カテゴリー別アーカイブ: 仕事の仕方

生き様-仕事の仕方

「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙」

キングスレイ・ウォード著『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』(1987年、新潮社。文庫版1994年)を読みました。ベストセラーですから、読まれた方も多いでしょう。

私も、出版されたときに手に取ったのですが、その頃は読もうとする気が起きませんでした。もっとほかに読まなければならない本、読みたい本がたくさんありましたし。ひょんなことから、今回、ページをめくってみました。そして、一気に読了しました。
よいこと、役に立つことが書いてあります。もちろん、社長が後継者として息子を育てるために書いたので、すべての項目が読者である社員や職員に当てはまるわけではありません。しかし、「そのとおり」「悩んでいる若者には、よい助言だな」と思うことが多いです。「私ならどのように助言するか」と考えながら読みました。

このような本は、「もっと早く、若い時に読んでおけば良かった」と思うことがしばしばあります。ところが、若くて血気盛んなときには、先輩の忠告はしばしば頭に入りません。ある程度の経験を積んだ人が、振り返って「そうだよな」と思う本なのかもしれません。
職業人としての「教科書」はないので、若い人は参考書となるものを探します。この本も、読んでいくつかのか所が役に立てば良いのでしょう。そして、どのか所が役に立つかは、読む人の状況によって異なるのでしょう。
管理職の参考書としては、佐々木常夫著「そうか、君は課長になったのか。」(2010年、WAVE出版 。2013年、新書版)も読まれています。

ところで、仕事の作法の助言は後輩には言いやすいですが、息子や娘には、なかなか直言しにくいものです。手紙という形で伝えた著者は、偉いですね。さて、息子さんは、どのように父の忠告を聞いたのか。気になります。「社会人先輩の反省

デザイン思考、あるいは商品としての言葉

「デザイン思考」という言葉や考え方が、よく使われるようになりました。この20、30年間のようです。興味を持っていたのですが、深く勉強しませんでした。ようやく、このようなことを主張しているのだと理解できました。

デザインと聞くと、商品の色と形を意味すると考えます。日本語にすると、意匠です。デザイナーは、商品の形や色を考える人、そしてどうしたら売れるかを考える人です。
これに対しデザイン思考は、商品(物)に限らず、サービスや事業などをも対象とします。それは色と形を考えるのではなく、どうしたら効率化できるか、よりよいサービスを提供できるかなどを考えます。課題解決と言い換えたらよいでしょう。

この思考自体は良いことだと思いますが、目新しい話ではありませんよね。「デザイン思考」と言われると、何か高尚なものかと思ってしまいます。これがカタカナ語を使う落とし穴ですね。
中国語では、デザインを「設計」と訳すそうです。田中一雄著『デザインの本質』(2020年、ライフデザインブックス)15ページ。これなら、デザイン思考が課題解決という意味であると理解できます。ものの形だけでなく、さまざまな業務に適用できます。

反対語は、成り行き任せ、前例通り、何も考えずに取り組むことでしょうか。
課題解決あるいは設計なら、経営者も管理職も、あるいは課題を与えられた社員も、みんな実践しています。でも、それでは売れないので、「デザイン思考」と名前をつけて、本や講演、コンサルタント業を売るのでしょうね。
売られるのは、店に並ぶ商品だけではありません。このようにアイデアを新しい言葉で売る人たちも、新しい理論を売る学者もいます。ところで、低下する日本の国力を嘆く人は多いのですが、次の日本のあり方を売る人が見当たらないことが心配です。

人材育成、規範的判断力の重要性

8月3日の日経新聞、宮田一雄・元富士通シニアフェローの「ジョブ型時代の高度人材 規範的判断力こそ重要」から。

・・・データサイエンティストやデジタル部門責任者などのジョブ型雇用が始まり、人材の流動化が日本でも進み始めたことは喜ばしい。専門性が求められるデジタル部門責任者に、終身雇用下でゼネラリストとして育った人材が就く日本の現実は世界でも特殊だ。
既存企業がデジタル技術の急速な進化に対応していくには新卒一括採用後に企業内研修を経て職場で育てる時間はない。
経営陣には技術の重要性を的確に判断できる高度専門人材がいないと、正しい判断はできない。価値の重みがモノからサービスにシフトし、企業は技術を価値に転換する経営が求められているからだ。「GAFA」に代表される米ネット大手の経営陣の多くはコンピューター科学や心理学、経営学などを大学院で学んだ人々である。
といって、専門知識のみが大学教育に求められているわけではない。企業は、その根っことしてのリベラルアーツ教育に期待している。

リベラルアーツというと歴史や文学を思い浮かべがちだ。高度専門人材のためのリベラルアーツとして産学で合意したのは「人文学、社会科学、自然科学のどの分野であれ学生が一つの専門を深く学ぶとともに、他分野にも関心を広げ、幅広い知識と論理的思考力、規範的判断力を身につけること」という定義だ。
ここで規範的判断力が重要であるという指摘は新鮮だった。これからは「望ましい社会や企業とは」「公正な社会とは」といった判断が避けて通れない。それには一定のトレーニングが要る。
哲学・倫理学だけではなく政治学、法学、経済学、社会学などの規範に関する理論を学び、規範的な思考の枠組みを身につけなくてはならない。複雑な社会課題の解決や共通善に向けた新たな価値づくりのためには、論理的思考力に加え規範的判断力が必須なのだ。
ドイツでは大手企業の経営者の45%が博士号を持つ。大企業の役員・管理職に占める修士以上の割合は米国62%に対し日本は6%。日本の大学院進学率は理工系こそ40%前後だが、人文社会学系は5%以下だ。
こうしたデータを見ると、バブル経済の崩壊以来30年に及ぶ日本の停滞の原因は役員・管理職層の規範的判断力の不足、企業で活躍する文系大学院修了者の少なさにあるという仮説が浮かぶ・・・

