カテゴリーアーカイブ:地方行政

尼崎市の子育て支援、若者支援施策

2026年2月11日   岡本全勝

昨日の記事「若年層の政治参加促進に向けた国際動向」を書いていて、思い出しました。
連載「公共を創る」第125回「社会参加政策のあり方―スウェーデンとドイツ」で、スウェーデンの「ユースセンター」「若者の家」いう余暇活動施設、ドイツの社会文化センターなどの活動を紹介しました。中学・高校生世代が誰でも自由に出入りでき、学校でも家庭でもない「第三の居場所」として機能しています。日本には、商業施設以外に若者が集まれる場所、行く場所がないのですよね。

1月に尼崎市の幹部研修に招かれた際に、いくつか施設を見せてもらいました。一つは、子どもの育ち支援センターで、「子どもや子育てに関して課題や困難を抱える子どもたちと子育て家庭に寄り添い、様々な関係機関が連携しながら、切れ目なく継続的に支援を行う総合施設」です。困難を抱えている子どもと家族が増えているので、このような施設と活動はもっと必要になると思いました。

もう一つが、ユース交流センターです。
「“やりたいをやろう“。尼崎市立ユース交流センターは中高生の新しい挑戦を待っています。みんなでわいわいゲームをしたり、大画面で映画をみたり、バンドやダンスの練習をしたり、しずかに学習をすることも、すきな本を借りることも出来ます。家でも学校でも塾でもない、新しい自分だけの自由な過ごし方をしてみませんか?」とあります。
これは、スウェーデンやドイツの活動に似ていると思いました。このような場所も、もっと必要ですね。

定年後のおじさんたちが行く場所がない、図書館が朝からその人たちで満員というのは、別の問題です。

事業承継による地域活性化

2026年2月9日   岡本全勝

地域活性化センターの機関誌『地域づくり』1月号の特集は「事業承継による地域活性化」です。
地域の活力は、住民であり、その人たちが暮らしていける産業と生業が鍵です。企業の呼び込み(企業誘致)や、新しい事業(起業)も重要ですが、すでにある企業を継続させることも必要です。何と言っても、すでに何年も営業してきた実績があるのです。
売れ行きが悪化したり、跡継ぎがいなかったりと、廃業が増えます。それをどのようにてこ入れして、経営を継続してもらうか。
地域の資源と伝統の蓄積を生かしてもらいたいものです。
中小企業庁の考え方と支援も載っています。

柳至『公共施設の統廃合を合意する』

2026年1月27日   岡本全勝

柳至著『公共施設の統廃合を合意する』(2025年12月、有斐閣)を紹介します。
宣伝には次のように書かれています。「地方自治体がどのような取組を行った場合に,住民は公共施設の統廃合に合意するのか。公共施設再編の成否を握る住民の意向の把握や住民との協働の重要性・有効性を,サーベイ実験や事例研究を用いて実証的に明らかにする。」
序章では、本書の問いは「地方自治体がどのような取組を行った場合に公共施設の統廃合に住民が合意するか」であると書かれています。

経済成長期に造った公共施設が更新期を迎え、老朽化しています。他方で、人口減少と財源不足で、多くの自治体が公共施設の統廃合に直面しています。本書では、自治体がどのような取り組みを行っているのかだけでなく、住民がどのように反応するのか、どのような取組であれば住民から受け入れられるのかを考察しています。
自治体の担当部署の協力を得て、市区町村へのアンケート調査を行い、住民への大規模意識調査も行っています。

著者は先に、『不利益分配の政治学 - 地方自治体における政策廃止』(2018年、有斐閣)を出しておられます。この本が出たときに、少々驚いた記憶があります。それまでの行政は、政策や施設など新しいものをつくることが主な仕事であって、廃止・縮小は頭の隅に追いやられていたのです。せいぜい、地域住民が嫌がる施設をどのようにつくるかが、話題になっていたのです。「よいところに目をつけたなあ」と思ったのです。

今回の本も、その延長にあると言えます。特に、自治体側の分析だけでなく、住民側の分析をしている点が優れています。
利益を分配する場合は、不平等での不満は出ても、大きな抵抗なく受け入れられます。しかし、不利益になるような施策は、関係者の同意を取り付けること、反対を少なくすることが大きな課題です。施策の決定とともに、手続きが重要になります。そして、議会や審議会が必ずしも効果を見込めないのです。
自治体関係者には、役に立つ本だと思います。

福祉サービスの地理学2

2026年1月9日   岡本全勝

福祉サービスの地理学」の続きです。久木元美琴執筆「福祉サービスの地理学の視点からみる行政領域」月刊「地方自治」2025年12月号には、次のような説明もあります。9ページ。一部省略してあります。そのほかにも、勉強になることが書かれています。詳しくは、原文をお読みください。

