カテゴリーアーカイブ:地方行政

福祉サービスの地理学2

2026年1月9日   岡本全勝

福祉サービスの地理学」の続きです。久木元美琴執筆「福祉サービスの地理学の視点からみる行政領域」月刊「地方自治」2025年12月号には、次のような説明もあります。9ページ。一部省略してあります。そのほかにも、勉強になることが書かれています。詳しくは、原文をお読みください。

・・・福祉の地理学は、福祉国家の成立と変動に影響されながら発展した。19世紀末から第二次世界大戦後の経済成長期における先進資本主義国家で社会保障を中心とした福祉国家の広がりと、1970年代の石油危機以降の経済成長の鈍化と脱工業化・グローバル化の進展による既成福祉国家は転換のなかで、市場メカニズム・競争原理の導入、民間活用などが進められるようになった。こうした流れの典型的な事例として、1980年代のイギリスのサッチャー政権下における規制緩和や国営企業の民営化といった新保守主義的な経済政策の進展がある。しかし、こうした政策は、格差の拡大や教育・福祉の後退、失業率上昇などの社会的な摩擦・混乱を招き、1990年代後半には、ボランタリー部門を活用し、効率性と公平性の両立を目指す「第三の道」が登場した。

こうしたなか、福祉の地理学は、福祉国家の変容と再編の下で生じる地域における福祉供給へのインパクトや需給の地域間格差といった問題に注目する。福祉国家が前提とする「大きな政府」が相対的にその役割を小さくするならば、地方政府の財政的な基盤やそれぞれの地域で活用できる主体や資源が地域の福祉供給のあり方に影響を及ぼす。サッチャリズムに代表される新自由主義によって生じた「福祉切り捨て」(福祉支出の削減)と、それにともなう施設の地域的偏在や地域間格差の実態が、英語圏の地理学で指摘された・・・

続いて、次のような記述があります。
・・・日本は1970年代以降の脱工業化の時期に「福祉元年」を宣言したが、低成長への転換のなかで、大企業の福利厚生と家族賃金、地方の公共事業と保護・規制政策、家族主義が三位一体となった「疑似福祉システム」を福祉国家に代替させ、社会保障制度は「家族」「会社」「地域社会」によって制度化されてきた。こうした家族中心的福祉レジームに前提されたのは、女性の家庭内・地域内における無償労働であった。1980年代以降、脱工業化のさらなる進展とそれにともなう女性の就労増によって、福祉供給における家族領域は縮小した。また、国家領域においても、経済成長の鈍化による財政難と、公的福祉サービスのインフレキシビリティとパターナリズムは、福祉ニーズの多様化に対応できなくなっていた。こうした趨勢のもとで、日本でも1990年代から福祉サービスを対象とした地理学的研究が蓄積されるようになった・・・

福祉サービスの地理学

2026年1月7日   岡本全勝

久木元美琴執筆「福祉サービスの地理学の視点からみる行政領域」月刊「地方自治」2025年12月号(ぎょうせい)を紹介します。少しだけ試し読みができます。

「保育・子育支援のサービス需給に関する地理性や空間性」を研究する学問があるのですね。地理学にそのような分野があることを知りませんでした。
「地方自治体が担う福祉サービスは多岐にわたるが、なかでも保育サービスは保護者による日常的な送迎が必要である場合が多く、自宅と勤務地を含む日常の生活空間の範囲(生活圏)と行政領域の地理的な範囲との齟齬が生じた場合に困難が生じる」とあります。
地方行政と地理学というと、地方財政学での「足による投票」や、税負担と行政サービスのずれ、広域行政などを思い浮かべます。しかしそれは、自治体行政からの視野です。住民の暮らしや社会の在り方から考える必要がありました。

