本が参考になります。
次に、滅亡とは、何をさして言うのか。王朝が途絶えることで滅亡というのか、その国を国たらしめている要素がなくなったときに滅亡というのか。軍人皇帝が次々と擁立され廃位されても、ローマ帝国はローマ帝国でした。他方で、王様の子孫がどこかで生きていても、国の中心が別の勢力に支配されていたり、国の仕組みが大きく変化していたら、それは「別の国」でしょう。その点では、ローマ帝国が滅亡したときに、かつての帝国や共和制を支えた「元老院」は、何をしていたのでしょうか。
西ローマ帝国が衰退・滅亡した要素は、何か。逆に、西ローマ帝国の末期に、帝国を支えていた要素は何か。地中海ではなく「ゲルマンの森」であり、ローマ市民ではなく「ゲルマンの民」であったのです(先生は、ゲルマン民族はなかったと主張しておられるので、誤解のないように)。しかし、それでも当時の人は、「我々はローマ帝国の市民だ」と考えていたのでしょう。
私が関心を持っているのは、ある国や組織が衰退したときに、それが外的要因(フン族の侵入なのか、自然環境の変化なのか)、内的要因(組織の腐敗か、社会構造の変化・指導者層の怠惰と安逸か)なのかです。多くの場合、外から攻められて崩壊したことより、組織内部がうまく処理できなくなって崩壊したと思います。それが顕在化するのが、環境の変化です。古代ローマ帝国を考えなくても、1990年代以降の日本、近年破綻した企業や銀行、さらには1941年の日本帝国(特に陸海軍)・・。