カテゴリーアーカイブ:社会

産学協同、日米の違い。

2021年8月30日   岡本全勝

日経新聞「私の履歴書」、永山治・中外製薬名誉会長の8月21日の「研究開発」から。

・・・このときの精神を持ち続け、時間があれば研究開発部門のトップやリーダー格の研究者と英オックスフォード大学やケンブリッジ大学などにも行った。論文や名簿で「この人は面白そうだ」という人を探し出し、英国の知り合いを通して会いに行った。米国の大学もいくつも訪ねた。

1980年代だったと思うが、米テキサス大学に行くと、びっくりしたことに学長、医学部長、教授ら十数人が会議室で待ち構えていて「何でも聞いてください」と言う。大学にとって製薬会社は臨床試験をやってもらう「お客さん」でもある。
医学、生命科学の研究内容は一冊の本にまとめられ、誰がどんな研究をしているかすべて書いてあった。各項目にはチェック欄があり、チェック済みのものは既に他社と組んでいるという。それ以外ならどれでも共同研究をしましょうと持ちかけてきた。

このスタイルは最近でも同じだ。10年ほど前に米MDアンダーソンがんセンターを山崎達美さん(元副社長)と訪ねたときも、大きな部屋に幹部が勢ぞろいしており何でも議論しましょうと言われた。
日本はどうか。当時は有名大学でも、隣の研究室が何をしているかほとんど知らなかったのではないか。医学部の研究者に面会を申し込むと興味のあるテーマなら会ってくれるが、せいぜい一対一だ。米国の方が、産学共同研究が非常にシステマチックだ・・・

大学志望理由、合格できそうだったから

2021年8月30日   岡本全勝

8月26日の読売新聞夕刊に「大学の志望理由…男子「合格できそうだったから」、女子は「将来の仕事と関連しているから」」が載っていました。

・・・大学の選択理由を複数回答で尋ねたところ、男子は「合格できそうだったから」(39・1%)、女子は「将来就きたい仕事と関連しているから」(49・0%)の割合が最も高かった。
大学・短大などの学校選択理由と進路選択の満足度を調べたところ、「合格できそう」を理由とした人は選択した進路に「不満」と回答した割合が21・5%に上った。「友人が選択していたから」も、不満の割合が18・3%だった。
これに対し、「授業内容に興味があったから」を理由とした人は、満足と答えた割合が93・9%に上った。「他校よりも入試の難易度が高いから」(93・1%)、「学校の雰囲気が良かったから」(94・3%)とした人も満足度が高かった・・・

合格できそうな大学に行くという男子生徒に、日本の大学の存在理由が、よく見えています。大学進学率は5割を超えています。何のために大学に行くのか。そして、学生たちは何を求めているのか。それが先にあって、その次に合格できる大学に行くのでしょう。
目的も曖昧なままに大学に進学する。これでは、満足は得られないでしょう。
大学に問題があるのではなく、このような「人生の時間の無駄」を許容している日本社会に、問題があるのでしょう。

暴力団の衰退

2021年8月27日   岡本全勝

8月20日の朝日新聞オピニオン欄「消えゆくヤクザ」から。
「暴力団対策法が成立して今年で30年。ピーク時で20万人近くいたとされる暴力団員は、3万人以下に減った。「ヤクザ」はこのまま消え去るのか。それは警察や社会の勝利なのか」

藪正孝・福岡県暴力追放運動推進センター専務理事の発言
・・・暴力団はかつて、義理と人情にあつい世界、といった肯定的なイメージで語られることがありました。しかし実態は、違法薬物の密売や特殊詐欺などを繰り返す「犯罪組織」であることは明らかです。社会に寄生し、市民社会から利益を不当に吸い上げていると言えます。
覚醒剤は、2019年に全国の押収量が過去最多の2トン超にのぼりました。特殊詐欺の被害額は、昨年1年間だけで約285億円。こうした犯罪の多くに暴力団が関係しており、犯罪収益が「上納金」として組に流れています。
また暴力団は、意に沿わない市民に、容赦なく暴力を振るいます。工藤会は「暴力団排除」を表明していたクラブに手榴弾を投げ込み、従業員ら12人に重軽傷を負わせました。山口組も放火で風俗店従業員3人を殺傷しています。
時に「ましなヤクザ」はいても、「いいヤクザ」などいない。彼らは最後は常に「暴力」なのです・・・

