カテゴリーアーカイブ:行政

病児保育

2021年6月11日   岡本全勝

6月4日の読売新聞夕刊に「病児保育ピンチ」という記事が載っていました。
・・・働きに出ている保護者らのために、病気になった子供を一時的に預かる「病児保育」の施設が、苦境に立たされている。新型コロナウイルスの感染拡大に伴って利用者が激減する中、運営の「頼みの綱」となる国や自治体からの補助金も今後、大きく減るとみられるためだ。閉鎖の危機に直面している施設もある・・・

・・東急田園都市線の終点・中央林間駅に近い同施設は、都心に通勤する共働き家庭の利用も多い。開所した2018年度の利用者は108人だったが、19年度には4倍の453人に増えた。20年度には800人程度の利用を見込んでいたが、新型コロナの感染拡大が重なり、1年間でわずか40人と、前年度比で9割減となった。
施設を運営するには、看護師や保育士らの人件費だけでも年間約2600万円かかるというが、コロナ禍による利用者の激減で利用料収入が大きく減った。
さらに、国や自治体からの補助金は利用実績に基づいて算定される。20年度は、利用者が減っても例年並みの補助金が支給される国の「コロナ特例」の措置が実施され、約1000万円の補助金がもらえたが、今年度は適用されず、経営への不安は拭えない・・・

両親が働きに出て、あるいは母子家庭などで母親が働きに出ると、保育園や学童保育は必須です。さらにここで取り上げられている病気の子どもは、より支援が必要です。
医療の提供だけでは不十分で、この子供らの世話が行政の責務でなく、民間に委ねられていることもおかしな話です。

個人の尊重、個人データの保護と利活用

2021年6月10日   岡本全勝

6月2日の朝日新聞オピニオン欄「DX(デジタル化による改革)なんのため?」、曽我部真裕・京都大学教授の発言「利活用で個人の尊重を」から。

・・・民間ではDXが進み、行動履歴までもがデジタル技術で個人データとして記録され、やり取りされています。
なぜ行政のDXだけがこんなに遅れたのか。理由は、個人データの「利活用」よりも「保護」に長らく重きが置かれてきた歴史にあります。
プライバシーという権利は日本国憲法には明記されていませんが、13条が定める「個人の尊重」から導き出されて保護されてきました。データの「利活用」は、情報の漏洩や乱用などは13条で保障されるプライバシー権の侵害になります。さらに、個人のデータがプロファイリングなどのデジタル技術で分析され、意思や選択を操作されることは、「個人の尊重」を脅かすとみなされてきたのです。

しかし、コロナ禍は、行政が個人データを適切に扱えないことが、別な意味で「個人の尊重」という価値を損ねていることをあぶり出しました。この苦い経験を踏まえてこれからの行政は「個人の尊重」を保障するために、データの積極的な利活用に踏み切るべきではないでしょうか。
その際、自分のデータがどこでどのように使われているかを知ることができる透明性の高い仕組みにすることが不可欠です。また、霞が関のシステム改革や民間人材の登用も必要になるでしょう・・・

子ども政策、貧困以外の困難

2021年6月9日   岡本全勝

子ども政策、予算の効果」の続きです。中室牧子・慶応義塾大学教授の「縦割りの排除、自治体でも」には、次のような指摘もあります。

・・・子供政策での行政の縦割りの弊害とはどのようなものか。筆者らの研究グループは認定NPO法人カタリバとともに、コロナ禍の下での経済困窮世帯の子供たちを調査した。経済困窮以外の課題を同時に抱える世帯は、実に全体の40.2%にものぼる。経済困窮に加え、19%が発達障害、7%が身体障害があり、13%が不登校になっている。
このデータを基に、経済困窮のみの世帯の子供と、それ以外の課題も抱える子供の学力や非認知能力を比較した(図参照)。経済困窮以外にも重層的に課題を抱える子供は、問題行動が顕著で、不安感が強く、学力や非認知能力など人的資本の形成でも著しく不利な状況に置かれている。

