朝日新聞ウエッブに「地方移住6年、劇作家平田オリザさんが語る「妻ターン」する街の所作」(2月2日)が載っていました。
日本の人口は減少を続け、現役世代が2割減る「8がけ社会」へと向かいます。その影響は真っ先に地方に及びます。劇作家の平田オリザさん(62)は芸術文化観光専門職大学の開学に関わったことを機に、2019年から活動の拠点を東京から大学のある兵庫県豊岡市に移しました。「アートと大学で、人口減に歯止めをかける」と話す平田さんに聞きました。地方は輝きを取りもどせますか――。
――地方の人口減少の背景に、若者世代の都市への人口流出があります。豊岡も例外ではありません。
日本の地域振興策はこれまで「高卒男子を囲い込む」政策でした。企業や公共事業を誘致し、地元に雇用を生む。当時の親の殺し文句は「車を買ってやるから残れ」でした。
男子を囲い込んでおけば、女子は地元の企業や役所で4~5年働いて、結婚・出産をするだろうという考えがあった。昭和はこれがあまりにも成功したため、平成の間、多くの自治体は思考停止に陥ってしまった。いまだに工業団地を作り、企業を誘致すれば、人口が増えると思っているわけです。
しかし、その間に何が起きたか。4年制大学への女子進学率の上昇です。豊岡で言えば、神戸や大阪や京都、あるいは東京で刺激的な4年間を過ごすことになる。そうした女性に「豊岡へ戻ってこないか」という問いかけは、18歳の男子に「地元に残らないか」と言うのと、質が違うんです。
若い女性は雇用がないから帰らないわけではなく、街が面白くないから帰らない。どうやって戻って来たくなる街を作るかが大事になるわけです。
――ここまでの取り組みを振り返って、人をひきつけることはできていますか。
アートセンターは国際化する城崎のシンボルになりました。20年から始めた豊岡演劇祭も規模が拡大しています。昨年の自由公演の申し込みは200件超。海外からも応募がありました。世界のダンスシーンでは、城崎・豊岡の名前が徐々に広がっています。
城崎温泉自体も、旅館の内装が洗練されたり、ブックカフェなどのおしゃれな飲食店が誕生したりと、イメージが良くなってきています。豊岡の市街地はまだまだ空き店舗がありますが、若い感性によるカフェなどができてきています。街並みの変化は、「戻って来たくなる街」に少しずつ近づいています。豊岡にUターンした人たちからよく聞くのが、「10年前に地元を出た時と豊岡が様変わりだ」「昔はつまらない街だったけど、今は色々なイベントが開かれ、都会と遜色がない」といった声です。最近、豊岡で増えているのが「妻ターン」です。
――UターンでもIターンでもなく「妻ターン」ですか。
豊岡を離れた女性がパートナーを連れて帰ってくるケースです。これまで故郷に戻る場合、夫の実家が多かったですが、夫婦で議論をした上で豊岡が選ばれています。
もちろん仕事があるから帰ってくるわけですが、決め手は「豊岡が面白くなってきた」ことだと思います。子育てしやすく、教育が充実した環境は当然ですが、そこにおしゃれな店ができたとか、演劇祭が始まったり大学ができたりして活気がでてきたというのが「戻って来たい」につながっています。