広末登・犯罪社会学者の発言
・・・ただ、新たな問題が表れています。10~18年の9年間で、暴力団を抜けた人は計5453人。そのうち就職者数は165人と約3%しかいません。暴力団離脱後の受け皿が社会にないのです。
たとえば各地の暴排条例には、離脱後も5年間は暴力団員とみなす「元暴5年条項」があり、銀行口座などを簡単には持てず、就職も容易ではありません。仕事がなければ家族を養えない。彼らは犯罪の技術やネットワークを持っているので、特殊詐欺や覚醒剤の密売といった違法行為に走ってしまう・・・
・・・暴力団員は、経済的困窮や家庭内暴力、ネグレクトといった境遇で育ったケースが多い。犯罪や非合法な行為が身近な環境で育ち、一般社会の適切な価値観に触れずに成長する場合も散見されます。なのに、そこから抜け出そうとしても、社会復帰の道は極めて険しい。ある人間が属性要件のみで排除される社会は健全とは言えません。
暴力団は弱体化しましたが、代わって「元暴アウトロー」や「半グレ」という別種の危険な存在が跋扈している。そんな裏社会のありようは、今の表社会の限界を示しているのかもしれません・・・

禁止し、罰を加えるだけでは、問題は終わりません。排除だけでなく、この人たちをどのように受け入れるかが重要なのです。

責任の取り方、けじめ

2021年8月26日   岡本全勝

8月21日の朝日新聞オピニオン欄「過去の背負い方」、瀧川裕英・法哲学者の「責任果たす行為の難しさ」から。

・・・過去の悪事が免責されることはあるのでしょうか。法の世界には時効という制度もありますが、私たちが広く社会的責任について考える際に大事なのは、時の経過それ自体が何かを免責するわけではないということです。人が積み上げる行為こそが、その人を過去の悪事と切り離す。つまり責任を果たす行為によって過去は遠くなるのです。
ただ実際には、過去の責任を果たすことは非常に難しい行為でもあります。過去におかしたことは変えられない以上、できることは限られている。私たちにできるのはせいぜい、過去に自分がしたことの持つ「意味」を事後的に変えるだけかもしれません・・・

・・・では、社会に求められることは何でしょう。まず、責任が果たされていないときには、過去のその行為は悪いことであり、責任を果たすべきだと繰り返し宣明していくことだと思います。被害者を社会的に承認する作業です。
もう一つは、過去に区切りをつけて未来へ歩みを進めるためにはどうしたらいいかを考えることでしょう。責任をどう有限化するか、です。
過去の行為を許すことは、被害者にとっても意味がないわけではありません。加害者を許さない状態では、現在をうまく生きることができず、それは結局「自分」を許さないことにつながりうる。適切に区切りをつけられれば、未来への歩みを始められます。
私たちが責任について考え続けるしかない理由の一つは、責任の果たし方について決定をしなければならないからです。今回の「辞任ドミノ」でいえば、なぜ一方が辞任で他方は解任なのか。決定が適切に模索され、決定の理由がきちんと説明される。そのような議論の積み重ねが必要なのだと思います・・・

参考「責任の取り方
ところで、肝冷斎が、プロ野球、中田選手の暴行事件について、鋭い指摘をしています。暴行事件を起こし、日本ハム球団で出場停止になったのに、読売球団に移籍したらすぐに公式戦に出場していることについてです。

コロナの影響、自殺者と出生数の増減。欧州と日本の差

2021年8月16日   岡本全勝

朝日新聞ウエッブ論座、山内正敏・スウェーデン国立スペース物理研究所研究員の「コロナ禍での「自殺者増、出生数減」は欧州には当てはまらない。字面を見ると「緩い」が、実質的には欧州より「厳しい」日本の対策」(8月12日掲載)から。

