カテゴリーアーカイブ:人生の達人

マスク氏、週40時間の出社を求める

2022年6月28日   岡本全勝

米電気自動車大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が従業員に対し、少なくとも週40時間はオフィスで働くよう求めたことが報道されました。
・・・米ワシントン・ポスト紙が確認したテスラ従業員向けの5月31日付のメールで、マスク氏は週40時間の出社を求めたうえで、「もし姿を見せなければ、あなたが辞職したとみなす」と述べた。週40時間は、1日8時間勤務だと週5日出社することになる。同紙によると、マスク氏は宇宙ベンチャー「スペースX」の従業員にも同様のメールを送ったという。
テスラ従業員向けのメールでは「あなたがより地位が高いほど、あなたの存在は可視化されるべきだ。だからこそ私もずっと工場に住んでいた」としたうえで、「そうしていなければ、テスラはずっと前に破綻していた」と述べた。
マスク氏は「こうした要求をしない企業もあるが、彼らが最後に偉大な新製品を出したのはいつか?」とも明記。
「テスラは地球上で最も興奮する、意義のある製品を生み出してきたし、これからもそうしていく。これは電話をかけるだけでは起きない」と訴えた・・・(2022年6月2日、朝日新聞ウエッブニュース

パーソル総合研究所の小林祐児・上席主任研究員へのインタビュー「週40時間出社 マスク氏発言 理解の鍵は米国のオフィス回帰」(6月2日、朝日新聞ウエッブニュース)から。
――マスク氏の発言をどう受け止めますか
前提として、米国は新型コロナウイルスの感染が拡大する前から、テレワークの先進国でした。
国土が広いために自動車出勤が中心で、皆が同時刻にオフィスに集まるため、都市部では渋滞問題が深刻でした。
会社側が交通費を支給するという慣習も薄いので、ガソリン代節約という目的も相まって、1990年代から徐々にテレワークの導入が進んできています。
一方で、「場所を大事にする」という考えも根強くあるのが米国です。
象徴的なのが、アップルやグーグルなど世界的な企業を生み出したシリコンバレー。この場所には、今でも世界中から起業家や優秀なIT技術者が集まります。
マスク氏の発言を理解する鍵は、ここにあると思います。

――どういうことでしょう
テレワークが良い悪いという単純な議論ではなく、「革新的なイノベーションには人と人との物理的な近さが必要だ」という考え方です。優秀な人材が集まり、顔を合わせて議論することで、イノベーションや新しいアイデアが生まれる。こうした考え方を背景に、実はコロナ禍の前から「オフィス回帰」の流れは起きていました。
特にオフィス回帰が顕著だったのは、IBMや米ヤフーなどのIT業界です。
IT業界は仕事自体がテレワークとの相性が良い分、テレワークの実施が進みすぎた。各企業が、新しいアイデア出しやイノベーションの停滞感を抱えることになり、「テレワークではなくてオフィスで働く」という揺り戻しがこの10年あまりで出てきています。
マスク氏の発言の根底にあるのは、このように「イノベーションや新しいアイデアを生むためには出社することが必要だ」という価値観だと思います。

「ちゃんと勉強しないとこういう鉄工所で働かなあかんようになりますよ」

2022年6月27日   岡本全勝

朝日新聞ウエッブニュース「「3K」鉄工所を変えた引率教諭の一言 「ちゃんと勉強しないと…」」(2022年6月21日)から。

大阪府南部、岸和田市の「廣野鐵工所」。1945年創業の農機具部品メーカーで、社員は約150人。クボタのトラクターの部品などを製造している。
3年前、民間団体が選ぶ「日本で一番大切にしたい会社」の審査委員会特別賞を受賞。その翌年には中小企業庁の「はばたく中小企業300社」に選ばれた。
企業理念の最初に掲げるのは「社員の成長と幸せづくり」。決して大げさには聞こえない。

社長の廣野幸誠(ゆきせい)さん(65)に尋ねた。「なぜ、社員のためにそこまでできるのでしょう」
2006年に社長に就いた廣野さん。「実はですね……」。決して忘れることのない約40年前の出来事を語った。
当時の廣野鐵工所は大阪府泉大津市にあった。ある日、近くの小学生が工場見学に訪れた。入社間もない廣野さんが出迎えた。地元の子どもたちに会社のことを知ってもらうチャンス。作業工程をわかりやすく説明し、お土産にノートやペンを手渡した。
工場見学の最後に、引率していた若い女性教諭が言った。「さあ、お礼を言いましょう」
「ありがとうございました!」
子どもたちの元気な声に廣野さんはホッとした。だが、教諭の次の一言に耳を疑った。
「みなさん、いいですか。ちゃんと勉強しないとこういう鉄工所で働かなあかんようになりますよ」
驚きと怒りに全身が震えた。でも、言い返すのは子どもたちの手前、我慢した。教育委員会には「二度と工場見学は受けない」と伝えた。
ただ一方で、「たしかにそうかもな」と教諭の言葉を受け入れる感情が、徐々に芽生えた。

会社の工場は当時、「きつい」「汚い」「危険」と、3Kそのものだった。
溶接の油のにおいが充満し、あちこちから立ち上る油煙で工場の向こう半分は見えなかった。小さな扇風機しかなく、夏は作業服を脱いでランニングシャツ1枚で働く作業員が多かった。
このままではあかん、会社を変えなくては――。当時社長だった廣野さんの父元吉さんと改革を始めた。
最新の機械を導入し、若手社員でも短期間で戦力になれるようにした。若手社員はどうすれば定着してくれるのか、社員の満足度はどうやったら上がるのかを考え続けてきた。たどり着いたのは、会社に社員の居場所を作る、社員のがんばりを会社が認めることだった。

