カテゴリーアーカイブ:政治の役割

ポピュリズムに対抗する

2017年1月11日   岡本全勝

1月9日の日経新聞オピニオン欄、ニック・クレッグ、前イギリス副首相の「英、単一市場残留へ譲歩を」から。
・・・大衆迎合主義(ポピュリズム)に対抗するには3つのことが必要だ。第1に、ポピュリストに失敗させることだ。大衆迎合の政治家にとって最悪なのは、実際に責任を引き受け、様々な代替案から物事を決めねばならないことだ。
第2に、主流派の政治家は自由民主主義の価値をあきらめてはいけない。第3に、最近の経済環境になぜ市民が怒り、幻滅を抱いているかを真剣に考える必要がある。賃金はおそらく前世紀のいつの時代よりも長く停滞している。賃金制度や労働法、税制を通じて解決策を見つけないと、ポピュリストが得をする・・・

砂原庸介・准教授。個別政策、パッケージで議論

2017年1月10日   岡本全勝

1月9日の日経新聞経済教室「大転換に備えよ」は、砂原庸介・神戸大学准教授の「非主流派政治に取り込め。政策提示、個別より一括で」でした。配偶者控除の改正が、2017年度の税制改正で議論になりつつ、選挙を前にして進まなかったことについて紹介した後。
・・・配偶者控除のように個別のテーマごとに議論すると政治的にリスクが大きい中で、働き方改革のようにパッケージで議論することには意味がある。なぜなら一つのテーマでは負担が増える敗者となったとしても、別のテーマと組み合わせることで、その負担を軽減できるからだ。
例えば配偶者控除を廃止するのならば、他方で育児に対する給付を増やすことで専業主婦世帯に報いられるかもしれない。また、単に共働き世帯を優遇するだけではなく、子どもへの一定の給付を前提として、保育所の利用料引き上げにより収支のバランスを考える方法もありうる・・・
・・・そこで政党は世論の反応をみながら支持拡大につながるパッケージを提示し、既存の政策的対立軸とは異なる形で新たに包括的な改革連合を形成していく必要がある。そのとき、従来は政治的に代表されてこなかった女性を中心とした非正規労働者などの「アウトサイダー(非主流派)」を政治過程に包摂することは政党の支持基盤を広げるという点でも重要な意味を持つ。
近年の日本政治でこうした取り組みがなかったわけではない。具体的には、各省庁にまたがる論点を包摂する形で、内閣府に首相直属の会議体を設け、調整がなされてきた。しかし党内に「抵抗勢力」を定めて、それとの積極的な対立を辞さない姿勢をとった小泉政権を除けば、基本的に関係者のコンセンサス(合意)を重視するコーポラティズム(協調主義)的な手法がとられてきたといえる。
そうした手法ならば、関係者にとって受け入れやすい漸進的な改革が中心となる。しかし、それでは従来の政治過程から排除されてきたアウトサイダーの利害が反映されるのは難しいところがある・・・

続いて、次のような指摘もあります。
・・・しかも会議の乱立は重要な首相の時間資源を奪うことになった。外交における首相個人の役割が大きくなる中で、すべての重要案件を首相の責任の下で処理するのは不可能に近く、積極的なリーダーシップを発揮するのは困難だ・・・
原文をお読みください。

キッシンジャー著『国際秩序』

2017年1月4日   岡本全勝

キッシンジャー著『国際秩序』(2016年、日本経済新聞出版社)を、お勧めします。
第2次大戦後の国際秩序が揺らいでいます。それは、主権国家による調整であり、戦争を回避し、貿易の自由化を進めるというものでした。米ソ対立を抱えつつ、いくつもの地域紛争を引き起こしましたが、これまでの時代に比べ比較的安定した時代を持つことができました。主要国家間では、大きな戦争はなかったのです。
キッシンジャー博士は、現在の世界秩序の基礎を、1648年のウエストファリア体制に求めます。ここで、国際関係が、主権国家を単位に行われることが確立したのです。ナポレオン、ヒットラー、ソ連共産主義などがこの秩序に挑戦しましたが、結局、この体制に戻っています。
正義や信仰を問うことなく、主権国家間の均衡を保つ=秩序を維持する。それがウエストファリア体制のミソです。戦争や条約、国際機関などの取り決めも、主権国家が単位になっています。従わない国は、アメリカを中心とした国々が「制裁」を加えたのです。そして、WTOなどの国際取り決めやEUは、主権国家の権限をさらに国際機関に委ねる方向に進んでいました。

