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生き様-仕事の仕方

野中郁次郎先生『『失敗の本質』を語る』

この夏に、野中郁次郎著『『失敗の本質』を語る なぜ戦史に学ぶのか』(2022年、日経プレミアシリーズ新書)を読みました。

『失敗の本質』(1984年、ダイヤモンド社。中公文庫に再録)は、太平洋戦争における日本軍の失敗を経営学の観点から分析した名著です。読まれた方も多いでしょう。
太平洋戦争の敗戦については、たくさんの証言や記録が書かれていたのですが、作戦の失敗を客観的に分析したのは、この本が初めてでした。私も興味深く読んで、勉強しました。「日本軍は物量の差で負けた」といわれますが、ミッドウェー海戦では日本軍の方が上回っていたことなどは、初めて知りました。

今回の本は、その『失敗の本質』を主導した野中郁次郎先生が、同書誕生の背景や、その後の戦史に関わる研究の軌跡などについて語ったものです。野中先生の「私の履歴書」です。
先生が経営学を志した頃、日本の経営学は、ほかの社会科学と同じように外国の理論の輸入でした。そこで、先生は「独自の研究」を試みられたのです。また、経営学では成功した実例が取り上げられますが、失敗した事例は少ないのです。成功した会社は取材を受けますが、失敗した会社は拒否するからです。
新しい分野を切り開く人の苦労は、勉強になります。名著『失敗の本質』も最初は、出版社にいい顔をされなかったとのことです。

ホンダ、在宅勤務では良い製品を生み出せない

9月6日の日経新聞「ホンダ挑む2」「「ワイガヤ」進化できるか」に次のようなことが載っていました。

・・・5月中旬、東京・南青山のホンダ本社は社員であふれていた。「久しぶりだね」。国内全事業所で原則出社としたためだ。社長の三部敏宏が栃木の研究所を訪れた際、駐車場の閑散ぶりに驚いたのが契機だ。コロナ禍で在宅勤務が浸透したからだが「これが続くといい製品が生み出せなくなる」(三部)。
社員が立場を超えて対面で議論するホンダ伝統の「ワイガヤ」。本田宗一郎が唱えた現場、現物、現実の「三現主義」を引き合いに独自製品や技術を生みだすイノベーション力再興のためあえて全員出社の道を進む・・・

熊本製作所での新機種開発棟では、1万平方メートル超に及ぶ間仕切りのないオフィスで研究開発や生産、調達担当などの約700人が集まるそうです。開発と生産が離れておらず、すぐに議論ができます。
このような機能も、社員が集まった勤務でないとできません。

組織運営の要諦3

組織運営の要諦2」の続きです。組織運営では、「集中と分散」「社風」の二つが肝ですが、これらは内部に関してです。それとともに、外部との関係、すなわち発注主との信頼関係や関係者からの信頼も重要です。

その組織に仕事を与えた「発注主」(官邸であったり大臣です)の信頼を確保する必要があります。
うまく進んでいる場合は、その報告だけですみますが、うまく進んでいない場合にそれを報告し、対策を相談することです。そして、発注主の「威を借り」て、組織を改編したり、関係機関に協力を得るのです。

また、時に現場を理解せず理不尽な指示を出す発注主に対して、「それはできません。代案は・・・」と反論することも必要です。無理な指示を引き受けると、困るのは幹部であり部下です。組織と部下を守るためにも、できないこととできることを、はっきりと発注主に伝えなければなりません。そのためにも、発注主の信頼が必要なのです。
「こいつが『できません』と言うからには、それだけの理由があるのだろう。ほかの人に任せてもダメだろう」と思ってもらえるかどうかです。

新設組織や××本部は、これまでにない課題を担い、また総理や大臣の関心ある重大事項を担います。そう簡単には進まないのです。進むくらいなら、組織を新設する必要はありません。
うまく進まない場合にも、発注主の理解を得て、信頼してもらうこと。これが幹部に必要なのです。それがないと、部下たちは不安になります。できない指示を跳ね返したことが分かると、部下は幹部を信頼して、ついてきてくれます。

