カテゴリーアーカイブ:行政

首相指示の失敗事例?その1の2

2024年6月12日   岡本全勝

首相指示の失敗事例?その1」の続きです。

朝日新聞によると、満額減税を受けられる人は約6300万人、納税額が少なく減税とともに調整給付を受ける人が約3200万人です。そもそも住民税や所得税を納めていない世帯が、約1740万世帯あります。「定額減税「穴埋め」自治体実務ずしり 減税しきれない人 3200万人に調整給付

一番の問題は、給与支払担当者の事務負担です。減税の計算をしなければなりません。給与計算は、ほとんどの事業所でコンピュータを使っています。一度きりの減税のために、計算ソフトを入れなければなりません。そして1度で減税せず、これから毎月に分けて減税します。それを、一人ずつ確認する作業が必要になるでしょう。
次に、減税しきれない(納税額が多くない人)と納税額がない人は、その結果をもらって、市町村役場が差額を給付します。
いかに事務負担をかけるかが、分かってもらえると思います。これらの作業をする人に聞けば、恨みの声がでるでしょう。

さらに記事では、次のようなことも指摘されています。
・・・自治体を苦しめているのが、対象者を絞り込み、給付額を算定する作業だ。さらに政府が給付のスピードを重視したことも、混乱に拍車をかける。今年の所得税額が確定するのを待たずに、穴埋め額を推計して給付するルールにしているからだ。夏以降に給付を始めるが、それでも足りなかった場合は、来年、納めた税額が確定した後に対象者を特定し、追加で給付することになる。
ある自治体の担当者は言う。「算定の前提になる数字が推計値なので、『うちの額は本当にこれで合っているのか』と問い合わせがあっても『わかりません』としか答えられない」・・・

岸田首相がこの減税を指示したとのことですが、自民党、財務省、総務省の関係者が、この事情を首相に説明できなかったのでしょうか。あるいは、説明しても聞いてもらえなかったのでしょうか。
私なら首相に、給付金の方が国民に実感してもらえること、事務作業が格段に軽くなることを説明します。そして、デジタル庁や総務省と相談して、マイナンバーに銀行口座を紐付けた人には直ちに払い込み、紐付けていない人には遅れて支払う仕組みにします。「早く4万円欲しかったら、マイナンバーに銀行口座を紐付けてください」と広報します。「首相に直言 秘書官の役割

経企庁報告書に大蔵省からの抗議

2024年6月12日   岡本全勝

日経新聞夕刊連載「人間発見」、小峰隆夫さん「日本経済と歩む人生」、6月5日の記事から。

「年間回顧の報告書をまとめた時は、不良債権問題を巡り大蔵省から激しい抗議を受ける。」
白書とは別に、企画庁は年間回顧という報告書を作っていました。93年は不良債権問題を取り上げようとしたところ、大蔵省が猛烈な勢いで公表を取りやめるよう抗議をしてくる。「企画庁が金融業を分析する法的根拠はない」「市場に影響が出た場合、どう責任を取るか」など、ものすごいけんまくでした。
彼らも銀行の経営の深刻さは知っており、神経質になっていたのです。調整と修正を経て分析は公表できました。一連の調整は役人人生で最も不愉快な経験でした。

この分析も、いま振り返れば警鐘としては不十分でした。不良債権問題は後に金融危機をもたらし、2000年代前半まで解決しませんでした。このときにやり合った相手とは最近、オンライン会議の勉強会で顔を合わせ、向こうから「あのときは迷惑をかけました」と言われました。

首相指示の失敗事例?その1

2024年6月11日   岡本全勝

6月から、定額減税が始まりました。この政策については、問題が多いと指摘されています。いろんな人の話を聞くと、次のように整理できそうです。
一人4万円(所得税で3万円、住民税で1万円)減税になるのはうれしいでしょうが、巨額の借金を増やしていることを考えれば喜んでいてはいけないのでしょう。減税総額を上回る景気回復が起きればよいですが、そうでなければ将来の国民からは苦情が出るでしょう。

