「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということわざがあります。二つのものを同時に取ろうとして、両方とも得られないことです。「虻蜂(あぶはち)取らず」も同義です。
霞ヶ関の官庁や地方自治体の人と話していて、改めて気がついたことがあります。仕事量が限界を超えていて、十分に処理できないこと以上に、困ったことになっているのではないかということです。
この30年間、行政改革の旗印の下、職員数の削減を続けました。バブル経済崩壊後の日本の風潮にも乗って、政治家だけでなく私たち官僚も正しい道だと考えていました。しかし、それにも限界があります。他方で、行政改革では仕事は減らず(予算は減っても、法律と政策はほとんど減っていません)、それどころか新しい仕事が増えています。職員数が減って、仕事が増える。その結果は、職員一人あたりの仕事量が増えているのです。これまでも、多くの職員は余裕のある仕事ぶりではありませんでした。
一人が処理できる仕事量を100だとします。従来の仕事Aが100として、新しい仕事Bが30追加されるとすると、合計で130。処理可能量を30超過します。すると、例えばAを70にし、Bを30して、合計100をこなすことになるでしょう。
ところが、そうはならないのです。「二兎を追う者は一兎をも得ず」が当てはまり、仕事Aも仕事Bも中途半端になって、例えばAが65、Bが15で、合計80になるのです。
二つとも完成せず、さらに総処理量も減るのです。人間の処理能力を超える仕事をやろうとすると、かえって処理量が減ってしまうのです。それだけでなく、職員の精神衛生に悪い影響を与えます。
皆さんも、学生時代の勉強や、忙しい時期にこんな経験をしたことがありませんか。
「集中力、その2。本人側の邪魔する要素」「同時に2つのことはできない」