40年前の女性教諭の一言が、会社を変えるきっかけになった。「今ではあの先生に感謝しています」。心からそう思っている。

支援型リーダーシップ

2022年6月21日   岡本全勝

6月6日の日経新聞に、「社員の成長「下支え」 女性本部長、昇進悩み自分流磨く」が載っていました。

・・・住宅事業を手掛けるポラスグループのポラテック(埼玉県越谷市)に勤める園部雅子さん(44)の手帳には、折り畳んだ1枚の紙が挟んである。書かれた内容は「サーバントリーダーシップ」。支援型リーダーシップとも呼ばれる。約150人を率いる営業本部長になった今も、肌身離さず持ち歩いている。
時間を見つけては社内を回り、若手社員にも積極的に話しかける。サーバントリーダーシップと出合った課長時代から変わらない光景だ。
32歳で第1子を出産後、仕事と子育ての両立に悩んでいた時期だった。会社の幹部会で配られた資料の記述に目がとまった。聞き慣れない言葉だったが、社員の目標や成長のために相手の話に傾聴して共感しながら導くリーダー論だと知った。
入社以来、建設会社などに木材を卸す営業畑を歩んだ。当時から社内外で関わる相手のほとんどが男性。上司はぐいぐいと後輩を引っ張り、夜遅くまで会食をして人脈を広げる典型的な営業マンが多かった。これまで目にしてきた管理職とは全く異なる概念。「目指すべき姿はこれだ」と直感した・・・

・・・サーバントリーダーシップは1970年に米国で提唱された。中長期的な視点で職場づくりを進めることが必要とされ、周囲の信頼を得て主体的に協力してもらえるかどうかが鍵を握る。
とにかく社員と丁寧に対話することを心がけた。作業中でも話しかけられたら手を止め、相手の目を見て耳を傾ける。年齢が離れている若手でも、悩んでいそうな姿を見つけたら積極的に声をかけた。
こうした積み重ねのかいもあり、職場関係の悩みも耳に入ってくるようになった。つぶさに社員の状況を把握できれば、一人でトラブルを抱え込んでしまうのを防ぐことができる。取り組みはチームの営業成績の向上にもつながっていった・・・

「すみません」よりも「ありがとう」

2022年6月20日   岡本全勝

6月3日の朝日新聞オピニオン欄、相川充・東京学芸大名誉教授の「「すみません」よりも、「ありがとう」にしませんか」から。

・・・他人に何かしてもらうと、ありがたいとか申し訳ないとか、何らかの気持ちがわき起こります。大きく分けて二つの要素が、相手への気持ちを決めると心理学では考えられています。
一つ目は、「うれしい」とか「助かった」とか思うことで表されるような、自分の得た利益の大きさです。二つ目は、相手が自分のために費やした時間や労力、金銭などの負担の大きさです。二つの要素の大きさの合計が、「相手への気持ち」の大きさになります。心理学の研究で、これは世界の主要国で同じだと確認されています。

ただ、「自分の利益」と「相手の負担」のどちらを重視するかは、国や文化により異なります。欧米では「自分の利益」が重視されていたのに対し、かつて私が論文発表した研究では、日本では「相手の負担」が重視されていました。
個人主義ではなく集団主義の日本では、まず集団があって自分がいるので、互いに自分を譲って相手を立てます。そんな相手に何かしてもらえば「大変な思いをさせてしまった」という気持ちが先に来ます。だから日本人は、こうした場面で「すみません」「申し訳ありません」と、謝罪の言葉で対応することが多いのです。

ただ、感謝を示すのに「すみません」を繰り返していると「相手に迷惑ばかりかけている」という気持ちが募り、心の重荷が増えていきます。どうすればいいか。感謝したい場面では、きちんと「ありがとう」と言いませんか。「ありがとう」という感情を相手に伝えることで、満足感や自尊心が高まることもわかっています。

感謝を伝えるのは本来ポジティブな場面です。「すみません」とネガティブに自分を下げず、「ありがとう」と言ってポジティブを体験することが大事です。行動を習慣化すると、いずれその行動が人格に影響を与える。そうした心理学の考え方の実践で、心の負担を減らせ、周囲にも自分の心にも変化があるはずです・・・

頼み事が来たら「はい」と言う

2022年6月17日   岡本全勝

6月2日の日経新聞夕刊「人間発見」、舞台プロデューサー 吉井久美子さんの「ブロードウェーで生きる 4」から。

・・・「ウエスト・サイド物語」や「オペラ座の怪人」など数多くの名作の制作や演出を務めたブロードウェーの巨匠、ハロルド・プリンス氏(故人)。同氏の半生を振り返る「プリンス・オブ・ブロードウェー」(2017年上演)を手がけた。
雲の上の人だったハルとの初対面は忘れもしません。劇場で紹介してもらったとき、私のような若手のあいさつに、ハルはさっと立ち上がるのです。同じプロデューサー同士、対等だという彼の気配りでした。当時とてもうれしかったと後に伝えたら「そんなの当たり前じゃないか」と笑っていました・・・

・・・ハルから学んだことはたくさんありますが、一つは「何に対しても『NO(ノー)』から入らないこと」です。もちろん無責任に引き受けてはいけませんが、仕事でも何でも頼み事がきたら最初に「YES(イエス)」と言う。
ハルは他人に「YES」と言ってもらえる話し方も心得ていました。おだてられると頑張ってしまうのは私の元来の性格かもしれませんが、人間はポジティブな気持ちが原動力となるものだと思います・・・