カテゴリーアーカイブ:政治の役割

不人気な政策を通す方法

2017年5月11日   岡本全勝

5月4日の日経新聞経済教室欄、新川敏光・京都大学教授の「シルバー民主主義を考える
不人気政策のリスク分散」から。
・・・政治家の「予想される反応」に基づく行動パターンはその政策がどれだけ人気があるかに左右される。有権者の間で人気の高い政策の場合、政治家は手柄を争う。社会保障・福祉の拡充は間違いなく人気政策なので、選挙時にはどの政党も争ってその拡充を訴える。人気取りのためには、負担には触れないほうがいい。
こうしてわが国では、1980年代に行財政改革が始まるまで、財政的維持可能性を考慮せずに給付拡充が繰り返された。73年に「福祉元年」が唱えられた当時を振り返れば、「老人問題」が注目されるようになり、高齢者への公的支援の拡充は全国民的支持を得ていたといえる。
再選を目指すうえで人気取り以上に重要なのが、不人気政策にコミット(関与)しないことだ。人は、受けた恩は3日で忘れても、足を踏まれた痛みは一生忘れないといわれる。政治家はまず有権者の足を踏まないように気をつけねばならない。社会保障給付の引き下げや資格要件の厳格化は代表的な不人気政策であり、非難を受けやすいため、政治家は関与を嫌う。

しかしどうしてもそうした政策に関わらねばならないとしたら、政治家は様々な戦略を用いて非難を回避しようとするだろう。まず不人気政策を再定義することが考えられる。例えば人気のある政策で支持を取り付けておいて、その政策により不人気政策を正当化する。80年代に行財政改革の旗の下で、老人医療費無料化の廃止、健康保険被保険者本人の自己負担導入、基礎年金導入、拠出給付関係の見直しなどが実現した。
次に官僚や審議会などを前面に押し出して、政治家の存在を目立たないようにすること、すなわち政治家の可視性を低下させることが考えられる。政治家が批判の矢面に立たないようにするのである。
段階的な政策遂行は、政策効果の可視性を低下させる効果を持つ。最終的な効果が非常に不人気なものでも、それが明らかになったときには、もはや非難すべき相手が誰だか分からなくなっているか、既に政治の舞台から退場しているといったことになる。
さらにスケープゴート(いけにえ)戦略がある。手柄争いの結果、制度に欠陥が生じても責任を受益者に押し付けて非難する。高齢者バッシングや専業主婦バッシングにはそうした傾向がみられる・・・

原文をお読みください。

なぜ日本国憲法は改正しなくても済むのか

2017年5月9日   岡本全勝

5月2日の朝日新聞オピニオン欄「憲法を考える、70年変わらない意味」、ケネス・盛・マッケルウェイン東大准教授の発言「少ない分量、詳細は個別立法」から。
・・・国際的に比較して、日本国憲法の目立った特徴は、全体の文章が短いことです。英訳の単語数は4998語で、最も長いインドは14万6千語、平均は2万1千語。日本よりも短いのはアイスランド、モナコなど5カ国だけです。
もう一つの特徴は「長寿」です。70年間一度も改正されていない日本の憲法は、現行憲法としては世界一です。2位はデンマークの63年です。
長期間、日本の憲法が改正されなかったのは、憲法9条をめぐって国論を二分した議論が続いてきたような政治の状況だけでなく、憲法そのものの構造的な理由があったと考えています・・・

・・・まず、分量が少ない日本国憲法は、多くの国では憲法本体に書かれている選挙や地方自治など、統治に関する項目が「法律で定める」とされている場合が多い。ノルウェーのように憲法で選挙区まで定めている国と、公職選挙法を60回近く変えても、憲法を変える必要のない日本とでは憲法改正についての条件が異なるのは当然でしょう。
一方で、人権については、制定当時の国際水準からみると、多くの記述がなされており、先進的でした。そのため、例えば男女同権についての新たな規定を憲法に追加するといった切実な必要性がありませんでした。
短いですが、「人権」には手厚く、「統治」は法律に任せていることが、改正の必要がなかった大きな理由だと考えられます・・・

原文をお読みください。
マッケルウェインさんは、5月3日の読売新聞「憲法施行70年」にも、「9条の現状 とても深刻」を寄稿しておられます。

中北浩爾著「自民党」

2017年5月4日   岡本全勝

中北浩爾著『自民党』(2017年、中公新書)を紹介します。選挙制度改革以降の自民党を、多角的にとらえた好著です。新書というコンパクトな中に、必要なポイントを網羅した、かつそれぞれの分析が適確な本です。自民党を語る際の標準的教科書になると思います。
章立て(分析の視角)が良いですね。派閥、総裁選挙とポスト配分(総裁権力の増大)、政策決定プロセス(事前審査制と官邸主導)、国政選挙、友好団体(減少する票と金)地方組織と個人後援会。
制度と運用の実態の双方から、そしてその関係について適確に分析しています。これだけの内容(特に運用の実態となぜそれが成り立っているか)を書くには、かなりの人に取材をされた結果だと思います。国会議員、党職員、新聞記者・・・。またそれを咀嚼し、全体の中で位置づける能力が必要です。

