カテゴリーアーカイブ:行政

行政指導

2018年10月27日   岡本全勝

個人情報保護委員会が、10月22日にフェイスブック社に対して、行政指導をしたとニュースがありました。例えば、日経新聞
「・・・個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第41条及び第75条の規定に基づき、次のとおり指導を行いました・・・」

第41条は、次のような条文です。
(指導及び助言)
第四十一条 個人情報保護委員会は、前二節の規定の施行に必要な限度において、個人情報取扱事業者等に対し、個人情報等の取扱いに関し必要な指導及び助言をすることができる。

「行政指導」という言葉を、久しぶりに聞きました。
ウィキペディアによると「行政指導とは、日本の行政法学で用いられる概念であり、行政手続法は、行政機関(同法2条5号)がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいうと定義している(同条6号)」

かつて、「行政指導」は法律に具体的根拠なく役所が行う指導(明示規定はないが、所掌事務の範囲で行うもの)で、行政学と行政法学では一つの論点でした。今回の行政指導は、法律に具体的根拠のあるものです。
第41条を見る限り、フェイスブック社は何もしなくても、不利益処分は受けないのでしょうか。

夏目漱石の孤独

2018年10月17日   岡本全勝

10月12日の朝日新聞文化欄「いま読む漱石」、奥泉光さんの発言「人と交われぬ孤独が主題」から。

・・・一見明るい『坊っちゃん』だが、奥泉さんは「暗い」という。相手にけしかけられて2階から飛び降り、ナイフで指を切る。「こういう人は困りますよね。他人とコミュニケーションが全く取れない」。生徒にからかわれて激怒するだけ、彼らと仲良くならない。「もし20年後に同窓会があったなら、当時対立していても同じ土俵でやりあった赤シャツと山嵐が仲良くしゃべっているかもしれない。生卵を投げていた坊っちゃんは、その同窓会に呼ばれてすらいないのではないか」

『吾輩は猫である』も奥泉さんが読めば「あの猫ほど孤独なものはいない」。車屋の黒や三毛子は3章以降に消え、その後は人間しか出てこない。「猫は人間の言葉を理解している。しかし人間は猫が言葉を理解していることに気づかない。このコミュニケーション不全はつらい」

漱石が書いていたのは、「コミュニケーションに失敗する人の孤独」だ。現代人にそのまま重なる。「孤独になりたいわけではない。人と交わりたいのにそれができないがゆえに孤独に陥る。深刻な孤独の位相が繰り返し出てくる」・・・

自由貿易への反発は、国内問題から

2018年10月16日   岡本全勝

10月5日の日経新聞オピニオン欄、パスカル・ラミー前WTO事務局長の「自由貿易の土台 まず国内から」から。

・・・米欧で自由貿易への反発が広がるのはなぜか。痛みを感じる弱者が適切に扱われていないからだ。グローバル化の勢いが増す一方で、弱者を救済する社会システムが衰えている。ポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭は、国内の問題に原因がある。
だから保護主義を封じ込めるには、求められる努力の80%程度を国内に向けなければならない。労働市場や失業保険、年金・医療などの問題を解決する必要がある。これらは世界貿易機関(WTO)が取り組む課題ではない。

残りの20%は国際的な努力だ。貿易自由化のルールブックを更新せざるを得ない。先進国は互恵的な自由貿易を志向し、途上国には非対称性や柔軟性を認めるというのが、WTOの方針だった。だが貧しい国民が多い先進国もあれば、豊かな国民が多い途上国もある。いまの二分法が正しいかどうかを検証すべきだろう・・・

原文をお読みください。

高岡望さんの新著『グローバリズム後の世界では何が起こるのか』

2018年10月15日   岡本全勝

高岡望さんの新著『グローバリズム後の世界では何が起こるのか』(2018年、大和書房)を紹介します。すばらしい切れ味の分析です。国際政治、国際秩序、そして学者や私たちが考えていた理想の世界像が大転換していることを、極めて明晰に分析しています。

