カテゴリー別アーカイブ: 政と官

行政-政と官

反・忖度の元祖、和気清麻呂2

反・忖度の元祖、和気清麻呂」の続きです。
1 これを読んだ読者から、「ならば、和気清麻呂像は皇居の外れにおかず、首相官邸の前に移してはどうですか」という意見がありました。

2 中国古典に詳しい肝冷斎に、良い例がないか聞いてみました。以下、その返事の要約です。

「論語」等に出てくる「直言す」(はっきりいう)というコトバが近いでしょうか。しかし、和気清麻呂のような人については、「孟子」公孫丑篇上に出て来る孔子の言葉がぴったりくるのでは。

むかし、(わたし孟子の先生の先生であり、孔子の高弟である)曾子が(魯の有力者である)子襄に対して言ったそうです。
―わたしはかつて夫子(孔子)に、大いなる勇気(「大勇」)について訊いたことがあります。先生はこうおっしゃった、
「自ら反りて縮(なおか)らずんば、褐寛博(かつかんぱく)といえども吾おそれざらんや。自ら反りて縮(なお)ければ千万人といえども吾往かん」と。
「縮」は「直」なり、と注があります。
「自分で反省してみて正しくないと思えば、相手が粗末な服を着た庶民であっても、わたしはおそれおののかざるを得ない。自分で反省してみて正しいと思えば、相手が千万人いても、わたしは立ち向かうだろう。」

「大日本史」以来の清麻呂像を前提にすれば、中国歴代の諫官の伝統(例えば、漢の成帝に諌言して、退出を命じても宮廷の欄干につかまって離れようとせず、ついに欄干を折ってしまって「折檻」の語源になった朱雲、唐の太宗皇帝にたびたび直諫した魏徴)に沿って、清麻呂はまさに、「千万人といえども吾往かん」の人といえましょう。

反・忖度の元祖、和気清麻呂

数年前、官僚の行動を批判して、「忖度」という言葉が流行りました。忖度は、他人の心情を推測すること、また、それによって相手に配慮することです。安倍官邸に対する官僚の行動に関連して使われるようになりました。2017年には「新語・流行語大賞」の年間大賞に選ばれたそうです。

忖度という言葉は、かつてはあまり使われることなく、「配慮する」という表現が使われたと思います。忖度が使われたのは、配慮以上の行動をする、それも筋を曲げてまで行ったのではないかと考えられたからでしょう。そのような行為を「阿る(おもねる)」とも表現します。
「曲学阿世」という言葉もあります。中国古典の「史記」に出てくる言葉で、学問上の真理をまげて、世間や権力者の気に入るような言動をすることです。敗戦後、全面講和論を掲げた南原繁東大総長に対し、吉田茂首相は単独講和の立場から「曲学阿世の徒」と批判したことが有名でです。

皇居の東北、大手門の近く大手濠緑地に、和気清麻呂像が立っています。和気清麻呂は、ご存じの通り、奈良時代に天皇とそのお気に入りの弓削道鏡の意向に反して、正義を貫いた官僚です。
宇佐八幡宮から称徳天皇に対して「弓削道鏡が皇位に就くべし」との神託があり、和気清麻呂が宇佐八幡宮へ赴き、神託を確認することになりました。そして、道鏡が皇位に就くことに反対する神託を持ち帰り奏上します。清麻呂は左遷され、名前もひどいものに改名され、大隅国に配流させられます。後に道鏡が失脚すると、復権を果たします。
その2」に続く。

税金、考えるのは官僚、使うのは政治家?

