カテゴリー別アーカイブ: 行政

行政

政権交代、小さなごまかしが致命傷に

4月6日の朝日新聞オピニオン欄「政治家が果たすべき責任」、豊永郁子・早稲田大学教授の「小さなごまかし、致命傷に」から。

・・・今、国会では、首相からも野党からも「説明責任」という言葉が乱発されています。英語のアカウンタビリティーの訳ですが、「説明する責任」という意味で使うのは誤りです。
アカウンタビリティーは情報を開示し、説明する義務があるだけでなく、責任を追及され、解任などの罰を与えられる立場にあることを意味します(「答責性」とも訳されます)。説明するだけでは許されず、結果責任も問われ、制裁もある厳しいものです・・・

・・・ところで、今回の「裏金」問題を見ていて想起するのは、英国政治でいうスリーズ(sleaze)です。不正や不道徳な行為一般を指しますが、元来はいかがわしさ、低俗さ、だらしなさという意味の言葉です。
英国では90年代以降、保守党と労働党それぞれの盤石に見えた長期政権の末期に、与党政治家のスリーズが次々に露見しました。大きな事件もありましたが、小さなスリーズが多数発覚した。セックススキャンダル、金をもらって議会質問した、経費で自宅を改装した、愛人の雇った子守にビザ発給の便宜を図るとか。
一つ一つは小さなスリーズも、低俗でだらしないという印象を与え、国民に嫌悪やあざけりの感情を抱かせてしまいます。それが重なると、党全体のイメージも悪化し、政権を追い詰めていく。長期政権は、政策上の大きな失敗よりも、スリーズの積み重ねによって倒れることがあるのです・・・
・・・政府のアカウンタビリティーを担保するのは政権交代です。野党がバラバラのまま、ただ「説明」を求めてもダメなのです・・・

制度・規制改革学会、「子育て支援金」制度の撤回を求める緊急声明

4月5日に、制度・規制改革学会が、「「子育て支援金」制度の撤回を求める」緊急声明を出しました。最初の部分を引用します。

政府は、少子化対策の財源として「子育て支援金」の新設を提案し、今国会に関連法案を提出した。健康保険料に上乗せして国民と産業界から徴収するとの案だが、根本的な欠陥がある。
1)健康保険から取ることは根本的に間違い
・そもそも健康保険は、疾病のリスクに備える社会保険である。少子化対策への流用は、その本来の目的から外れる。
・何ら合理的理由がないにもかかわらず、こうした提案がなされるのは、「取りやすいところから取る」ということにほかならない。
・少子化対策は医療保険にとっての受益であるというのはもはや屁理屈である。これを認めれば、観光振興も環境対策も健康にプラスの効果を与え、医療保険の受益となるなどもはや何でもありとなる。将来の各種施策の財源確保にも禍根を残す大失策になりかねない。
2)負担は生じる
・政府は「実質的な追加負担は生じない」と主張するが、この政策で保険料負担が増える以上、詭弁である。
・上乗せ分は世代一律ではなく、現役世代に偏って負担が増す。高齢世代の負担がわずかであることは不公平であり、かつ、子どもを産み育てる世代の支援という少子化対策と逆行する。

日銀、異次元緩和の評価

3月21日の朝日新聞に「異次元緩和11年目の転換1」「未達成、2%目標も好循環も」が載っていました。

・・・ 「輪転機をぐるぐる回して日銀に無制限にお札を刷ってもらう」
異次元緩和は12年末に政権復帰した安倍晋三首相(当時)の大号令で始まった。リフレ派と呼ばれる金融緩和論者たちの主張に沿った取り組みだ。しかしその構図は、日銀が国債を買い支えるという「財政ファイナンス」だった。
日銀や財務省の幹部たちは強い懸念を抱いていた。リフレで物価と賃金の好循環が生まれると、心から信ずる者はまずいなかった。むしろ、異常なマクロ政策を押し通せば、通貨円や日本国債の信認が失墜する恐れがあると案じていた。
「サイは投げられた。こうなったらやるしかない」。財務省幹部は悲壮な表情を浮かべた。

懸念はさまざまな形で現実となる。最近の輸入インフレをきっかけにした物価高や賃上げが起きるまで、異次元緩和を10年近く続けても2%インフレ目標は実現しなかった。「好循環」も起きなかった。
一方、日銀が保有する国債は発行残高の5割超まで膨れあがった。日銀の買い支えに甘え国債増発に頼り切った政権や与野党からは、財政健全化の機運が消え失せているように見える。
黒田日銀は「2年」という2%目標の達成時期を守れないだけでなく、総裁1期目の5年間でも異次元緩和を終えられず、異例の2期目も続けた。そして期限なしの長期戦へともつれこんだ・・・

板垣勝彦著『自治体職員のための ようこそ地方自治法』第4版

板垣勝彦・横浜国立大学教授の『自治体職員のための ようこそ地方自治法』(第一法規)の第4版が出ました。平成27年に初版が出て、7年で第4版です。よく売れているということですね。
書名にあるように、自治体職員向けに書かれていますが、大学での教科書にも使えます。「文字通りの“超”入門書」とのこと。先生は、地方自治法の講義を動画配信しておられます。この本を使った講義です。

一部が、江戸川学園取手中学の2024年の入試問題に使われたとのこと。「地方自治が必要な理由」の「自己決定・自己実現の要請」(3ページ)です。中学入試ということは小学生が読んで、考え、答えることができるということです。
先生のホームページでは、鉄道模型ジオラマもお勧めです。
参考、北村亘ほか著『地方自治論』新版

大きな政策の進め方、各論優先の失敗

3月20日の日経新聞経済面コラム「大機小機」、「誤った人口減少対策の手順」から。

・・・この提言のおよそ1年前の2023年1月、岸田首相は「異次元の少子化対策」に取り組むと表明した。
この時に筆者は、政府がいよいよ人口減少問題に本格的に取り組むと期待した。ところが、その後の議論は児童手当拡充など子育て支援策とその財源手当てなどに集中し、外国人労働者を含めた労働力の確保や人口減に対応した経済・社会構造の改革という骨太の議論にならなかった。

その理由は、岸田政権が選挙をにらんで児童手当を人気取り政策のひとつとして考えていたためではないか。その結果、人口減への危機感の共有が十分に進まなかったと考えられる。
本来は今回の人口戦略会議で示しているように、まず問題意識の共有と国家ビジョンを策定してから児童手当拡充など各論に行くべきだったのに、国民にお金を配る児童手当に話が先に行ってしまった。手順があべこべなのだ・・・