カテゴリーアーカイブ:社会の見方

公を支える官以外の主体

2010年10月19日   岡本全勝

10月18日から朝日新聞夕刊の連載「生きている遺産、暮らしの知恵」が、歌や踊りでない無形文化遺産を取り上げています。一つの社会が受け継いできた、技術、制度、対処法などです。
18日は、スペイン、バレンシア平野の水法廷でした。灌漑水路にかかわる訴訟を、農家の代表が裁きます。会員は1万世帯あまり、1000年続く伝統だそうです。この裁判は、司法への市民参加、慣習的裁判所として憲法で認められ、一般の裁判所と同じ効力を持ちます。地域の制度資本ですね。
一方、日経新聞19日の夕刊「ニュースの理由」は、イギリスのキャメロン政権が、大胆な構造改革に取り組んでいることを伝えていました。「大きな社会」を掲げ、中央政府の権限を民間企業や地域社会、慈善団体に委譲します。サッチャー首相が進めた「小さな政府」は、政府の役割を縮小し市場経済に委ねようとしました。これに対し、キャメロン首相は、大きな政府を代替するのは市場ではなく、「社会」「家庭」「個人」としています。「国家対市場」でなく「国家対家庭」の戦いだそうです。
政府が拡大したのは、行政サービスを拡大したこと、そしてその背景には市場の失敗と家庭の失敗を引き受けたことにあります。民営化、民間委託は、政府が行政サービスに責任を持つが、執行は民間企業に任せることです。ごみ集めの民間委託を考えて下さい。
さらに、福祉サービスなどは、家庭や地域社会が担っていた役割を、国家が引き受けました。すると、その仕事を政府から委譲する場合は、相手は企業ではなく、家庭や地域社会、NPOに渡すことは合理的ですね。

近過去の世相、ITバブル

2010年10月18日   岡本全勝

10月17日の日経新聞「検証、ニッポンこの20年、長期停滞から何を学ぶか」は、「育たぬ世界級ベンチャー」でした。
詳しくは記事を読んでいただくとして、1990年代から2000年代前半にかけての「ベンチャーブーム」と、そのピークだったITバブルについて、書かれ ています。若い方は、ご存じないかもしれません。もう10年も経ったのですね。アメリカのシリコンバレーに対して、渋谷にITベンチャーの集積地をつくろ うという「ビットバレー」構想がありました。ベンチャービジネスと、若い企業家がもてはやされました。マスコミも、大きく取り上げました。その後、あれよ あれよという間に、しぼんでしまいました。その多くは、実体の伴わないマネーゲームだったようです。
成功した事業は、たくさん記事や記録が残ります。うまくいかなかった事業は、関係者も口を閉ざし、記録が残りません。このような検証記事は、後に続くものにとって、貴重です。

日の丸半導体のその後

2010年10月12日   岡本全勝

10月10日の日経新聞「検証、ニッポンこの20年、長期停滞から何を学ぶか」は、「半導体王国の慢心。内向き競争、世界は先へ」でした。
1990年の半導体メーカー売上高ランキングをみると、首位はNEC、2位が東芝、日立が4位でした。2009年のランキングでは、東芝が3位に残ってい ますが、NECの名前はなく、日立は三菱電機と統合したルネサステクノロジとして8位です。日本に代わって、首位と4位を占めているのは復活したアメリカ 企業であり、2位は韓国企業です。
・・世界を席巻した日本の半導体は、なぜ大きく後退したのか。東芝の半導体事業の総帥として全盛期に指揮を執った元副社長の川西剛氏は・・「やはり世界を見ないで、国内を向いて競争していた。それが今日の事態を招いた」と指摘する・・

フランスは日本漫画の最大輸入国

2010年10月9日   岡本全勝

10月8日の読売新聞「緩話急題」、鶴原徹也記者の「MANGA仏訳1200作品」から。
・・MANGAがフランスを席巻している。同国で昨年出版された漫画本の実に4割が日本漫画で、1200作品以上が仏訳され、計1300万部を超えた。これまでに仏訳された日本人漫画家は、少なくとも450人にのぼる・・
「フランスは日本漫画の最大輸入国です」。超エリート校、パリ政治学院のジャンマリ・ブイス教授(60)が語る・・教授によると、日本漫画の成功は「親と 役人の干渉がなかったこと」。漫画家は10代前半の子どもを喜ばせるために何でも描いた。一方、仏漫画や米漫画は、検閲のため制約が多くあった。「奔放さ こそが日本漫画発展の土台です」と言う。
パリ近郊で毎年開かれる漫画、アニメを中心とする「ジャパン・エキスポ」は11年目の今年、入場者が18万人を突破した。フランス有数の集客イベント、パリ国際モーターショーに迫る勢いだ・・
すごいことですね。

トクヴィル

2010年10月7日   岡本全勝

富永茂樹著『トクヴィル-現代へのまなざし』(2010年、岩波新書)を読みました。近年、トクヴィルがよく取り上げられます。極端に簡略化すると、自由と平等が進んだ社会がどのような病理を生むか、という視点からでしょう。19世紀前半に生きたトクヴィルが、現代を予測していたという視点です。宇野重規先生の著作も、かつて紹介しました(2010年5月5日の記事)。
富永先生のこの本も、鋭い切り口から、トクヴィルの著作と思想を分析しておられます。学生時代に、『アンシャンレジームと大革命』と『アメリカのデモクラシー』を読みましたが、こんなに深く考えが及びませんでした。前者はフランス語と英語で読み、後者は私にとって読みづらい翻訳だったというのが、言い訳です。その後、両方とも、読みやすい訳が文庫本で出たので、言い訳ができなくなりました(苦笑)。