カテゴリーアーカイブ:社会

転職理由は収入増ではなく、労働環境

2021年10月31日   岡本全勝

転職者数の増加」の続きです。10月21日の朝日新聞「日本経済の現在値2」「キャリアアップは一部だけ 13人に1人、25~34歳の転職」から。この記事は昨日30日に載せたのですが、順番を間違えたので掲載し直します。

・・・業界大手のマイナビの調査をみて驚いた。正社員で転職した人の平均年収をみると、転職前は461・2万円だったのが、転職後は453・0万円に減っていたのだ。リクルートワークス研究所の調査でも、転職後に年収が5%以上あがったと答えた人は日本では39・7%のみ。海外では米国やフランスが75%以上で、日本の低さが際立つ。
では、いったい何のために転職しているのか。

マイナビの調査によると、転職先の条件としてこだわった点には、給料アップよりも希望する勤務地や休日・休暇制度が整っていることを挙げる回答のほうが多かった(複数回答)。厚生労働省の19年の雇用動向調査をみても、転職の理由は収入よりも「労働時間・休日等の労働条件」や「職場の人間関係」の方が多い。
マイナビの関根貴広研究員は「最近はワーク・ライフ・バランス(WLB)への注目を感じる。テレワークや育休へのニーズも強くなり、自分らしく働ける仕事を求める意識が高まっている」と話す。

ただ、様々なデータをみる限り、転職のあり方が昔に比べて大きく変わったとは言いがたい。海外のようにキャリアアップで高い賃金を得られるような転職は一部に限られ、むしろ、非正規労働者が仕事を転々としたり、正社員も職場の環境が悪いために転職を望んだりしているようにもみえる。転職しやすい環境を整え、成長分野に人材がスムーズに移動できれば経済も活性化する。そんな政府や経済界が強調してきた転職像とは、ギャップがあるのではないか・・・

転職者数の増加

2021年10月30日   岡本全勝

10月21日の朝日新聞「日本経済の現在値2」「キャリアアップは一部だけ 13人に1人、25~34歳の転職」から。

・・・最近、テレビやインターネットで転職業界のCMや広告をよく見るようになった。まわりでも若い人の転職が増えた気がするが、実際はどうなのだろう。海外では賃金などの条件がいい会社へと転職を繰り返し、キャリアアップをしていくのが当たり前だとも聞くけれど、日本もそんな社会になってきたのだろうか。

まず、総務省の労働力調査を見てみると、たしかにコロナ禍前の2019年の転職者数は過去最多の351万人だった。働く人全体に占める割合を示す転職率も、ちょうど記者(29)と同年代の25~34歳は7・8%と過去最高水準で、13人に1人が転職していた。
ただ、過去にさかのぼってみると、むしろ、どの年代も転職率は00年代半ばごろがピーク。とくに若年層の15~24歳では、05~06年に14%超と、足元を超える転職率だ。いったい、何が起きていたのか。
当時の労働経済白書などをもとに理由を探ると、企業の倒産が相次いだ00年前後の就職氷河期に、希望する待遇や職種の企業に入れなかった人たちが、景気の回復にあわせて転職するケースが多かったようだ。
じつは統計上、転職者数には、景気によって雇い止めなどにあいやすい非正規の働き手も含まれている。19年の転職者も半数以上の192万人が非正規で、同様な傾向は少なくとも00年代初めから続いていた。
00年代半ばに増えてきた転職は、08年のリーマン・ショック後の不況で再び減り、ここ数年でリーマン前の水準に戻ってきた。ただ、その理由を探っていくと、以前とは違う要因も見えてきた。

エン・ジャパン社で人材紹介サービスを統括する藤村諭史さんは、人手不足と若者の意識の変化を挙げる。「人手不足で12年から売り手市場が広がり、18年までは特に若手採用が活況だった。最近の若い世代は自分のキャリアを自分でつくっていく、という風潮がある」と指摘。企業側も即戦力の人材を求める傾向が強まっていて、「35歳以上の世代の転職も今後増えていくのではないか」という。
海外では、自分で将来のキャリアを考え、転職を繰り返すのが当たり前とよく聞くけれど、どれぐらい違うのだろうか。
同じ企業に10年以上働く人の割合を、労働政策研究・研修機構の資料で比べてみた。日本は45・8%で、20%台の米国や韓国との差は大きい。一方、解雇規制が比較的厳しいとされるフランス(45・6%)やドイツ(40・3%)は、日本とそれほど変わらなかった・・・
この項続く

親ガチャという不平等

2021年10月20日   岡本全勝

10月14日の朝日新聞オピニオン欄は、「親ガチャという「不平等」」でした。
・・・「親は選べず、親次第で人生が決まってしまう」。そんな人生観を表す「親ガチャ」を巡り、論争がわき起こった。SNSのスラングとされるこの言葉になぜ人々は反応するのか・・・

