カテゴリーアーカイブ:人生の達人

事業縮小議論、人物が見える

2024年4月14日   岡本全勝

日経新聞「私の履歴書」4月は、三村明夫・日本製鉄名誉会長です。11日の「大合理化」から。
1985年のプラザ合意によって、円高が急速に進み、日本の鉄は国際競争力を失います。1970年に富士製鉄と八幡製鉄が合併してできた新日鉄は、それまでも過剰な生産設備を削減してきましたが、大胆な削減はしませんでした。しかし、いよいよ避けて通れなくなりました。三村さんは計画づくりの事務局責任者になります。6万8千人いた社員を1万7千人、すなわち4分の1に縮小し、12基あった高炉のうち5基を閉めます。

・・・半年足らずのSPC(注、合理化検討会議)だったが、そこで得た学びは米国留学より何倍も大きかったように思う。ひとつは危機は組織再生の好機でもあることだ。長年引きずった課題に決着をつける絶好の機会であり、逃げずに立ち向かえば、企業は再び躍動する。
もうひとつは「聖域なき合理化」とはよくいわれるフレーズだが、実際は侵してはならない聖域が厳然としてあることだ。当社の聖域とは品質や職場の安全だが、これについては後述したい。

最後に人を見る目だ。14人のSPC構成員はいずれも私の上役だが、真剣勝負のやり取りの中で各人の実力や人格が浮き彫りになった。日ごろは偉そうに振る舞う人が急におとなしくなったり、地味な人が誰もがうなずく正論を堂々と開陳したりする場面がしばしばあった。
「上から3年、下から3日」という言葉をご存じだろうか。人を判断するのに上からみれば3年かかるが、部下として仕えれば上司の長所も短所も3日で分かるという格言だ。この言葉はいまに至るまで私自身への戒めでもある・・・

複製、加工、創造

2024年4月11日   岡本全勝

コンピュータがどんどん発達し、人工知能が人間の脳に近づいていると言われています。確かに、過去の文章や画像などの保管、検索と、それを使った文章や画像の作成は、コンピュータが得意でしょう。では、人間に置き換わるのか。私はそうは考えません。

文章を書くことを、例に取りましょう。私たちが文章を書く際には、3つのものがあります。
1は、複製です。すでにある文章を、そのまま写すことです。
2は、加工です。すでにある文章を加工して、よく似た文章を作ります。コンピュータができるようになりました。しかも、たくさんの事例を記憶しているので得意です。しかし、ここまででしょう。

3は、創造です。これまでにない文章を考えることです。
生成人工知能が文章を作ってくれますが、それは「××という要素を入れた文章を、蓄積した文章を参考に作りなさい」と人間が指示することで、コンピュータが働きます。ここには「人間が指示すること」が必要であり、またコンピュータは「過去の文章にとらわれず、新しいことを考えなさい」はできません。
もっとも、私たちも人間も全くの白紙から文章を考えることはできません。日本語自体を、これまで読んだ文章や会話から学ぶのですから。過去に学んだ日本語の文章を基に文章を加工しているとも言えます。

生成人工知能と言いますが、この「生成」という言葉は要注意です。
ワードプロセッサを、文書作成編集機と呼びます。でも、ワープロがすることは、人間が言葉をローマ字やひらがなで入力すると、漢字仮名交じりの表記にしてくれることです。その形を編集できて、印刷できることです。作成も編集も、機械がやってくれるのではありません。人間が行うのですが、その作業が簡単だということです。
プロセッサという英語の意味は、フードプロセッサのように加工です。作ってはくれません。ワープロも正確に言えば、文字変換機でしょう。

