カテゴリーアーカイブ:政治の役割

日本の安定した政治

2019年5月28日   岡本全勝

5月18日の日経新聞オピニオン欄、丸谷浩史・政治部長の「外国モデルなき令和の政治 ポピュリズム防ぐには

・・・安倍政権では首相と菅義偉官房長官が「移民ではない」と確認したうえで、外国人労働者の受け入れ拡大をあっさりと実現した。賃金も政府主導で引き上げている。これが外国からは「リベラルな中道政権」に映る。
主義や理念の定義はさまざまだろうが、いわゆる保守と中道・リベラルが違和感なく共存する空間が、首相官邸と自民党にはある。平成の2度にわたる政権交代があわせて4年ほどで終わった理由のひとつも、ここにある。「非自民政権」とは、自民党でないことがアイデンティティーとなる。自民党は昭和30年以来の長きにわたって政権党の座にあり、その政治手法は日本社会そのものに組み込まれている部分もあった。
「自由民主党」を全否定すると、政権運営のモデルは外国に求めざるを得ない。2009年の民主党政権は、それを英国に見いだし、政府と与党の一元化を一気に進めようとしたこともあって、つまずいた。政権奪還をはたした自民党は、民主党の失敗を教訓に、首相官邸主導や与党優位に働く小選挙区制の政治システムを、20年かけて完成形に導いたといえる。

制度は完成したと思った瞬間に綻びが生じる。強すぎる官邸がブラックボックス化し、政官関係にゆがみが生じるなどの指摘も出てきた。では、新たな改革モデルをどこに求めるのか。
幕藩体制から近代に脱却する時から、日本の政治はドイツや米国など外国の制度を参考にしてきた。平成の政治改革でモデルとなってきた英国の二大政党制は、ブレグジット(欧州連合からの英国離脱)で機能不全をさらけ出した。最近の世論調査では、支持率トップに「ブレグジット党」(Brexit Party)が躍り出た。「保守」「労働」のように理念を表す党名ではない。単一の政策争点だけを掲げるシングル・イシュー政党だ。
欧州でも政党地図は激変している。共通するのは極右やポピュリズム(大衆迎合主義)政党が伸長している事実だ。既存の政治勢力が改革を怠り、民意が離れれば、ポピュリズムが台頭してくるのは、戦前の日本も含めて歴史の教えるところでもある・・・

敗戦が生んだ憲法、日本、ドイツ、イタリア

2019年5月14日   岡本全勝

5月2日の朝日新聞「憲法を考える」は、「敗戦が生んだ条文はいま 日本・ドイツ・イタリア、根幹の理念に」として、第2次大戦に敗れ新しい政治体制をつくった3カ国の憲法を比較しています。

・・・第2次世界大戦に敗れ、新しい体制のもとで国際社会への復帰を果たした日本、ドイツ、イタリアの憲法には、それぞれの歴史を背負った特徴的な条文がある。象徴天皇制と戦争放棄、人間の尊厳、社会権。それらは戦後の国づくりや外交の中で根幹的な理念となった・・・

・・・日本と同じように全体主義的な国家体制で敗戦を迎えたドイツとイタリアは戦後、どんな条項を新憲法の根幹としたのか。
「戦後憲法を作った人々」など日独伊の憲法制定過程に関する著書がある石田憲・千葉大教授は、ドイツでは人間の尊厳、イタリアでは社会的連帯に基礎をおく社会権だと説明する。
ドイツではナチスが、対抗する政治勢力や異なる思想信条の持ち主を徹底的に弾圧し、ユダヤ人虐殺へと進んでいった。その反省から、憲法にあたる基本法の1条は「人間の尊厳は不可侵である」と規定。ドイツ国民は「世界のすべての人間共同体」の基礎としての人権を信奉するとうたった。石田教授によると、ドイツ憲法で「人権」が詳細かつ網羅的に示されたのは初めてだった・・・