新書という大きさからの制約ですが、これだけの内容の本なら、もう少し大きな版でも良かったと思います。
その際には、今の国政(自民党一強)を成り立たせている要因=野党である民主党との関係、あるいは民主党との政権担当能力との比較を書いて欲しいです。
また、事前審査制なども良く書かれているのですが、官僚との関係や、国会対策委員なども深掘りして欲しいです。
今後の課題ですが、総裁と国会議員との関係、官邸と党との関係、官邸と霞が関との関係は、制度より運営(リーダーである総理総裁の意思とフォロワーである国会議員の意識)による面が多いので(第1次安倍政権と第2次安倍政権とでは選挙制度や内閣制度は変わっていません)、それらの分析も必要となってくるでしょう。
いずれにしても、自民党、そして現在の日本の政治を語る際に必須の教科書です。「砂原庸介先生の書評」も、お読みください。

公文書館、憲法の展示

2017年4月22日   岡本全勝

国立公文書館で、春の特別展示「誕生日本国憲法」を見てきました。
今回の「売り」は、日本国憲法の原本が展示されていることです。いつもは、複製が展示されています。現憲法が、どのような過程をたどって制定されたか。内閣、GHQとの関係などは、学校でも習いますが、その記録が展示されています。
それらの解説は、展示と図録(これはよくわかります)をご覧いただくとして。私が興味を持ったのは、次の点です。

昭和21年3月4日、GHQから日本側に草案を早く出せと督促があり、松本烝治大臣と内閣法制局幹部が草案を持っていきます。説明の過程で、どうやら腹を立てた松本大臣が帰ってしまい、佐藤達夫・法制第一部長がその場で草案を英訳し、逐条審議します。松本は1877年生まれ、当時69歳。佐藤は1904年生まれ、当時42歳で元気があったのでしょうね。
占領軍対敗戦国。対等な議論にはなりません。しかも、天皇制を廃止し、民主主義への大改革です。彼らの苦悩は、察するにあまりあります。そして、当時は食糧難、食糧メーデーは、昭和21年5月のできごとです。きっと、お腹をすかせて、占領軍に説明したのでしょうね。

2月15日付けで、白州次郎がホイットニーに送った、英文の書簡があります。そこに、絵が描いてあります。占領軍が求める目的地と、日本が考えている目的地は同じである。しかし、占領軍は飛行機で一足飛びに目的地にたどり着こうとするのに対し、日本はいくつもの山の間をあたかもジープに乗って乗り越えて進むのだというのが、絵で描かれているのです。
国内の政治情勢から、そんなに簡単に憲法改正が進まないことを、理解してもらうべく、書かれたものでしょう。長々と文章を書くより、この方が効果があったのではないでしょうか。もちろん、文章でも、改正を進める際に何が問題で何が必要かを述べているのですが。

天皇の文書が、漢字カタカナの文語体から、漢字とひらがなの口語体になります。文章の最初の字が一画下がり、句読点が打たれるようになります。そして、「朕」が「わたくし」になります。
驚くのは、それら原本の紙の質の悪さです。物資が不足していたことを物語っています。即物的な感想ばかりで、申し訳ありません。

入場料無料、5月7日までです。皇居のお堀の桜は八重桜がきれいです。皇居東御苑(江戸城本丸跡)も見どころです。ここは案外知られていない、観光名所です。ここも無料。公文書館の前の平川門が便利です。帰りは大手門から出れば、東京駅にも近く、良い散歩コースです。一緒にご覧ください。

政党が政治を制御できなくなった

2017年4月12日   岡本全勝

4月11日の朝日新聞オピニオン欄は、パリ政治学院教授パスカル・ペリノーさんの「前例なき仏大統領選」でした。
・・・今年の仏大統領選は、1958年からの仏第5共和制で前例のない選挙です。一つは、大規模テロの影響を受けて非常事態宣言下で実施されること。従来の関心事だった「失業」に代わって「テロ」が最重要テーマに浮上しました。もう一つは、有権者の投票で候補者を事前に決める「予備選」を右派も左派も導入したことです。政治家の意識や大統領候補のあり方が根本的に変わりました。
これまでの政治では、候補者は政党の中から生まれてきました。閣僚や首相を務め、経験を重ねたうえで、大統領を目指していたのです。そのような構造に対する革命を、予備選は起こしました。政党を破壊し、古い形の政治を葬り去りました・・・
・・・これは、政党が政治をコントロールできなくなっていることを意味しています。予備選は政党をむしばむのです。
同様の現象は、フランス以外にも見られます。イタリアでも、首相候補の予備選を導入したことが、政党の弱体化につながりました。米大統領選では、民主党と共和党で候補者争いが激化しましたが、政党自体が制御する力を失っているからです・・・

・・・今は、戦後に定着した政治的世界が解体され、新しい世界が生まれようとしている時期だと考えられます。ポピュリズムは、その新しい世界の一つの要素です。
フランスの社会学者ギ・エルメ氏は、民主主義に代わる新たな政治制度の中心として、ポピュリズムとガバナンス(統治)を挙げました。ポピュリズムが人々の声を吸い上げる一方で、実際の政治はエリート官僚中心のガバナンスが担う。そこにかかわるのは一部の意識の高い人だけで、一般市民は無縁です。民衆の代表が政府をつくる時代は終わるのです・・・

長い歴史や、大きな視野から見ると、このような見方もできます。立憲民主主義、代議制は、絶対的なものではなく、歴史の中で経験を経てつくられたものです。代議制は、直接民主主義が実務的に困難である代用であるとともに、熟議の機能を期待されています。また、政党も、利害や思想を同じくする国民を代表する機能とともに、熟議の機能も期待されています。もっとも、日本国憲法には、「政党」は出てきません。
現実社会が、この教授の指摘する方向に進むのかどうか。その方向に進めるのも、回避するのも、国民です。
原文をお読みください。