カテゴリーアーカイブ:経済

広がる転職手法、民間サービス経由が4割

2025年10月22日   岡本全勝

9月30日の日経新聞「広がる転職手法、民間サービス経由が4割」から。

・・・転職の手法が多様化している。国のハローワークの存在感が低下して民間サービスを経由した転職が約4割を占めるようになる中、主力の求人広告や人材紹介に加え、求人検索や、企業が求職者に直接アプローチするダイレクトリクルーティングなども増えた。活発になる転職市場を支えている。

厚生労働省の2024年の雇用動向調査によると、転職者の入職経路は広告が33%、縁故が22%、ハローワーク(ネットサービス含む)が18%、民営職業紹介所が8%となっている。ハローワークのシェアは低下傾向で10年前に比べ6ポイント下がった。民間の広告と職業紹介所の2部門合計は4ポイント高くなった。
民間が利便性の高いサービスと積極的な営業で攻勢をかけている。とはいえ手数料無料のハローワークは経営余力の乏しい中小・零細企業には大切な存在だ。働き手も失業保険の手続きなどで訪れる必要があり一定の需要がある。社会のセーフティーネットとしての役割も担う。

マイナビ(東京・千代田)では転職者を対象に、さらに具体的な転職関連サービスの利用状況を調査した。応募時に利用したサービスについて複数回答で聞いたところ、24年調査では求人広告などを掲載する転職サイト(32.6%)、人材紹介会社(19.3%)、ハローワーク(13.9%)の順に多かった。
これに求人検索エンジン(10.0%)が続く。リクルートグループの「インディード」が代表的だが、網羅的に求人情報を集めることができ「若者から中高年まで幅広く利用者がいる」(マイナビのキャリアリサーチ統括部)。
さらに「ビズリーチ」などのダイレクトリクルーティング(6.9%)も利用が広がる。登録求職者に企業側からアプローチする手法だ。採用難が続く中で企業は「攻め」の採用ができる。働き手も想定外の企業から提案を期待できる。

3〜5%台の利用率まで含めると、職場の雰囲気や経営者の声を伝えるSNS(5.5%)、退職者を再雇用するアルムナイ(4.1%)、商品利用者や愛好家などを集めたイベントを採用活動に使うミートアップ(3.2%)など多種多様だ。
一方、従来型の合同企業説明会(5.7%)の利用も根強い。企業の担当者と対面でやり取りできる強みがある・・・

従業員を増やす企業、減らす企業

2025年10月17日   岡本全勝

10月15日の日経新聞に「日立、送配電機器部門で世界1.5万人追加採用 AI特需対応へ3割増」が載っていました。
・・・日立製作所は送配電設備の分野で2027年までに1万5000人を追加で採用する。欧米やインドなど世界で開発・生産体制を整備する。電力を大量消費する人工知能(AI)向けデータセンターの増加により、世界的に送配電能力が不足している。電力インフラの増強を支え、AI普及を後押しする・・・

久しぶりに、元気な話題を聞きました。この30年間、企業はリストラを進め、従業員を減らしました。しかし、おかしいですよね。業績が良ければ、授業員を増やすはずです。業績不振で、一時的に従業員を減らすことはあるでしょう。しかし、減らすことを掲げる社長は、それだけでダメなはずです。

コストカットを大胆に進め、「コストカッター」と呼ばれた経営者もいました。高い評価を得たのです。でも、経費を削減することは良いことでしょうが、従業員や設備、研究費は、経費でしょうか。次の製品を生む「元手」、資産ですよね。

「為替は操作可能」誤った認識

2025年10月12日   岡本全勝

9月25日の朝日新聞「プラザ合意40年」、渡辺博史・元財務省財務官の「「為替は操作可能」誤った認識植え付けた」から。このような論考は、当時の当事者で、その後の動きを観察していないと、できないことでしょう。

・・・米国経済を救済するために、主要国で協調してドル高を是正しようとしたのがプラザ合意だ。当時は主要5カ国の経済規模が大きく、為替市場での存在感も強かった。
だからこそ協調してドル安に誘導することに強いメッセージ性があり、実際に為替レートも動いた。ただ、仮にプラザ合意がなくても、当時の米国経済の悪さを考えれば、いずれ市場の力でドル高は修正されていただろう。

だが、もう同じことはできない。欧州でユーロという複雑な構成の通貨が誕生し、さらに中国やインド、新興国の台頭で、当時のG5や現在のG7の世界経済に占める規模は相対的に小さくなった。自国第一主義が広がり、各国が協調して物事を決めることも難しい。仮に協調できたとしても、規模が格段に大きくなった為替市場を操作することは無理だろう。
だからこそ現在のトランプ政権は、為替政策ではなく、関税政策で各国に注文を付けている。当時と異なり米国経済は景気が良い。大手テック企業の誕生など、イノベーションも起きた。だが、国内の富の再分配で失敗し、国民の不満が高まっている。米国内の問題だが、これを関税により、外国との問題に転嫁している。