それはさておき、問題になっているのはその手法です。国民にわかりにくいこと、手法が複雑で担当者(事業所の給与支払者、市町村役場の担当者)からは恨みの声が聞こえます。
まず、4万円程度の一度きりの減税を喜ぶのは、低所得者です。しかし、4万円以上納めていない人にとっては、このような減税は効果がありません。低所得者対策なら、給付金が効率的です。
では、今回はどうするか。減税できない人、減税しきれない人には、別途給付金を配るのです。それなら初めから全員に給付金にすればよいのに。

減税の恩恵を受ける人も、実は実感がわきにくいのです。給与明細書に減税を明記するように政府は指示しているようですが、多くの人は源泉徴収は会社に任せてあって、毎月の給与明細書は見ていますが、よくわからないままに手取額を確認しています。これは源泉徴収制度の欠点です。自ら申告するなら、どれだけの税金を払うのか切実になるのですが。給付金なら、口座に4万円振り込まれる、あるいは現金でもらうと、実感がわきますよね。

なお、NHKの世論調査(6月)では「今月=6月から、1人あたり年間で、所得税が3万円、住民税が1万円減税されることへの評価」は、
「大いに評価する」7%、「ある程度評価する」33%、合計40%。
「あまり評価しない」34%、「まったく評価しない」18%、合計52%です。
この項続く

増える役所の仕事

2024年6月10日   岡本全勝

忙しい職場の生産性低下」の続きにもなります。
「この30年間の行政改革で、職員数は減らしたのに、業務は増えている」と、主張しています。その際に、職員数は数字で見えるのですが、業務量は簡単には計れないのです。予算額が一つの指標ですが、例えば総額が同じでも、既存事業の予算を減らして、新しい事業が増えると、職員の事務量は増えます。

原田久・立教大学教授が「行政国家論再論」(季刊『行政管理研究』第183号、2023年9月)に、次のような数値を載せておられました。
「2001年の省庁再編時に各府省設置法に列挙されていた858の所掌事務は、2021年度には935事務にまで増加している」

20年で、1割増えたのですね。もちろん、掲げられた一つ一つの事務の事務量には大きなものから小さなものがあり、その量はこれでは分かりませんが。
そして、どのような分野でどのような政策が増えているかを、検証しなければなりません。どなたか、やってもらえませんかね。連載「公共を創る」での、重要な論点なのです。

森林環境税に思う

2024年6月7日   岡本全勝

今年度から、森林環境税が創設されます。この税金は国税ですが、地方税(住民税)と一緒に市町村が徴収します。年額1000円です。「こんな税金が作られるとは知らなかった」という人も多いでしょう。

実は、この新税・増税にはからくりがあります。東日本大震災の費用を賄うため、所得税、法人税、住民税に上乗せをお願いしました。法人税部分は、景気対策のため早々と停止したのですが、住民税の上乗せ(県税が500円、市町村税が500円、合わせて1000円)が、2023年度で終わったのです。復興増税をお願いした立場として、お礼を申し上げます。

で、この増税部分を引き継ぐ形で、この森林環境税が導入された(振り替えられた)ようです。納税者の負担額は変わらないのです。例えば役場のホームページにわかりやすい表が載っています。
インターネットでは「ずるい」という書き込みもあるようです。

財政関係者としては、よく考えたと思います。しかし、使い道はほかに考えられなかったのでしょうか。例えば、子ども子育ての費用です。この国会で法律が通りましたが、増税せず、社会保険料から拠出します。森林対策も重要ですが、市町村長に聞けば、森林より子ども子育てに使いたいという人が多いでしょう。特に都市部では、対象とすべき森林が少なく、使い道に困っているという話もあるようです。

個別個別の政策を見ると正しいようでも、全体を合わせてみると変な場合があります。それを防ぐために、経済財政諮問会議がつくられたのですが。もし経済財政諮問会議で議論していたら、この財源はたぶん子ども子育てに使われたでしょう。