しかし行政の視点でみると、発達障害や身体障害は健康・保健関連部署、不登校は教育委員会、経済困窮は福祉関連部署の担当だ。行政の縦割りにより、保健・教育・福祉の所管横断的な情報共有が妨げられ、重層的な課題を抱える子供に対する支援が十分になされているとはいえない。
保健・福祉・教育の所管横断的な情報共有は、虐待や自殺など、放置すれば生命の危機に及ぶ異変を速やかに察知するうえでも重要だ。虐待や自殺などのリスクにさらされている子供に対しては、問題が生じた後で「介入」するよりも「予防」する効果の方が大きいことを示す研究は多い・・・
詳しくは原文をお読みください。

子ども政策、予算の効果

2021年6月8日   岡本全勝

6月1日の日経新聞経済教室「子ども庁、何を優先すべきか」、中室牧子・慶応義塾大学教授の「縦割りの排除、自治体でも」から。

・・・社会保険、教育、職業訓練、現金給付など公共政策は多岐にわたる。だが過去50年の米国の133の公共政策を評価した最新の論文によれば、最も費用対効果が高いのは子供の教育と健康への投資だという。子供の教育や健康に投資した政策の多くは、子供が大人になった後の税収の増加や社会保障費の削減により、初期の支出を回収できていることも示されている。
とりわけ幼少期の教育投資の収益率が高いことを示す研究は多いが、あまり知られていない。英国での研究によると、子供をもつ親は、子供の学齢が高いほど教育の費用対効果は高く、幼少期の投資とその後の投資は補完関係ではなく代替関係だと認識している。
そして驚くべきことに、親だけでなく幼稚園教諭・保育士・小学校教員ですら、幼少期よりももっと学齢の高い教育段階の方が重要だと考えている・・・幼少期の教育投資の効果が特に大きいのは、貧困世帯の子供たちだ。このためノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン米シカゴ大教授は、貧困の世代間連鎖を食い止めるには、所得の再分配よりも、不利な状況にある子供の幼少期の生活を改善する「事前分配」の方が経済効率がよいと主張する・・・
この項続く

2021年5月27日日本記者クラブ資料、2

2021年6月7日   岡本全勝

2021年5月27日に日本記者クラブで使った骨子を、載せておきます。その2です。「その1

Ⅱ 対策案
制度改正でなく、運用の問題
1 官僚は政策の専門家に
課題と政策案を提示し、大臣の方針に従って具体化するのが官僚の役割
(1)政策課題の整理
成熟社会日本の課題は何か
事務次官と局長は、今後(3年から5年)取り組むべき課題群と進むべき方向を提示する。それを基に、大臣、必要なら与党と議論。

(2)制度所管思想から、課題所管思想への転換
現行制度を守ることや「それは制度にありません」ではなく、社会の課題を拾い上げ、対策を考えることを任務へ
公共サービス提供(制度整備)と産業振興から、社会の課題解決へ。 生産者や提供者側支援から、生活者支援への転換を。格差、孤立、つまずいた人、自立できない人、定住外国人・・・
前衛の役割から、前衛と後衛の役割に。優等生を育てるとともに、困っている人の支援を。多様な意見の吸い上げ。
「生活者省」を作ってはどうか。

(3)専門家の採用と育成
これまで「何でもこなせる官僚」を育てた。政策の専門性を持った官僚は少ない。
より専門性を持った官僚に。人事や部局の縦割りは必要
短期間での人事異動の是正
法学系だけでなく各政策分野からの採用
(ITや会計の専門家は、民間から採用も可能)

