砂原教授の新著

砂原庸介・神戸大学教授が、『分裂と統合の日本政治ー統治機構改革と政党システムの変容』(2017年、千倉書房)を出版されました。砂原君は、昨年からカナダ・ブリティッシュコロンビア大学で研究中です。

今回の著書は、これまでの論文を整理加筆したものです。著者が、「地方政治と国政との、国政と地方政治の関係(その不十分さ)」について、この10年近く研究を重ねてきた成果です。
著者の言葉を借りれば、「選挙制度改革と地方分権改革を踏まえて国政と地方政治で統合のあり方がどう変わったかを議論しているものです。今回の都議選でも明らかなように、現状で最も政治的資源を持つ政治家は(内閣のトップクラスを除けば)知事であり、知事への統合が国政政党の分裂をもたらすと考えています。そういった背景をもたらす制度的な要因として、地方議会の選挙制度の問題点を論じてその改革を主張しています」。

民主党政権の失敗を元に、次のような説を立てています。
・・・なぜ自民党と民主党による二党制は十分に制度化されてこなかったのか。本書はその要因を、国政とは異なる選挙を通じて知事・市長や地方議員が選出される地方政府が重要な権限を持つことにより、「地方」で国政とは異なる独自の政治的競争が展開されることに求める・・・(p19)。
・・・もとより国政政党にとって、地方議員に規律を及ぼすことは容易ではない。一方で選挙制度改革によって、政党執行部が国会議員対して規律を強めることができたとしても、他方で地方分権改革を通じて強化された知事や市長が国会議員や地方議員に対する影響力を強めることになると、国政政党の地方に対する影響力はますます衰える。有権者と政府の意思決定をつなぐ政党システムを制度化することを考えるならば、国政と地方政治の関係を再構築する制度的な整備が必要であろう・・・(p31)。

自民党は政権党として、利益分配によって、地方政治家を「吸収」します。他方で、社会党は反対党として、また労組の支えによって、国政でも地方政治でも一定の支持を集めました。しかし、2大政党制を目指した小選挙区制がもたらしたのは、反対党と期待された民主党の凋落です。大阪維新の会、都民ファーストという地域政党が、党首の魅力によって地域で大きな支持を得ます。しかし、それは国政にはまだ反映されません。

日本の政党政治を議論する際に重要でありながら、これまでは国政と地方政治とは合わせて議論されることが少なかったです。また、国政政党が「足腰を強くする」ためには、国政政党が地方政治家を「統合する」ことに力を入れることが必要です。時の「風」を期待するのではなく、地域から政党組織を強くする必要があります。
地方議会の選挙制度改革で必要であると、著者は主張します。重要な視点の分析の書であるとともに、今後に向けての提言の書です。