カテゴリー別アーカイブ: 地方行政

地方行財政-地方行政

国と地方の関係、課題

12月25日の日経新聞経済教室は、砂原庸介・神戸大学教授の「国は国民と直接的関係築け 国と地方のあるべき関係」でした。
・・・1990年代後半の地方分権改革から20年以上がたつ。分権の実現度を巡る評価は分かれるかもしれないが、現在では地方のことは地方で決めるという、地方分権の考え方が広く受け入れられているといえよう。
他方で、2020年からのコロナ禍では、保健所を通じた感染症対策の場面をはじめ、給付金やワクチン接種など公共サービス提供なども含めて、地方分権の「行き過ぎ」のために中央政府が実現すべき施策が阻害されているという主張もみられた。地方自治体が独自性を発揮しようとすることが、中央政府の国レベルでの方針と齟齬を生むというのである・・・

詳しくは原文を読んでいただくとして。表題にあるように、中央政府が国民から離れてしまっていないかは、大きな問題です。
以下、とりあえずの私見を述べます。
1 分権改革以来約20年が経過し、課題は「さらなる分権」ではなく、自治体が得た権限をどのように運用するかです。
2 この20年でわかったことは、何でも分権すればよいものではないです。東日本大震災で、多くの人が理解したと思います。他方で公共事業の補助金と箇所付けなどを、まだ国が握っています。
3 国と地方自治体との「役割分担」という視点で、常に見直す必要があるのでしょう。特に、内政事務・国民や住民相手の仕事をどう分類するかです。国が統一的に処理する方がよい事務と自治体に任せたらよい事務の切り分けです。
4 その際には、自治体の「地域の総合行政主体」の機能をどのように発揮させるかが重要でしょう。
5 他方で、現場を持たなくなった中央政府に、どのようにして国民との関係を持たせるかが課題になっています。連載「公共を創る」でも指摘しましたが、現場経験がない官僚にどのように現場をわからせるかという課題です。

好調「自治体のツボ」

何度か紹介している「自治体のツボ」です。毎日、欠かさず、地方行政の話題を取り上げています。
東京や他県の新聞には載らないようなニュースが紹介されています。かなり労力をかけているようです。例えば12月3日

また、筆者独自の視点、それもしばしば辛口の評価が書かれています。新聞やテレビでは発言されないような、思い切った意見もあって、興味深いです。例えば11月25日11月27日。
一度、見てください。

インフレ下での地方税財政のあり方

11月1日の日経新聞オピニオン欄に、斉藤徹弥・上級論説委員の「地方税財政にインフレの影」が載っていました。詳しくは原文を読んでいただくとして。

・・・久しぶりに政治課題に上った所得税・住民税減税は評判が芳しくなく、税を巡る課題をいくつも浮き彫りにした。その一つにインフレ下での地方税財政のあり方がある。
所得税と住民税とでは、多くの納税者にとって負担感が重いのは住民税の方だろう。住民税は一律10%で、所得税は5%の人が6割を占めるためだ。所得税も10%の納税者は2割。残りの2割が所得税の方が高い層である・・・

・・・住民税の課税最低限が所得税より低いのも減税を複雑にする。これも町内会費はできるだけ多くの人が負担すべきとの考え方からだ。町内会費は生活保護世帯も負担する。
かつて住民税の課税最低限は所得税と同水準だった。戦後税制の基礎であるシャウプ勧告で住民税は所得税と一体と考えられていたためだ。その見直しを促したのが高度成長期のインフレである。
賃金と物価が上昇すれば生活保護の基準も上がる。生活保護世帯から所得税はとらないため、所得税の課税最低限が引き上げられる。すると、所得税と一体の住民税も課税最低限が上がり、所得の伸びない市町村は住民税の納税者が減ると悲鳴をあげた。
そこで所得税の課税最低限と切り離し、所得税は納めなくても住民税は納める所得階層を設けた。インフレが国税の所得税と、地方税である住民税との税の論理の違いを明確にさせた形だ。
再び迎えたインフレの季節は、地方税財政に新たな課題を生む。物価が上昇すれば地方税収も増加基調になるが、それに伴って人口や企業といった税源の多い東京都と地方の税収格差が広がることだ。地方税収が増えても増収分は東京都に集まりかねない・・・