土井隆義・筑波大学教授の発言「実は親でなく社会の問題」から。
・・・親ガチャを巡っては、「自分の努力不足を親のせいにするな」という中高年に対し、若い世代は「分かっていない」と反発しています。
私は、世代間の認識ギャップとして、この問題を理解する必要があると思います。
まず努力の認識が世代によって違います。日本経済が大きく成長していた1990年代までを体感した中高年は、進学・就職・昇進などで自分のなした努力以上のリターンを得ることができた。一方、30代以下は経済成長率が1%台の世界を生きてきた世代です。努力しても、そのリターンは小さなものになっている。「人生は努力する価値がある」と言われても、「努力して成果があるのか」と疑念が先に立ってしまうのです・・・
・・・私は、親ガチャという言葉で自分の境遇を憂える若者にも、認識上の錯誤があると考えます。格差は私たちが作る社会制度によって解消されるべきものだからです。社会の問題を、個々の家庭の問題にすり替えてはいけません。
若者自身も、この状況を改善するため、社会に対して声を上げてほしいと思います・・・

五十嵐衣里・東京都議会議員・弁護士の発言「「頑張れば」は呪いの言葉」から。
・・・自分の置かれた境遇を嘆く人に対し、「頑張れば成功できる」と説く人はたくさんいます。私はこの言葉は「呪いの言葉」だと思っています。貧困を生んでいるのは政治や社会なのに、個人に責任を押し付けているからです。
私はたまたま勉強が苦でなく、勉強できる環境も整っていました。でも、環境が整っていない人や、何を頑張ればいいかわからない人もいます。そんな人たちにも、あきらめを強要する言葉です・・・
・・・政治の役割は家庭に恵まれなかった人のために環境を整えることです。必要な知識や技術を身につける学びの場を増やし、金銭的支援もする。多様な経歴や背景を持つ人たちが政治に関わり、それぞれの視点で支援策を提案していければ、「親ガチャ社会」を変えられるはずです・・・

教科書を覚える教育

2021年10月20日   岡本全勝

10月12日の日経新聞教育欄、中山迅・宮崎大学教授の「理科教育の課題 「科学とは」授業で欠落」から。

・・・経済協力開発機構(OECD)が15年、高校1年生を対象に行った学習到達度調査(PISA)で「科学とは何か」に関する認識を調べた結果も気になる。
その内容はこうだ。科学の特徴には、観察や実験から得られた証拠に基づいて真偽が決定される「実証性」▽同じ条件で何度繰り返しても同じ結果が得られる「再現性」▽定説とされる理論や法則も新しい発見があれば覆される可能性があり、「正しさ」は当面のものであるという「暫定性」――などが含まれる。
「何が真実かを確かめるよい方法は、実験することだ」という見解への賛否を尋ねる形で実証性に関する認識を調べたところ、この見解に賛成した日本の高校生は80.6%だった。
同様に「発見したことを確認するために、実験は2度以上行った方がよい」(再現性)には81.2%、「科学の本に書かれている見解が変わることがある」(暫定性)には76.9%しか賛成していない。数値だけ見ると高い割合と感じるかもしれないが、他国と比べると実は日本は最も低いグループに位置している。

例えば米国は実証性には90.0%、再現性には91.7%、暫定性には86.8%がそれぞれ賛成している。教科書に書いてあっても新事実の発見で学説が変わりうることは自然科学では当たり前であり、それこそが科学の発展の一部なのに、そのことを認めない若者が無視できない割合でいることに驚かされる。
どうも教科書の内容を絶対視しすぎているようなのである。日本人は全体的に高い科学的知識があるが、科学の本質についての理解が十分かというと、そうでもない。
原因の一つは学校の教科書に「科学とは何か」を教える内容が乏しいことにある。学習指導要領に、学習すべき内容として明記されていないため、教科書でもほとんど触れられていない・・・

ノーベル賞真鍋さん、日本に帰りたくない理由

2021年10月16日   岡本全勝

10月9日の朝日新聞夕刊「真鍋さん、言葉濁した日本への思い」から。

・・・97年、真鍋さんは約40年ぶりに日本に戻り、科学技術庁(当時)の地球温暖化予測研究領域長のポストに就いた経験がある。だが、2001年秋、気候変動予測のスーパーコンピューター「地球シミュレータ」が稼働する前に辞任した。
《温暖化研究、第一人者失う》。当時の朝日新聞はそんな見出しで真鍋さんの辞任を報じている。

会見では国籍を米国に変えた理由も聞かれた。
「日本で人びとは常に、お互いの心をわずらわせまいと気にかけています。とても調和の取れた関係性です。日本人が『イエス』と言っても、それは必ずしも『イエス』を意味せず、『ノー』かもしれません」
「なぜなら、誰かの感情を傷つけたくないからです。アメリカではやりたいことができる。他人がどう感じているか、それほど気にしなくていい」
「米国で暮らすって、素晴らしいことですよ。私のような科学者が、研究でやりたいことを何でもやることができる」
「私は調和の中で生きることができません。それが、日本に帰りたくない理由の一つなんです」
会場が笑いに包まれる。真鍋さんは4秒間、観客を見渡した。笑わせようと冗談を交えたのか、あるいは本気で言ったのか。表情からは、読み取れなかった・・・