遠隔講義の課題

7月7日の日経新聞、「遠隔講義、満足度に腐心」から。
・・・新型コロナウイルス禍で遠隔授業が大学で導入されるなど、講義風景が一変してから1年以上が過ぎ、新たな課題もみえてきた。オンラインに慣れた学生の満足度を上げるにはどうしたらいいか。入国できない海外の学生にどう配慮すべきか。海外留学が難しいなかで国内で英語力をいかに向上させるか。変化が続く授業の取り組みを追った・・・

・・・東芝に勤める傍ら日本大学で非常勤講師としてキャリア教育を講義する岩瀬慎平さんは、2021年度の遠隔授業の学生満足度の結果に手応えを得た。20年度は40%だった10点満点が、88%と倍以上に増えた。
「他の先生からも満足度向上の理由を聞かれる」と語る岩瀬さんは、遠隔講義に対して学生が抱く不満点の多くを解消したことが功を奏したと分析する。
「説明資料と音声のみの動画を視聴する講義が大半で単調」「パソコン備え付けのカメラは画質が悪い」「臨場感がなく一方的に話を聞くだけで飽きる」「資料の切り替えに時間がとられテンポが悪い」。こんな学生の不満が岩瀬さんに寄せられていた。

「投影資料や話し方を工夫しているだけでは限界がある」(岩瀬さん)。一眼レフなど複数台の高画質カメラを同時に接続し簡単に切り替えることができれば、テレビ番組のような動きのある高品質の映像を学生に届けられる。最近のウェブ配信技術を駆使することで、対面講義と同等またはそれ以上の臨場感のある講義ができるのではないか。
プロ並みの高音質なライブ配信を手ごろな価格で可能にすると評判の豪ブラックマジックデザイン社のライブスイッチャーを導入したところ「質の高いオンライン授業が可能になり、学生の集中力がとぎれず評判がいい。満足度向上につながった」とみる。

沖縄県を除き緊急事態宣言が解除されたとはいえ、海外の留学生は日本にまだ入れない。白板を背に説明する対面授業を動画として配信する大学も増えているが「学生の満足度は必ずしも高くない」(早稲田大学)との声もある。映像に動きが少ない動画だと、授業に集中させる力も弱まる・・・

映像を工夫すると、学生の関心も高まるのは理解できますが。授業をすべて、そのような映像を使って行うことは難しいでしょう。そして、映像で学生の興味を引くことと、理解し覚えることとは別だと思います。
京都大学の鎌田浩毅先生は、映像の限界を考え、授業では紙の資料を配っておられたようです。「鎌田浩毅先生の最終講義」ビデオの7分40秒あたりで、その説明があります。

設計の3段階

7月1日の日経新聞経済教室「国産半導体復活の条件」、藤村修三・東京工業大学名誉教授の「顧客は確保できているのか」から。前段部分を紹介します。本論は、20年前の国主導の半導体開発計画の失敗についてです。その部分は、記事をお読みください。

・・・設計論の文献によると、設計と生産が分かれたのは110から130年前とされる。それまでは、作っては評価し手直しし再び評価するという、生産と評価・修正を繰り返して完成させる方法が一般的だった。生産対象が複雑になるに従い、性能の追求と期間内での実現という相反する課題を解決することと、確実で効率のよい生産プロセスを確立することに対する必要性が生じ、設計と生産は分離することになった。
工学者ジョセフ・ブルムリッチは1970年の論文で、ハードウエア製品を対象に設計を3つのステップに分けた。第1段階はアイデアをコンセプトにする段階だ。製品の実現に有効と思われるアイデアを基に、実現可能性を検討する。第2段階では製品の構成要素とそれらが果たすべき機能を確定し、実現方法を確定する。製品の機能構造を決定する段階である。そして第3段階を、確定した機能を実現するために具体的な図面を作製する段階とした。その上で、設計者が最も喜びを感じる、言い換えれば、腕前を発揮できるのが第2段階であるとした。

これはハードにとどまらず、すべてのシステム設計に当てはまる。システムとはそれぞれが独自の役割を持つ複数の構成要素から成り、それらの要素の相互作用により、システム全体として何らかの作用を実現する人工物のことである。質量を伴うモノとは限らない。コンピューターのプログラムは質量を伴わないがシステムである。
また、全体も構成要素も静的なものとは限らず、動的であってもそれらの要素が連携して、全体として何らかの作用を実現する場合はシステムである。複数の異なる役割を持つ部署から成る企業もシステムであり、企業が行うビジネスも各部署が行う活動が連携して社会への作用を実現するので、システムである。同様に、日本政府が行うプロジェクトも動的なシステムと考えることができる・・・