カテゴリーアーカイブ:著作

連載「公共を創る」第158回

2023年8月3日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第158回「官僚の役割─行政改革の影響」が、発行されました。
前回から、「官僚の役割の再定義」に入っています。社会の変化と行政の役割の変化に従って、官僚の役割も変えなければなりません。それに遅れていることが、官僚への評価の低下や若手職員の不満を生み、さらには社会の停滞を招いています。

最初に、1980年代から行われた行政改革の影響を述べます。これらの行革は、財政再建や小さな政府を目指しただけでなく、行政の役割を見直すことまで広がりました。そしていくつかの分野を除いて、官僚たちは抵抗することなく、むしろ積極的に参画しました。

しかし、いくつかの点で、問題も生じています。例えば文書の扱いです。かつては、決裁を経た文書を「公文書」と扱っていましたが、その後、職務上作成した文書は「行政文書」として扱われることになりました。今年春の国会審議で、行政文書の正確性が争われることが起きました。行政文書はかつての公文書と異なり、正確さは担保できません。それを問われても、困るのです。
また、予算と人員の削減は、官僚たちの新しい政策に取り組む意欲を削ぐことになりました。

そして一番の問題は、政治主導への適応です。政治主導は望ましいことなのですが、あまりに多くのことを首相と官邸が抱え込み、各大臣や各省官僚との役割分担ができていないように見えます。
さらに、政治主導と言われながら、法案や予算案の了解を取るために官僚が国会議員に説明に行き、国会審議の際には遅くまで待機をさせられます。野党の公開勉強会で、厳しい追及に会うこともあります。政策を考え実行するという本来の業務に、十分な労力を割けないのです。

連載「公共を創る」第157回

2023年7月27日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第157回「官僚の役割ー現状分析」が、発行されました。

政府の役割が福祉提供国家から安心保障国家へ転換することに関連して、「保障行政の法理論」を紹介しました。これは、1990年代半ば以降に、ドイツ公法学が発展させた理論です。日本では、板垣勝彦・横浜国立大学教授が研究しておられます。『保障行政の法理論』(2013年、弘文堂)。

政府機能の民営化は、行政法学に大きな問題を突きつけました。行政の活動を対象とし、その民主的統制や効率的運営を問うてきた行政法学の対象範囲が縮小するだけでなく、権力的行為も民間委託が進むことで、その存在理由を問われるようなったのです。それは、従来の公私の区分論も不安定にしました。
ところが民営化が進み、これまで行政が提供して生きたサービスを企業が提供するようになったことが、行政法学の視野を広げました。すなわち、行政機構内部にとどまっていた学問的考察が、サービスの利用者である国民をも含んだ形へと広がったのです。

今回の後半から、「官僚の役割の再定義」に入ります。行政の役割の変化に伴い、官僚の役割も見直さなければなりません。それは、この30年で進んだ官僚の地位の低下、近年の若手職員の不満と不安などにも応えることになります。

連載「公共を創る」第156回

2023年7月20日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第156回「福祉提供国家から安心保障国家へ」が、発行されました。前回「生活者省」の設置案を説明しました。今回は、生活者省の役割、自治体への影響などを説明します。

次に、もう一つの行政の役割の変化を説明します。それは、福祉提供国家から、安心保障国家への転換です。
まず、目標が福祉から安心に変わります。現在問題になっている孤立や孤独、社会生活で自立できない人のためには、福祉の提供では問題は解決しません。安心を保障しなければなりません。
そして、政府が自らサービスを提供する方式から、政府がサービスの提供と質に責任を持ちつつ、その実施については民間を利用する方式へ変わります。そして、民間の提供を含め、その量と質に責任を持つことが、政府の役割になります。
すると政府の役割が、提供者の論理から、生活者の論理に変わることが見えてきます。

連載「公共を創る」第155回

2023年7月14日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第155回「「生活者省」設置の提言─「安全網」への転換を明確化」が、発行されました。

前回に引き続き、行政の手法の転換を説明します。企画にあっては、先進国に学ぶ「追いつき型」から、国内の課題を拾い上げ対策を考える「試行錯誤型」に変わります。そして、手法は「モノとサービスの提供」から「人への支援」「人の意識への働きかけ」に変わります。また「社会の通念を変える」ということも必要です。

これらを踏まえると、行政の役割は、これまで「社会の先導者」であったものから、「困った人を支える社会の安全網」に変わります。
明治以来の省庁を見ると、富国強兵、生産と公共サービス提供に重点を置いてきたことが分かります。「安全網」への転換を明確にするため、私は「生活者省」の設置を提唱しています。

コメントライナー寄稿第12回

2023年7月11日   岡本全勝

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第12回「一身にして二生を過ごす」が、7月10日に配信されました。

高度経済成長によって、私たちの暮らしは大きく変化しました。私たちは今、もう一つ大きな変化を経験しています。経済成長期にできた「標準的家族の終わり」です。漫画「サザエさん」に描かれているです。夫婦と子2人の4人家族、父親は仕事に出かけ、母親は家庭を守ります。ところが今や、片働きより共働きが多くなりました。家族の数は1人暮らしが一番多いのです。

人権意識も大きく変わりました。私が就職した頃の人権教育は、同和問題が主でした。現在では、いじめや体罰、家庭内暴力、パワハラ、セクハラ、性的少数者へと広がりました。特に男女間の格差解消は、革命的な変化です。

福沢諭吉は江戸と明治の二つの時代を生き、『文明論之概略』で「一身にして二生を経るが如し」と述懐しています。明治維新に続き戦後改革でも、憲法体制が革命的に変わりました。
平成と令和を生きている私たちは、憲法は変わらなかったのに、革命的経験をしています。しかも前2度の革命より、暮らしの形と社会の意識は大きく変化しています。政治革命を伴わない社会革命です。