国際社会は、力で解決する「戦国時代の日本のような状態」から、「武力統一された統治」へと進んでいると思われていました。しかし、宗教や民族の対立抗争が激しくなり、テロも激化しています。アメリカを中心とした国家による「警察行為」「抑制」が、利かなくなっています。そもそも、国内を統治できていない(刀狩りが終わっていない)国家・地域もたくさんあります。よく見ると、「安定した国際秩序」ではなく、「覆い隠されていた不安定な国際関係」だったのです。現在の世界秩序が不変のものではないこと、世界政府へ単線的に進まないことが見えただけなく、それどころか不安定になり、どのような秩序・世界関係が生まれるのか不明なのです。
本書は、世界を鳥瞰し、不安定要因を分析しています。ロシア、イスラム、イラン、中東、中国、そしてアメリカの引きこもり、核・テロ・サイバー。さすが、キッシンジャー博士の著です。1923年生まれ、90歳を超えてこれだけの本を書かれるのですね。
私は高校生でしたが、米中国交回復をお膳立てされたことに、感銘を受けました。どうしたらそのような発想ができ、大統領の信頼を得ながら秘密交渉ができるのか。著書の『外交』も名著です。世界の歴史が神様が作るものでもなく、自然と流れでできるものでもなく、人間が作るものだと考えさせられます。

残念なのは、翻訳におやっ?と思う「日本語として通じないか所」があることです。原書に当たれば、すぐに分かることなのですが。ほかの本を読むのが忙しく・・・。

林・前駐英大使の新著

2016年12月28日   岡本全勝

林景一・前駐英大使が、『イギリスは明日もしたたか』(2016年、悟空出版)を出版されました。
イギリスは、今年6月の国民投票で、EUからの離脱を決めました。今年の驚きの国際ニュースの一つでしょう。もう一つは、トランプ大統領候補の当選です。
林大使は、2011年から今年まで、5年間にわたって駐英大使を務められました。その視点からの分析です。イギリスのEU離脱の意味、なぜそうなったか、イギリス人はどう考えているか、この後どのようになるのかといった、イギリスのこれまでとこれからのほか、現在の国際関係が鳥瞰されています。アメリカ、ドイツ、ロシア、中国など。

イギリスの国民投票とトランプ候補の当選は、事前予想を裏切る結果で、識者には大きな驚きです。その共通の原因として、国民の国際化への反発、移民への反発、エリートへの反発などが挙げられていますが、イギリスとアメリカでは、意味合いがかなり違うようです。イギリスでは、必ずしも国際化への反発ではなく、EUによって「主権が侵される」ことへの反発が大きいようです。もともと、統一通貨ユーロには入っていないのです。
この本は、話し口調で書かれているので、読みやすくわかりやすいです。しかし、世界を見渡しかつ歴史から説き明かす内容は、深いものがあります。著者の学識ならではです。紀伊国屋新宿本店でも、新書のコーナーに平積みされていました。

私が総理秘書官を勤めていたとき、林先輩は内閣官房副長官補(外政担当)で、ご指導をいただきました。私の帽子のお師匠さんでもあります。イギリス紳士然として、格好良いのです。ちなみに、本の帯に顔写真が写っています(帽子はかぶっておられません)が、「福島民報社提供」とあります。イギリスのウイリアム王子が福島を訪問されたときに、同行されたときの写真でしょうかね。

明治維新の意義、北岡伸一先生。2

2016年12月17日   岡本全勝

北岡伸一・JICA理事長の「明治維新150年、開国と民主的変革に意義」の続きです。
・・・日本は戦前とは違って、軍事大国ではないし、経済大国としても一時のような勢いはない。しかし、このように先進国への道を歩み、伝統と近代を両立させてきたことでは、世界に並ぶ国はない。
こうした経験を、その過程における失敗の数々とともに、世界と共有することが、日本が世界に最も貢献できる点だと思う。
日本は、政府開発援助(ODA)でも、最も成功した国である。1950年代においては、西欧諸国が援助の対象としたサハラ以南のアフリカ諸国と、日本が援助の対象とした(日本以外の)東アジア諸国の経済水準は、ほぼ同じだった。現在、両者の間には、巨大な差がついている。
その原因の一つは、日本のODAだったと言っても、それほど誇張ではない。
現在、世界の大学、大学院で開発学(development studies)の本場はイギリスだということになっている。しかし、本場は日本であるべきだ。日本を開発学の本場として、世界に貢献することが、日本の義務ではないだろうか・・・