12月13日の読売新聞、補正予算案が衆議院を通過したことを伝えるとともに、「財源確保先送り ガソリン税・年収の壁・・・」を解説していました。

・・・自民、公明、国民民主の3党は、ガソリン税に上乗せしている暫定税率を廃止することでも合意した。合意書には廃止時期を示しておらず、今後、具体的な廃止までの道筋を協議する方針だ。廃止に伴う税収減を補う財源など、手つかずの議論も残っており、協議が難航する可能性もある・・・

・・・政府は3党が引き上げで合意している「年収103万円の壁」についても、所得税の「基礎控除」(原則48万円)という減税措置を国民民主党の主張通りに75万円引き上げると、7兆~8兆円程度の減収になると試算する。3党協議には今後、暫定税率と合わせて財源の議論が重くのしかかる。
政府・与党は来年議論する26年度税制改正で、ガソリン税を含む自動車関係の課税全体を見直す方針だ。暫定税率の廃止についても、具体的な制度設計の議論は来年まで続く可能性がある。

与党税調からは急転直下の3党合意に驚きの声が上がり、幹部はこう漏らした。「財務省は来年議論する車体課税の見直しの時に、今回の減収分を取り返そうと考えるのではないか」・・・

最後の段落を読むと、税金を使うのは政治家で、その確保を考えるのは官僚ということでしょうか。これが、現在の「政治主導」ですか。

牧原出先生の『内閣政治と「大蔵省支配」』

10月20日の読売新聞「始まりの1冊」は、牧原出・東大教授の『内閣政治と「大蔵省支配」』でした。

・・・とはいえ、1990年代の統治構造改革が始まったのと並行して研究生活を始めたものの、「明治維新、占領改革に次ぐ第3の改革」と言われた鳴り物入りの改革には、内心疑問を持っていた。この後により大きな問題が到来するのではないか。そんな気分の中、同時代に深入りせず、遠い先の大きな変化への予感とともに、仙台という落ち着いた都市で研究に打ち込んだ・・・

・・・視野を広げた転機は、2000年から2年間のイギリス留学であった。そこで出会ったのが、大臣と官僚が主役の名作コメディ「イエス、ミニスター」。種本の1つが、労働党政治家の克明な記録であるリチャード・クロスマン日記であり、ブレア労働党政権の雰囲気の中で熟読する。政党政治華やかと思われたイギリスでは、政権入りした閣僚と官僚の関係は、一次資料でも日々のメディアでも話題となっていた。コメディの作者は、その観察をこう語っている。「心の奥底で政治家は官僚を途方もなく尊敬し、官僚の方は心の奥底で政治家たちを途方もなく軽蔑している」と。

政治主導が行き渡っているはずのイギリスの官僚と日本の「国士型」と当時呼ばれていた官僚は、心の奥底で響きあっている。だが、政治家をうまくさばく官邸官僚たちは、一見控えめな立ち居振る舞いの奥に本音を隠す。そうした官僚たちの密やかな行動こそ、政権交代の時代を形作るのではないか・・・

コロナ対策マスク調達、文書なし

8月23日の朝日新聞が「アベノマスク「文書見たことない」 省庁職員証言「意思決定は口頭」「余裕なし」」を伝えていました。

・・・新型コロナウイルス対策で政府が配った布マスク(通称・アベノマスク)をめぐり、神戸学院大の上脇博之教授が業者との契約過程を示す文書の開示を国に求めた訴訟で、調達に当たった省庁職員ら3人の証人尋問が22日、大阪地裁であった。職員らは「関連文書は見たことがない」と口をそろえた。

マスクは2020年4月に安倍晋三首相(当時)が各戸配布を表明したもので、国は400億円超をかけて約3億枚を調達した。だが約8300万枚が残り、国会などで無駄が指摘された。
出廷したのは「合同マスクチーム」のメンバーら。統括した厚生労働省の職員は「いかに早くマスクを確保できるかが課題で、チーム内の意思決定は口頭だった」と証言。「この職について30年で最も過酷で多忙を極めていた。過労死ラインを超える勤務が慢性的に発生する極めて異例な状況だった」とも述べた。

上脇教授側から「公文書管理法の趣旨に沿って契約過程を文書で残すべきだったのでは」と問われると、「結果責任を果たすためにもプロセスに時間を割く余裕はなかった」と強調した・・・