特に「長距離通勤のために、通勤者は朝早く家を出て、夜遅くに帰宅する。そのため、平日は家族と過ごす時間がほとんどなかった。他方で、女性はサービス経済化の進展や男女雇用機会均等法の施行などによって、雇用労働力として大きな社会的役割を担うようになっていた。このように、日本の大都市圏の日常生活における空間と時間が劇的に変化しようとしているなか、大都市郊外では仕事と家庭の両立困難が鋭く顕在化した」という指摘(6ページ)は、新鮮でした。
住宅と勤務地が離れた長距離通勤は、朝早く出勤し夜遅く帰宅する父親だからできたものです。夫婦で子育てをする場合には、難しいものがあります。
通勤地獄、長距離通勤、寝に帰るだけのベッドタウン・・・。昭和の経済成長期に、私生活を犠牲にして、会社勤めを優先しました。大きな問題と指摘されながら、一向に対策は打たれませんでした。行政の課題とならなかったのです。しかし、女性が社会進出し、他方で少子化が問題になり、男社会を前提にした通勤のおかしさが目に見えてきました。

私は、連載「公共を創る」で、働き方改革と男女共同参画が「この国のかたち」の結節点であり、日本を変えると主張しています。ちょうど連載で、通勤と保育園の問題を書いていたので、参考になりました(これも、娘夫婦の子育てを見て気づきました。霞ヶ関勤務だけではわかりませんでした)。持論を補強することができました。
都心の住宅費高騰も報道されています。大都市での通勤と子育ては難しくなりました。さて日本政府は、この問題にどのように対処するでしょうか。住宅整備、都市整備、産業振興といった視点からは、この問題は解決できません。生活者、住民の視点から考えなければならないのです。しかし、行政の組織と仕組みはそのようになっていません。

地方自治の関心を高めた首長

2025年12月30日   岡本全勝

「自治体のツボ」12月29日は「地方自治の関心を高めた首長2025」でした。「オリジナリティを出すべくもがいている地域を探してみた」とあります。どのような首長が選ばれているか、記事をお読みください。
ツボ氏は、次のような評価をしています。
「どちらも社会的な問題に対し、自治体としてやれることをやったという点で高く評価できる。対応が速い。スタンドプレーでなく、実効性を追い求めているのがとてもいい。政策立案で地域に貢献するという、行政関係者の鑑である」
「分権というか、自立というか、地域に必要なことは正面から議論しようという気持ちが薄い。国と喧嘩しろと言っているわけではない。国の力も借りながら、新しい地平を切り開く。そこに公務員の仕事の面白さがあると思うのだが」

前日は「地方自治の信頼を下げた首長2025」でした。こちらは、たくさんの首長が並んでいます。
「首長の言動に呆れ果てる1年だった。あまりにも身勝手で情けない。仕事上のミスは仕方ないが、住民そっちのけで自分だけよければそれでいいとふんぞり返る首長のなんと多いことか」とあります。確かに、仕事での失敗というよりは、倫理上の問題です。
1990年代に一部の官僚の行動(過度な接待、汚職の際の接待内容)が露見し、評価を下げたことを思い出します。思い上がりが、本人の身を滅ぼし、組織の信頼を低下させます。

自治体のツボ」は何度か紹介しているように、地方行政の話題を丁寧に拾い、取り上げてくれます。それも意外な角度からです。報道ではなかなか得られない知識があります。来年も、期待しましょう。

自治体のツボ「印象に残った2025地方コメント10選」

2025年12月24日   岡本全勝

紹介できなかった記事を、順次載せます。
まず、「自治体のツボ」11月6日の「印象に残った2025地方コメント10選」です。
いつものことながら、よく調べたものです。みなさんは、どの程度覚えていますか。
ちなみに、ツボ氏の感想は、「大したコメントがないというのが、情けない」です。

12月24日には「キレイすぎる知事の漢字」が載っています。

ノーベル賞を最も多く生む県

2025年10月15日   岡本全勝

地方行政を、鋭い角度や独特な角度から取り上げる「自治体のツボ」。10月10日は「ノーベル賞を最も多く生む県」でした。なかなか思いつかない視点です。

・・・せっかくなので30名のノーベル・ローリエイトの出身地を調べてみた。いま、東京、愛知、大阪が4人でトップタイ。京都と愛媛が3で続く。意外に均衡。あとは1人ずつ。北海道、埼玉、山梨、静岡、富山、滋賀、奈良、兵庫、山口、福岡、鹿児島、満州。

愛媛の3人は大健闘ではないか。対して東北は唯一ブロックでゼロ。田中耕一さんが東北大OBだが、東北生まれのローリエイトはいない。女性もまだゼロ。経済学賞とあわせ、この3大空白を埋められるかが、今後の日本の焦点である・・・