この主張にあるように、自治体格差の拡大に対し、どのように対策を打つのかが問われます。
税制議論を聞くのは、確かに久しぶりです。景気が拡大しないデフレ下では、議論する余地がなかったのでしょうか。

バーミンガム破綻、男女同一給与で

9月20日の日経新聞に「英都市バーミンガム破綻 同一賃金軽視、10年のツケ」が載っていました。
・・・ロンドンに次ぐ英国第2の都市バーミンガムが事実上の財政破綻を宣言した。産業革命の中心地として栄えた同市は10年前から市職員の不平等賃金をめぐる時限爆弾を抱えていた。
「6億5000万ポンド(約1200億円)を超える同一賃金債務に見あう財源がない」。バーミンガム市議会は5日、地方財政法に基づく事実上の破綻通知を出した。人口114万人の中核都市の破綻を英メディアは大々的に伝えた・・・

バーミンガム市は、かつて男性職員には支給していたボーナスを、女性職員には支給しなかったことで、約5000人の女性職員から訴えられました。2010年に判決が出て、市は膨大な請求を受けました。その頃から抱えていた問題だそうです。
日本とは地方財政制度が異なるのですが、男女の賃金差別解消がこんな問題を引き起こすのですね。

国と地方の役割再定義

7月12日の日経新聞オピニオン欄に、斉藤徹弥・上級論説委員の「国と地方を再定義する覚悟 金利と賃金が改革促す」が載っていました。

・・・地方分権を動かす契機となった1993年6月の地方分権推進に関する国会決議から30年。折しも岸田文雄首相が「令和版デジタル行財政改革」を掲げ、国と地方の役割を再定義すると表明した。
「国を頂点とする上意下達の仕組みを、国がデジタルで地方を支える仕組みに転換する。国と地方の役割を再定義していく」。首相は6月21日の記者会見でデジタル行財政改革を通じて国と自治体の関係を見直す考えを示した。
デジタル行財政改革は、国がデジタル基盤を整備し、それを使って自治体やNPOが国民に個人単位できめ細かい行政サービスを提供するものだという。デジタル庁がめざす電子政府の姿であり、これ自体に違和感はない。
行政改革を、国と自治体のあり方の見直しにつなげる視点も悪くない。地方制度の大きな改革は、政治に行政改革の機運が高まったときに進んできたからだ・・・

・・・当時は岸田首相と同じ宏池会の宮沢内閣。首相も今回、行革に火をつけることで国と地方の役割の再定義を政治課題に載せようとしているように映る。かつてのような熱気はなく、成否は不透明だが、再定義を必要とする素地は地方に広がりつつある。
首相のめざす再定義は、デジタル化で国の役割が増え、国への再集権の色合いを帯びるものだ。分権とは逆だが、地方の現場にはそれを求める声がある。人口減少で小規模自治体は人材が制約され、分権で広がった役割を担うことが難しくなっているためだ・・・

・・・人材不足は国と自治体の役割を見直す契機になるが、一方でコロナ下で緩んだ財政は改革への意識を鈍らせる。人は足りないがお金はあるという状態が事業のチェックを甘くしている面もあろう。
自民党は地方財源を減らした三位一体改革が2009年に政権を失う遠因になったとして、政権復帰後は地方財源を十分に確保してきた。長く続く低金利のなせる技だが、これは結果として地域の産業構造を温存し、賃上げで地方経済を底上げする努力から目をそらさせてきた。
だが動かない金利と賃金のおかげで地方が現状維持に甘んじていられた時代は終わりに近づきつつある。日銀はバブル崩壊後以来続けてきた低金利の見直しを視野に入れ、今春の賃上げは31年ぶりの上昇率となった。
金利と賃金が動き出せば、地方は変化を迫られる。首相が国と地方の再定義を提唱した背景にこうした思惑があるなら地方も覚悟が必要だ・・・