アラブの春の勃発、イギリスのEU離脱、ヨーロッパ各国でのポピュリズムの台頭、そしてアメリカでのトランプ大統領の誕生。私たちにとって想定外の出来事が続きます。
「そもそも想定が間違っていたのでしょうか。そうであれば、なにか世界情勢を見通す指針のようなものが、見つからないのでしょうか。この本は、そんな思いにこたえるために著したものです。」(本書p1)

私も、大学で学んで以来、世界は経済発展し、相互依存を強め、多少の行きつ戻りつはあっても、国際統合に進むものと考えていました。その際の推進役は、アメリカ、西欧、日本であり、経済成長と国際貿易と政治哲学だと思っていました。イギリスのEU離脱、ポピュリズム、トランプ大統領は、大きな歴史の流れでは「困ったエピソード」と考えていました。でも、この本を読んで、そうではないと思うようになりました。

筆者は、「世界政治のルールが、20世紀型から21世紀型に変わってしまったのだ」と考えます。そして次のような仮説を立て、4つの地域の将来を予想します。
1 世界全体が21世紀に入り、百年に一度の大転換を迎えた。
2 大転換後の21世紀には、グローバリズムに対抗して、世界各地でナショナリズムが復活し、盛り上がる。

4大地域の将来予想は、次の通りです。
1 アメリカの分断は深まるのか
2 ヨーロッパの将来はどうなるのか
3 中東の混乱は続くのか
4 中国の夢は実現するのか

IT産業や金融の発展とグローバリズムが、世界経済を発展させました。ところが、困ったことに、その恩恵は一部の大金持ちに集中し、これまでの経済と社会ひいては民主主義を支えていた中間層が貧しくなったのです。経済の発展は国民を豊かにし、社会を安定させるという「法則」が成り立たなくなりました。そして、彼らが、グローバリズムに反旗を翻したのです。
この説に立つと、各国での社会分裂、ナショナリズムはさらに進行し、政治が不安定になるとともに、国際化は停滞するでしょう。

紀伊國屋新宿本店でも売れ筋新刊コーナーに山積みされ、私の近所の町の本屋さんにも並んでいました。それだけ反響が大きいということでしょう。

高岡さんは外交官で、これまで、アメリカ、イギリス、イタリア、スウェーデン、エジプト、イランでの経験があります。その体験と、深い洞察力とで、できあがった本です。
イギリス・エディンバラ総領事として、先日旅立って行かれました。彼の地での活躍を期待しています。

田中秀明・明大教授。官僚、1ポスト3年原則に

2018年10月13日   岡本全勝

日経新聞10月4日の「政と官」、田中秀明・明大教授の「1ポスト3年原則に」から。
・・・霞が関からの人材流出は、長時間労働など仕事がブラックであることと、やりがいが失われた点が大きい。忙しくても専門性が身につけばいいが、実際は夜中に国会議員の質問通告を待つとか、その答弁を書くといった生産性の低い業務を重ねている。霞が関で通用する暗黙知は身につくが、市場価値は高まらない・・・

・・・年次主義と順送り人事がセットになっているから組織が活性化しない。事務次官が1年で代わることが多いが、大きな弊害だ。リスクを取って課題に挑戦することは難しく、上司の意向を忖度(そんたく)し、うまく立ち回る方が合理的になる。「1ポスト3年」を原則とし、成果で人事評価すれば霞が関は変わる。

公務員の任用には政治任用と資格任用がある。米国は局長以上は政治任用で大統領が任免する。大統領へ従順に仕える『応答性』が求められ、政治家の分身として政治的な調整もする。ただ課長までは能力や業績で任命する資格任用で専門性が重視される。英国などは次官に至るまで資格任用で、代わりに政治任用の大臣顧問がいる。

米英とも政治任用と資格任用を明確に区別している。日本は曖昧で、安倍政権では資格任用の一般の公務員が、首相や官房長官らの裁量で選ぶ(事実上の)政治任用になっている。幹部公務員は「応答性」を強く求められ、忖度に走る・・・

・・・日本の公務員が政治化していることに問題の根源がある。一般公務員が政治的な調整や根回しを担って各省庁の利益の拡大を図る一方で、専門性に基づく分析や検討はおろそかになっている・・・