さらに、関係者や報道機関の理解を得ることも重要です。「××事務局は仕事が進んでいない」と言われるのか、「××事務局は難しい仕事に取り組んでいる。当初は混乱したが、徐々に進みつつある」と言ってもらうかの違いです。

組織運営の要諦2

組織運営の要諦1」の続きです。組織を動かす要諦の2つめは、「社風」です。

霞が関の各省は、民間企業から見ると「公務員」として、同じような「人種」に見えるでしょう。同じ公務員試験を受け、国家と国民のためという同じ目標に向かって仕事をしています。ところが、省によって社風・組織文化がかなり違うのです。新しいことに挑戦するか、しないか。上司への相談の仕方や、内部での決裁の仕方など。
これは、他省に出向すると痛感します。しかし、郷に入っては郷に従う必要があります。でないと、仕事が進みません。

難しいのは、各省からの出向者で構成された組織であり、新設組織です。
核となる省の社風がないので、それをつくらなければなりません。放っておいても、自然と社風はできあがりますが、それは困ったものとなる可能性があります。
職員たちは、よるべき社風がない、言ってみれば暗闇の中を手探りで進みます。ある案件について、積極的に進めるのか、しばらく様子を見るのか。そのような困ったときに、誰に相談したらよいのか。これが分からないのです。
すると、多くの職員は、しばらく様子を見ることになります。それでは、任務は進まないのです。他方で、意欲に燃える職員は張り切りますが、周囲から「浮いてしまう」ことがあります。

どのようにして、社風をつくるか。既存の組織なら、幹部は個室に入っていて、部下が決裁や相談に入ってくるのを待ちます。しかし新設組織や混成職員からなる組織では、それでは部下たちがどのような社風をつくっているのか、そのまえに何に困っているのかが分からないのです。幹部が自分から部下のところに出ていって様子を聞く、あるいは機会を捉えて事情や困りごとを聞く必要があります。
参考「組織の能力、6。仕事の仕方と社風を作る、2

組織運営の要諦1

私は官僚になってから、組織を動かす立場や、新しく組織をつくって動かす経験をしました。その経験と、他の組織でうまくいっていない事例を比べて、組織を動かす要諦は、「集権と分散」「社風」の二つだという結論に達しました。企業にも当てはまると思いますが、ここでは役所を念頭に説明します。

「集中と分散」は、幹部がすることと、部下がするべきことを、はっきりさせることです。幹部が組織の目標を提示し、それを部下に割り振ることです。そして、部下の動き把握し、問題があれば修正し、新しい課題が見つかればそれに対応すること(新しい部下を置き、指示を出すこと)です。
幹部が何を処理するか、何を部下に任せるかの判断が、最も重要です。幹部がすべてに指示を出すようだと、部下は自主性を失い指示待ちになります。部下にすべてを任すと、部下は迷走します。

各省や自治体の組織の多くは、長い歴史と経験を持っています。その間に、各組織は何をしなければならないかが、幹部が明示しなくても、構成員と外部に共有されています。
ところが、新しく作られた組織や、××本部のように臨時で編成される組織は、下部組織や構成員が何をしなければならないかが不明確です。幹部が部下に対して、はっきり明示しなければならないのです。
既存組織で管理職だった幹部が、新しい組織に来て「何で、部下は動かないのだろう」と悩むのは、ここに原因があります。既存組織では暗黙知だったことを、新しい組織では明示しなければならないのです。

もっとも、幹部も、全体の方向性は理解していても、下部組織にどのように割り振るとよいのか、誰だどれだけ仕事ができるのか、できないのかは、分かりません。だから、常に部下との対話を通して、進んでいるのかいないのか、どこに問題があるのかを把握する必要があります。自分一人ではすべてを把握することは困難なので、代行してくれる「手下」が必要です。
また、部下からも、自主的に問題点が申告されるような仕組みと雰囲気をつくる必要があります。これは、要諦の2「社風」につもつながります。「組織運営の要諦2