情報機器での情報漏洩

2024年4月7日   岡本全勝

4月3日の日経新聞「クラウド漏洩、「凡ミス」多発」が参考になりました。
・・・人材管理システムのカオナビ子会社が運用するクラウドサービスで、個人データの漏洩が判明した。運転免許証やマイナンバーカードの画像を含む15万人超の情報が流出。個人情報の漏洩リスクが高まる中、誤った設定や操作など企業側の「凡ミス」も目立つ。
カオナビは3月29日、子会社が運用するシステムのクラウドで管理していた氏名や性別、住所、電話番号のほか、マイナンバーカードや運転免許証など身分証明書の画像が外部から見られる状態だったと発表した・・・
サーバーには本来なら外部からアクセスできないように設定しなければならないのに、誤設定で第三者から閲覧可能な状態になっていて、既に15万人の情報がダウンロードされていたとのことです。

記事では、情報漏洩のケースとして、次の3つが挙げられています。
・不正アクセスなどによる「被害型」
・社員が情報を持ち出す「不正型」
・今回のような設定ミスや誤操作による「過失型」
人間がすることですから、失敗もあります。しかし、情報機器は大量の秘密情報を扱っている場合があり、失敗が大きな被害をもたらします。

社員の技能を可視化

2024年4月6日   岡本全勝

3月20日の日経新聞に、「日本特殊陶業、全社員7000人のスキル可視化」が載っていました。

・・・エンジンの点火プラグで世界首位の日本特殊陶業は全社員、7千人のスキルを可視化している。プラグがいらない電気自動車(EV)の普及とともに市場は縮む見通しだ。車部品業界トップの収益力がゆえに、危機感の浸透や事業転換が壁となる。一人ひとりの目指す姿と今のギャップを鮮明にする仕組みで、学ぶ意欲や新事業への攻めの志を養う・・・
ソフトウェア開発、セキュリティー技術など6項目で、1(未経験)から5(社外で講師ができる)の5段階があります。社員が自ら評価し登録します。上司が修正します。

私が職員研修などで取り上げている、「採用されれば、人事異動や昇進は人事課任せ」「自ら技能を磨かない」という日本型職場慣行の欠点を埋める、よい取り組みだと思います。

野本弘文・東急会長、「予算ありきで考える傾向」

2024年4月4日   岡本全勝

日経新聞私の履歴書、「野本弘文・東急会長、各組織の論理と全体を見る目」の続きです。今日は、3月20日の「渋谷の危機」から。

2000年代後半、東急の本拠地である渋谷の魅力が衰え、銀座、新宿、丸の内、六本木などと比べて存在感が薄くなっていました。駅周辺の建物を高層ビルに建て替える計画が進んでいました。その計画に対して、野本さんは「何か楽しさが足らない」と感じます。
「歩いていて楽しい場所でなければ人は来てくれない」と、新しい企画を提案します。それに対して社内からは「予算をオーバーします」という声が出ました。野本さんは、顧客からどう見えるかを優先します。
「施設の魅力向上に役立つ投資だと思ったからだ。予算ありきで真面目に考える傾向は多くの組織でみられるが、少し発想を広げて顧客をどのように楽しませるか考えてほしい」

この話は、私にとっても耳の痛いことです。県でも、財政課職員、財政課長、総務部長として長年にわたって予算査定に従事しました。第一の「哲学」は、予算の範囲内に抑えることでした。要求額を削減すること(「削る」と言っていました)を、任務と考えていたのです。
富山県総務部長の時、中沖豊知事が事業をじっくりと検討し、時に大幅な増額をされました。それを見て、目が覚めました。ある施設の改修事業案について、職員と利用者のことを考えて計画変更を提案し、予算額を増額しました。知事に報告したら喜んでもらえました。「岡本君も、ようやく分かったか」と笑っておられました。

3月22日の「事故」には、次のような文章も載っています。
「事故から1週間後に開いた集会をはじめ、たびたび社員に呼びかけてきた。
責任は「果たすもの」であって「取るもの」ではないという考え方。もちろん結果によって早々の責任を取らねばならないが、再発防止に向けて組織としては、責任を追及する以上に原因を徹底的に追求する姿勢を大切にしたい」