2 幹部官僚の育成
(1)幹部と「一般職」の区別
国民はどのような官僚像を求めているのか。エリートか労働者か。
処遇とやりがい。長時間労働、魅力の無い職場。応募者の減少
企業幹部と比べ低い幹部官僚の処遇。民間からの採用ができない。
①「一般職」は、民間労働者と同じ待遇に
働き方改革の時代に、無定量の労働を求めるのは時代錯誤
②幹部官僚は、そのための育成が必要
専門政策分野を持ちつつ、広い視野と改革思考を育成する
官邸・国会などとの関係の訓練。内閣官房・内閣府での勤務経験
③内閣官僚の育成
官邸や内閣官房で、総理を支える官僚群の育成

(2)全体最適を考える幹部官僚を
発展途上時代は、部分最適(各部門を伸ばすこと)が全体最適に
成熟時代には、部分最適は全体最適にならない
大幅赤字予算、膨大な借金
政策の優先順位付けと、負担の配分が必要

(3)やってる感でなく、後世の評価を考える幹部官僚を
毎日忙しいが、それが国民のためになっているか。
現時点での国民の評価と、10年後の国民の評価
「あの時やっておくべきだった」とならないように、常に「10年後の説明」を念頭に、取り組むべき課題を整理

3 政と官の役割分担明確化
(1)大臣との役割分担
①あるべき姿
大臣=政策の優先付けと方向性の指示、決定、官僚機構の監督
官僚=政策課題の提示、大臣の指示に沿って立案、具体化と報告
双方の意思疎通と、大臣による決定と官僚による具体化
②官僚にやりがいを持たせる
「意見を聞いてもらえる」「任せてもらえる」「改革が実現する」「社会に役立つ」

(2)政策の大小の分別
①総理が取り組む政策、大臣が取り組む政策、官僚が取り組む政策の分別をして欲しい。
・経済財政諮問会議や安全保障会議で議論する案件
・総理が大臣に指示する案件
・大臣が官僚に指示する案件
②総理と大臣には、政策体系と優先順位を示して欲しい。
個別課題の前に、全体としてどちらを向いて仕事を進めるのか。「マニフェスト」の復活も

(3)諸外国、地方自治体も参考に
自治体の多くでは、「政と官」は問題にならず。

Ⅲ 論議の場が必要
これまで、本格的にこのような議論をしてこなかった。
単発の批判ではなく、改革に向けた議論の蓄積を
制度論でなく、運用論

1 国家行政や官僚のあり方について、議論の場がない
学会や政策共同体がない。地方行政との違い。
官僚が発言する場がない。
多くの各省各局の所管行政について、専門誌がある。しかし、国家行政全般については、見当たらない。

2 議論の蓄積を
官邸、内閣官房、各省について、概説書や解説書がない
制度解説はあっても、運用についての、事実や議論の蓄積がない
改革議論をする際にも、官僚育成をする際にも、その基礎がない

3 基礎資料の調査
先進各国は、政府が国家公務員全体の意識調査を行い、人事制度の検討をしている。また、集計データを公開している。
日本では、村松岐夫・京大教授がかつて実施されたが、中断。北村亘・阪大教授が再開。

(参考)
麻生総理の主な政策体系「私の目指す日本」

東日本大震災被災者支援本部の記録。政と官との役割分担例

北村亘教授「2019年官僚意識調査基礎集計」

(拙稿。行政と官僚のあり方に関して)
『省庁改革の現場から-なぜ再編は進んだか』(2001年、ぎょうせい)
『新地方自治入門-行政の現在と未来』(2003年10月、時事通信社)
連載「行政構造改革-日本の行政と官僚の未来」月刊『地方財務』(ぎょうせい)2007年9月号から2008年10月号まで、未完
「行政改革の現在位置~その進化と課題」年報『公共政策学』第5号(2011年3月、北海道大学公共政策大学院)
『東日本大震災 復興が日本を変える-行政・企業・NPOの未来のかたち』(2016年、ぎょうせい)
連載「公共を創る-新たな行政の役割」『地方行政』(時事通信社)に、2019年4月から連載中