小西砂千夫先生が『市場と向き合う地方債-自由化と財政秩序維持のバランス』(2011年、有斐閣)を出版されました。あとがきには、次のように書かれています。
・・地方債の市場はどのように機能しているのか、そこでは完全情報は期待できるのか、市場の不安定性はどこから来ているのか、地方債の安全性を担保している原理は何か。これを丁寧に解きほぐしていく必要がある・・
地方債については、これまでは、実務家の書いた制度解説と少しの書物しかなかったので、貴重な本だと思います。
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地方行財政
砂原准教授の新著
砂原庸介大阪市立大学准教授が、『地方政府の民主主義-財政資源の制約と地方政府の政策選択』(2011年4月、有斐閣)を出版されました。著者の意図は、彼のブログをご覧下さい。
砂原君は、私が10年前に東京大学大学院に客員教授として出講していた時に、塾頭として授業を取り仕切ってくれました。とても優秀な院生で、教授である私より、彼の方がはるかに物事に詳しく、教えられることが多かったです。
もちろん、地方行政や国家行政の現場経験は、私の方が詳しく、その土俵で勝負していました(笑い)。もっとも、実務家教員である私に求められていたのは、本に書いてある理論ではなく、現場経験でしたから、それは間違っていなかったのですが。
講義を始めてしばらくして、学生の反応を確かめるため、「私の講義は難しいですか」と尋ねたら、「いいえ、どんどん難しくしてください。ついて行けない時は、言います。また、本に書いてあることは、『この本を読め』と指示してくだされば読みますから、本に書いてないことを教えてください」という趣旨の返事が返ってきたことを、覚えています。
社会学を専攻するものだと思っていたら、行政学しかも地方自治を専門に選びました。それについては、私も責任の一端があります。この本のあとがきに、少し触れられているので、お読み下さい。
う~ん、責任重大ですね。さらに研究を深められ、大成されることを期待しています。
地方消費税充実の理論書
持田信樹東大教授、堀場勇夫青山学院大教授、望月正光関東学院大教授が、『地方消費税の経済学』(2010年、有斐閣)を出版されました。地方消費税が1997年に導入されて、10年以上が経ちました。次なる地方税財政の充実を考える際に、地方消費税の拡充は必須です。
この本では、理論と実際の両面について、世界の理論的・制度的な流れに立って、研究と提言をしておられます。特に、地方税としての性格をさらに強化するために、都道府県の産業連関表を用いてマクロ税収配分を行うことを提言しておられます。
地方税財政研究の必読文献です。ご一読をお勧めします。
赤井先生と佐藤先生の地方税改革案
今日12月20日の日経新聞経済教室は、赤井伸郎阪大准教授と佐藤主光一橋大教授の「地方税制の抜本改革。財源確保に説明責任を」でした。お二人の主張のポイントは、次の通りです。
1 現在、国の消費税に連動している地方消費税を分離独立させ、地方消費税は国税とは別に税率を決めること。
これによって、地方消費税について、地方税としての負担感を認知され、地方が増税の説明責任を負うのです。
2 現在、地方税である法人事業税を国税とし、代わりに国税である消費税と入れ替えること。これで、地方税収の不安定性と、地域偏在が大きく解消されます。
3 現在、地方交付税財源である国税の一定割合を、地方交付目的税として、国税から分離し地方の固有財源にすることです。
これによって、これらの財源が地方の固有財源であることがはっきりします。
この案は、国民の税負担は変えずに、地方の財源を増やし、経済変動による税収の不安定や地域間偏在を解消しようとする、現実的な案です。詳しくは、原文をお読み下さい。
憲法の定め、行政権は内閣と地方自治体に
23日の朝日新聞夕刊「窓」は、坪井ゆづる論説委員の「憲法65条のふたり」でした。
・・(菅直人首相が所信表明演説で述べた松下圭一先生が)菅氏のかつての国会質問を「あれが分権のひとつの起点になった」とほめていたのを覚えている。
質疑は1996年の衆院予算委員会であった。菅氏は憲法65条「行政権は、内閣に属する」について、「この行政権の中に自治体の行政権も含まれるのか」とただした。内閣法制局長官は「含まれない」と答えた。新しい解釈だった。これでやっと明治以来の政府に対する自治体の「従属」が終わり、「対等」な関係へと切り替わった。そして分権改革がすすみ始める・・
この答弁と行政権が内閣と地方自治体に属することについては、拙著『新地方自治入門』p22で解説しました。さらに、日本の統治は、まず中央政府と地方政府に垂直に分立され、そして次に水平的に中央政府にあっては三権分立、地方政府にあっては二権分立になっていることは、同じくp276で図示して解説しました。
社会科の授業や憲法の解説で、「日本は三権分立」と教えられるので、地方自治体の位置付けや垂直的分立が、国民には十分理解されていません。