為替を動かすことに成功したプラザ合意だが、日本にとっては、為替市場は誰かが手を出せばコントロールできるという誤った認識を植え付けた。その後の国民や政治家の為替市場に対する認識をゆがめ、日本の産業界のイノベーションに対するモチベーションが下がった面がある。
日本は為替市場への認識をあらため、産業のイノベーションを促す政策を進めるべきだ・・・

河野龍太郎著『日本経済の死角』

2025年10月11日   岡本全勝

知人に勧められて、河野龍太郎著『日本経済の死角』(2025年、ちくま新書)を読みました。新聞の書評でも取り上げられています。知人に勧められていたのですが、遅くなりました。この30年間の日本経済の停滞を、主に雇用と賃金の観点から分析します。特徴的な点を列記しましょう。
・日本の長期停滞は、大企業が儲かっているのに、ため込んで賃上げや人的投資をおろそかにしてきたこと、社会の変化で家計のリスクが変わったのに、それに応じた社会保障制度が整えられなかったことによる。だから少子化も加速している。
・1998年を100とすると、2023年までの間で生産性は30%上昇したのに、実質賃金は横ばい。この間に労働生産性は、アメリカは50%増加、ドイツは25%、フランスは20%増加。実質賃金は、アメリカは25%増加、ドイツ15%、フランス20%増加です。
・企業が賃金を抑えたので、個人消費が低迷した。
・ベースアップがゼロだったが、正規労働者は定期昇給があり、毎年2%程度、25年間で1.7倍になります。この人たちを見ていると、「給料は上がっている」と見えるのです。他方で、非正規労働者は2割から4割近くに増えています。
・定年の65歳への延長、女性の労働参加拡大、外国人労働者増加が、労働市場の逼迫を遅らせた。それが、賃上げを遅らせた。
・1990年代の週48時間労働から40時間労働への変更は、賃金上昇を伴わず、生産性の低下になった。しかし、バブル経済で問題は隠され、バブル経済崩壊後に悪影響が表れた。
・ジョブ型雇用は、一発屋とゴマすりを増やす。必要なのは長期雇用制の維持と早期選抜の導入。

ここでは、ほんの一部だけを紹介しました。鋭い、説得力ある説明だと思います。へえと驚くことと、私の主張と重なることがあります。一読をお勧めします。
経済学者の論文はしばしば算式が多く難解ですが、現在日本経済への切り込みは少ないように思います。この本は、新書で薄いですが、それ故にわかりやすいです。学者の本に比べ数倍の価値があると思うのですが。いかがでしょうか。
日本の政治家や経営者は、この本を読んでいるのでしょうか。「利益を貯め込んで、賃上げや人的投資をおろそかにしてきた」という不都合な真実について、意見を聞きたいものです。

IT人材、日本が安い

2025年10月5日   岡本全勝

9月24日の日経新聞夕刊「富士通の海外体制「量から質」に 労働力高騰、AI活用の新戦略」から。

・・・富士通が海外でのシステム開発体制を見直している。IT(情報技術)技術者の人員拡大という規模を追う路線から、生成AI(人工知能)活用による生産性向上に軸足を移す。地政学リスクや海外人材コスト上昇など変化の激しい国際情勢をにらみ、量から質に重きを置く人材戦略に切り替えて旺盛なシステム需要に応えられるようにする。

富士通は2024年度、世界のシステム開発事業の運営で重視する「重要業績評価指標(KPI)」から人員数目標をなくした。富士通はインドやフィリピン、マレーシア、中国など世界7カ国でIT開発拠点を持ち、日本の拠点を含めた世界のシステム開発・運用保守の人材を25年度に22年度末比3割増の4万人とする数値を掲げていた。
背景の一つにあるのが、海外技術者の給与高騰だ。日本のIT業界は従来、コストの安い中国や東南アジアといった海外を示す「オフショア」に拠点を置き、開発や運用を委託してきた。
しかし、多くの国・地域でIT人材の給与が高まり、コスト面でのオフショア開発の利点を得にくくなっている。富士通でグローバルのシステム構築事業を担当する馬場俊介執行役員専務は、一般論と前置きした上で「5年後、10年後を見据えると、単純にコストの安い国・地域にどんどん案件を流せということではなくなってきている」と話す。

例えばインドだ。馬場氏は事業部長クラスなど熟練者に限ると「すでに日本の同等の人材よりも給与が高い」という。富士通では現在日本と海外7カ国含めたシステム構築人材が約3万人おり、うちインドが約8000人を占める。
人材サービスのヒューマンリソシア(東京・新宿)がまとめた調査(24年10月時点、ドルベース)によると、IT技術者の給与増減率の首位は、前年比10.2%増となったポーランド。インドも3.7%増と6位に入った。一方、日本は16.7%減と69カ国中59位となった。日本は円ベースでも給与が下がっており、低下傾向が世界でも際立つ・・・

経済原則では、安い労働力のところに企業が立地します。1990年代以降、日本の企業は安い労働力を求めてアジアに拠点を移しました。それが産業の空洞化を生みました。日本の労働力が安くなれば、外国人観光客だけでなく、工場なども日本に戻ってきませんかね。