・・・コロナ禍が自殺者数や出生数(妊娠数)にどんな影響を与えたのか気になっていた。
この手の速報の早い日本では、既に出生数の急減と自殺者の増加が判明している。昨年の第一波の間こそ自殺者は減ったが、その後増加して特に若い女性の自殺者がコロナ禍の期間に増加した(朝日新聞記事)。また、妊娠数(今年の出生数として反映)は、これまでのトレンド(4-5%減/年)以上に減っていることが判明している(右図)。

ならば、コロナ禍の被害が日本の10倍で、対策も厳しかった欧州は、もっと影響が大きいだろうと思っていた。しかしスウェーデンの統計結果は意外なものだ。自殺者数が2019年より減っており(長期統計的には増えていないという言い方になる、下の左図)、その理由を研究者が分析する新聞記事も出た。
また、出生数は今年2月以降微増していて、出生数減少の過去のトレンドを差し引くと実質的な増加と判断して良いだろう(上の右図)。
自殺が増えていないのはスウェーデンだけではない。ドイツ、オーストリア、英国イングランド地方の速報でも微減で、少なくとも増えていない(統計的にはここまでしか言えない)。
出生数の増加はドイツでも見られて、今年3月は過去20年で最大の出生数となった。「コロナによるベビーブーム」と報道しているところもあるぐらいだ。
日本とここまで違うのは何故か?・・・

・・・日本の場合は、「ロックダウンをしない」「緊急自体宣言時以外は強制的な制限もしない」という、字面だけ見れば北欧の方式よりもさらに緩い規制が特徴だ。
厳しかった欧州と、緩かった日本。これが名目上の対策の厳しさだ。しかし、自殺者数や出生率は、日本だけが悪影響を受けている。そもそも、「客観的」な対策の強弱は、必ずしも「体感的な」対策の強弱を意味しない。例えば税金だが、同じ税率でも「高過ぎる」と思うか「高いけど妥当」と思うか、日本と北欧とタックスへブンでは、全然違うだろう。
となれば、日本の対策が、実質的には北欧や、ことによってはドイツより厳しかったと考えるのが自然だ。では、その要因は何なのか? 思いつくのが、「同調圧力」と「公平感(サポートの多寡を含む)」、「将来への見通し」だ。

同調圧力については改めて語るまでもあるまい。義務化どころか勧告すらされていない「お願い」なのに、たとえば他県に出かけて白い目で見られ、時には暴力的な言葉でなじられ、実際に暴力行為も発生したといった例は数多く報道されている。もちろん、極端な例ばかりが報道されている可能性はあるし、スウェーデンにもそれなりの同調圧力はあるが、それでも日本に住んでいた頃や日本に帰省した時に感じる「白い目」は、スウェーデンや欧州出張の時に感じる「白い目」よりもはるかに強い・・・

・・・こういう2年目に向けた対応は、将来への見通しという、別の「体感」要素にも繋がる。現時点での困窮でなく将来への漠然とした不安と、それによる鬱症が若年自殺層には多いと思われるからだ。
その点、北欧やゲルマン各国はセーフティネットがしっかりしているし、転職のサポートも強い。つまり、コロナによる将来の困窮を日本ほど心配する必要がないのだ。さらに「非日常」という状況が、悩みや鬱を棚上げにする心理効果もあるだろう。それらがキャンセルして、自殺者が増えないという結果を生んでいるのではないか。出生率の上昇も、将来への見通しが暗くないからこそ可能だ。

また、短期目標の立て方も欧州は明快だった。「クリスマス、夏の休暇をとれるようにがんばろう」という目標である。特に夏休暇は絶対に守るというスタンスは、日本人には理解し難いかもしれない。しかし、昨年はそれが最終防衛ラインで、一番収束の遅かったスウェーデンすら間に合って、国内の別荘に散って行った。今年は昨年困難だった欧州内のバカンス地域に行くことを最終目標に、ワクチンを普及させつつ、長くて厳しいコロナ対策に欧州人は耐えて来た・・・
原文をお読みください。