・・・福祉の地理学は、福祉国家の成立と変動に影響されながら発展した。19世紀末から第二次世界大戦後の経済成長期における先進資本主義国家で社会保障を中心とした福祉国家の広がりと、1970年代の石油危機以降の経済成長の鈍化と脱工業化・グローバル化の進展による既成福祉国家は転換のなかで、市場メカニズム・競争原理の導入、民間活用などが進められるようになった。こうした流れの典型的な事例として、1980年代のイギリスのサッチャー政権下における規制緩和や国営企業の民営化といった新保守主義的な経済政策の進展がある。しかし、こうした政策は、格差の拡大や教育・福祉の後退、失業率上昇などの社会的な摩擦・混乱を招き、1990年代後半には、ボランタリー部門を活用し、効率性と公平性の両立を目指す「第三の道」が登場した。

こうしたなか、福祉の地理学は、福祉国家の変容と再編の下で生じる地域における福祉供給へのインパクトや需給の地域間格差といった問題に注目する。福祉国家が前提とする「大きな政府」が相対的にその役割を小さくするならば、地方政府の財政的な基盤やそれぞれの地域で活用できる主体や資源が地域の福祉供給のあり方に影響を及ぼす。サッチャリズムに代表される新自由主義によって生じた「福祉切り捨て」(福祉支出の削減)と、それにともなう施設の地域的偏在や地域間格差の実態が、英語圏の地理学で指摘された・・・

続いて、次のような記述があります。
・・・日本は1970年代以降の脱工業化の時期に「福祉元年」を宣言したが、低成長への転換のなかで、大企業の福利厚生と家族賃金、地方の公共事業と保護・規制政策、家族主義が三位一体となった「疑似福祉システム」を福祉国家に代替させ、社会保障制度は「家族」「会社」「地域社会」によって制度化されてきた。こうした家族中心的福祉レジームに前提されたのは、女性の家庭内・地域内における無償労働であった。1980年代以降、脱工業化のさらなる進展とそれにともなう女性の就労増によって、福祉供給における家族領域は縮小した。また、国家領域においても、経済成長の鈍化による財政難と、公的福祉サービスのインフレキシビリティとパターナリズムは、福祉ニーズの多様化に対応できなくなっていた。こうした趨勢のもとで、日本でも1990年代から福祉サービスを対象とした地理学的研究が蓄積されるようになった・・・

福祉サービスの地理学

2026年1月7日   岡本全勝

久木元美琴執筆「福祉サービスの地理学の視点からみる行政領域」月刊「地方自治」2025年12月号(ぎょうせい)を紹介します。少しだけ試し読みができます。

「保育・子育支援のサービス需給に関する地理性や空間性」を研究する学問があるのですね。地理学にそのような分野があることを知りませんでした。
「地方自治体が担う福祉サービスは多岐にわたるが、なかでも保育サービスは保護者による日常的な送迎が必要である場合が多く、自宅と勤務地を含む日常の生活空間の範囲(生活圏)と行政領域の地理的な範囲との齟齬が生じた場合に困難が生じる」とあります。
地方行政と地理学というと、地方財政学での「足による投票」や、税負担と行政サービスのずれ、広域行政などを思い浮かべます。しかしそれは、自治体行政からの視野です。住民の暮らしや社会の在り方から考える必要がありました。

特に「長距離通勤のために、通勤者は朝早く家を出て、夜遅くに帰宅する。そのため、平日は家族と過ごす時間がほとんどなかった。他方で、女性はサービス経済化の進展や男女雇用機会均等法の施行などによって、雇用労働力として大きな社会的役割を担うようになっていた。このように、日本の大都市圏の日常生活における空間と時間が劇的に変化しようとしているなか、大都市郊外では仕事と家庭の両立困難が鋭く顕在化した」という指摘(6ページ)は、新鮮でした。
住宅と勤務地が離れた長距離通勤は、朝早く出勤し夜遅く帰宅する父親だからできたものです。夫婦で子育てをする場合には、難しいものがあります。
通勤地獄、長距離通勤、寝に帰るだけのベッドタウン・・・。昭和の経済成長期に、私生活を犠牲にして、会社勤めを優先しました。大きな問題と指摘されながら、一向に対策は打たれませんでした。行政の課題とならなかったのです。しかし、女性が社会進出し、他方で少子化が問題になり、男社会を前提にした通勤のおかしさが目に見えてきました。

私は、連載「公共を創る」で、働き方改革と男女共同参画が「この国のかたち」の結節点であり、日本を変えると主張しています。ちょうど連載で、通勤と保育園の問題を書いていたので、参考になりました(これも、娘夫婦の子育てを見て気づきました。霞ヶ関勤務だけではわかりませんでした)。持論を補強することができました。
都心の住宅費高騰も報道されています。大都市での通勤と子育ては難しくなりました。さて日本政府は、この問題にどのように対処するでしょうか。住宅整備、都市整備、産業振興といった視点からは、この問題は解決できません。生活者、住民の視点から考えなければならないのです。しかし、行政の組織と仕組みはそのようになっていません。