カテゴリーアーカイブ:社会の見方

マナーの作り方、国民性の変化。エスカレーター

2016年7月26日   岡本全勝

7月20日の朝日新聞夕刊「あのときそれから」は、「エスカレーター片側空け出現」でした。1980年代から、急ぐ人のために、エスカレーターの片側を空けることがマナー(礼節)になりました。関西では左側を、関東では右側を空けるようです。私も「新地方自治入門」で、「現在作られつつある習慣」と紹介しました。しかし、最近では事故防止のためなどに、空けない=2列に並ぶことが推奨されています。興味深いのは、次のようなことです。
まず、そのマナーの導入に際し、「先進国を見習え」という手法が用いられたことです。
・・・1980年代の朝日新聞をめくってみると、ロンドンの地下鉄で見られる習慣の素晴らしさを絶賛し、翻って日本では…と嘆く記事がいくつも見つかる。
「日本の都市でのふしぎな光景は、すいているエスカレーターでもほとんどが歩かぬことだ。(中略)一種の『こっけいな日本風俗』の一つであろう」(83年11月28日付)
「片側一列に立って、急いで昇降する人たちのために、かたわらを空けておく、英国などでみられるマナーは日本でもまねたいもののひとつだ」(86年8月5日付夕刊)・・・
今読むと、新聞の論調、そしてそれを受け入れた国民性に、驚きます。今このような記事を書くと、どのような反響が返ってくるでしょうか。たった30年で、こんなに変わるのですね。もっとも、この手の手法は、形を変えて使われています。

作家の山本弘さんは、次のように語っています。
・・・日本人が昔から「マナーを守る礼儀正しい民族」だったかというとそんなことはありません。歴史の本で大きな事件はわかっても、細かいことは書かれていないのが普通ですから、誤解してしまうのかもしれません。社会が一種の記憶喪失になってしまっているともいえます。
交通にかかわるマナーでいうと、駅弁の食べかすやゴミを座席の下に突っ込んでおく、などというのは当たり前でした。現代の清潔な列車からは想像もできないでしょう。僕が子どもの頃にはまだ電車の乗り降りでも、降りる人と乗る人がぶつかり合って大混乱していました・・・

学問を進化させる社会の条件、中山茂先生

2016年7月24日   岡本全勝

先日、その一部を紹介しましたが、中山茂著『パラダイムと科学革命の歴史』(2013年、講談社学術文庫)が勉強になりました。科学の進化には、通常科学と科学革命があること。すなわち、社会の常識となっている自然の見方(パラダイム)を科学革命が壊し、新しいパラダイムを設定します。コペルニクスであり、ニュートンであり、アインシュタインです。そして、その後の科学者は、そのパラダイムの下で、それを精緻化する作業(通常科学)をします。そして、次の科学革命が起き…と繰り返されます。
そのほか、どのような要素が、科学の進化に影響を与えたかが、社会学的に分析されています。中国官僚制(科挙)と紙と印刷技術が、学問を固定化し訓詁の学を生んだこと。それらがなかった、あるいは遅れたイスラムと西洋では、話すことで学問が進んだことなど。なるほどね。
17世紀以降の科学の進化と、学会の役割、大学の機能、大学院の機能。これらが、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカの順に、それぞれが置かれた歴史、社会的背景から勃興してきたこと。それらを19世紀に「輸入」した日本の場合。その輸入学問の効率性と限界が指摘されています。
科学や学問の進化が、それを生みだす社会とどのような関係にあるのか。大学や大学院の機能と限界、日本の学問の限界などが、わかりやすく解説されています。これまで断片的に知っていたこと、何となく考えていたことが、理路整然と説明されています。随所で、なるほどと思います。社会学、歴史として、とても面白い本です。文庫本で読みやすく、お勧めです。基となった本は、1974年に出ています。もっと早く読めば良かったです。反省。

社会主義国家日本

2016年7月20日   岡本全勝

日経新聞7月17日「日曜に考える。激動人民元」、凌星光・中国社会科学院研究員の発言。凌さんは東京出身、一橋大学を中退後、新中国へ帰国し、研究者として活躍します。1978年、中国社会科学院の日本経済研究グループ長に就任し、翌年、視察団として日本を訪問します。そのときの感想です。
・・・これこそ中国が求めている社会主義だと思った。高度成長で貧富の格差が縮小し、社会保障制度が整い、社会のモラルが高かった。日本は資本主義の国だが社会主義的な要素が多く、中国の改革は日本に学ぶべきだと訴えた・・・

相を反映する食事、食費

2016年7月16日   岡本全勝

7月16日の朝日新聞天声人語は、「エンゲル係数の上がる国」でした。
・・・明治の昔、日本のエンゲル係数は60~70%で推移した。昭和の初期は50%前後に下がったが、敗戦による窮乏で再び60%前後に戻った。高度成長をへて20%台へ下がった・・・それが再び25%を超えたそうです。
貧しさの反映ということより、世相を反映している部分が興味深いです。
・・・調理済み食品を買って家で食べる人が増えた。レジ前での大藪さんの観察によると、いまや買い物カゴの中身は、女性客がお総菜、若い男性が即席麺、高齢男性はお弁当である。これら「中食」の急増が係数を押し上げた・・・
なるほどね。若い人のカップ麺やコンビニ弁当依存は、心配になります。栄養が偏りますよね。彼らのエンゲル係数はかなり低く、逆に、スマホなどに使っている通信費が大きくなっているでしょう。

高岡さんの新著

2016年7月8日   岡本全勝

高岡望・前ヒューストン総領事が「アメリカの大問題―百年に一度の転換点に立つ大国」(2016年、PHP新書)を出版されました。
毎日のようにアメリカの問題が報道されます。しかし、そのできごとを大きな視点から見ると、違ったことが見えてきます。この本は、格差、力、エネルギーという3つの切り口から、アメリカのそして世界の構造変化を分析しています。ヒューストンというホットな地域からの具体的なレポートであり、大きな視野からの分析です。時宜を得た出版で、お薦めです。
高岡さんは、以前に「日本はスウェーデンになるべきか」(2010年、PHP新書)も出版されています。忙しい公務と日常の中で、話題を集め書きためておられたのでしょうね。頭が下がります。