天皇による社会統合

2019年5月4日   岡本全勝

5月2日の朝日新聞「皇室に親しみ、ふわっとした国民統合」から。

・・・平成の間に価値観やライフスタイル、家族の形は多様化した。反面、経済状況の悪化や人口減少で、社会制度のひずみが露呈。格差は広がって、社会に分断も生じている。
東京大学の佐藤俊樹教授(56)=社会学=は「経済成長が続くことを前提として社会を統合するという戦後政治の想定は崩れ、憲法によって保たれる社会秩序に『空白』が生じた。それを埋めたのが、平成の天皇だった」とみる。
被災者ら、より厳しい状況に置かれている人々に対し、天皇が光を当て、国民が苦境を分かち合うというメッセージを発したことで、社会の統合に寄与したという見方だ。
「裏返せば、国民は不満をある程度解消され、議論や思考を深めてぶつけ合わずにすんだ。天皇のおかげで良い意味でも悪い意味でも、ぬるくて快適な日本の社会機構を続けられたとも言える」・・・

アメリカ、緊急事態宣言

2019年4月26日   岡本全勝

東京財団政策研究所、梅川 健・首都大学東京法学部教授の「緊急事態におけるアメリカ大統領権限:トランプ大統領による壁建設はなぜ可能なのか」が、勉強になりました。
・・・2019年2月15日、ドナルド・トランプ大統領は国家緊急事態を宣言した 。これで、現在のアメリカで有効な緊急事態宣言の数は32個になった。複数の緊急事態宣言が併存するという状況は、一見して奇妙である。
国家が作動するモードには、平時と戦時だけでなく、そのどちらでもないが国益が侵害され一刻を争う緊急事態がある。緊急事態宣言がそのモードを切り替えるスイッチであるとすれば、スイッチを入れるのは一度で十分なはずだ。
なぜ、アメリカでは複数の緊急事態宣言が併存するのか。大統領は緊急事態に何ができるのか。緊急事態における大統領の決定はどのように抑制されうるのか・・・

平時と戦時、そしてその間にある緊急事態。それにどのように対処するか。
大統領と議会という二元代表制。
日本とは異なる条件の下で、試行錯誤しながら作り上げてきた仕組みがわかります。

三谷太一郎先生「首相統治」

2019年4月2日   岡本全勝

3月29日の朝日新聞オピニオン欄、三谷太一郎・東京大学名誉教授の「平成から新時代へ 冷戦後デモクラシー」から。このインタビューには様々な重要な論点が含まれているのですが、ここでは2つだけ紹介します。

・・・これは日本だけの変化ではありません。私は、日本にも「首相統治」の時代が来た、と考えています。まずそれが出現したのは、第2次世界大戦後の英国です。大戦の影響もあって、英国では立法と行政が非常に強く結びついた首相統治が生まれた。政治学の教科書でいうような権力分立制ではなく、真の権力はダウニング街10番地(首相官邸)にある。大戦中の英国の首相はカリスマ的指導者のチャーチルですが、そのあと、労働党のアトリーになっても首相統治は続いた。指導者のカリスマや個性の問題ではないのです・・・
・・・小選挙区比例代表並立制という現行制度が、首相統治を支えているのは間違いない。党内権力が少数の幹部に集中し、選挙候補者の選任や政党助成金の配分に、首相が大きな力を持った。加えて、内閣人事局による行政への支配が強まり、立法と行政の権力分立が縮小し、癒着問題が生まれた・・・

私は、その原因について、少々違った見方をしています。「首相統治」は、それを要求する、現代国家における世界共通の背景があります。他方で、それを容認する仕組みも必要です。そしてなにより、首相の運営方法によります。これについては、別の機会に書きましょう。

「現在もまた、議会制民主主義の危機がいわれています」との問に。
・・・重要なのは、個別の政党の影響力を拡大する以前に、「個々の政党の利益を超えた価値」を維持するメカニズムを構築することです。議会自体の持つ「公共性」を考えるべきでしょう。社会の中で注目されていない意見を、党派を超えて取りあげる。議会が選挙民を啓蒙する教育的機能も大事です。党派と関係なく議会が持っている「公共性」というものがないと、実は政権交代も円滑には進まないのです・・・