カテゴリーアーカイブ:行政

安倍政権の位置づけ、激変した世界の中で

2020年9月30日   岡本全勝

9月25日の朝日新聞オピニオン欄、佐伯啓思先生が「この7年8カ月の意味」で、安倍政権の世界史的位置づけをしておられました。世界の状況が大きく変わる時期に、総理は何ができるか、何をしなければならないかです。
私は、連載「公共を創る」で、日本社会の激変を背景に、行政が変わらなければならないこと、日本人の意識も社会のしくみも変えなければいけないことを議論しています。佐伯先生の論考は、さらに世界の変化の中で、日本の進むべき道を議論しておられます。ここでは一部を紹介します。ぜひ全文をお読みください。

・・・間違いなく安倍氏は、次々と出現する問題に現実的に対処し、行政府の長として、近年にない指導力を発揮したといってよい。浮気性の世論を相手に、8年近くもそれなりに高い支持率を維持すること自体が驚くべきことである。
にもかかわらず、それが成し遂げたものとは何かと問えば、明瞭な答えはでてこない。すべてが、何か中途半端であり、その成果はというと確定しづらく、評価も難しいのである。いったいどうしたことであろうか。
私には、その理由は、この10年ほどの世界状況と、その中における日本の立場そのものに由来するように思われる。しばしば安倍政権には遺産(レガシー)がないといわれるが、それこそがまさに、今日の時代を映し出している・・・

・・・こう見てくると、戦後から冷戦終結あたりまで、日本の各政権にとっては大きな課題設定が比較的容易であった。その理由は簡単である。戦後日本の国家体制の基軸は、「平和憲法」と「米国による日本の安全保障」とそのもとでの「経済成長」の3点セットだったからである。いわゆる「吉田ドクトリン」である。
それを前提にしつつ、日本の国家的自立を少しでも高めるというのが、岸にせよ佐藤にせよ中曽根にせよ、戦後の日本の政治的課題であった。また、池田のように、その枠組みのもとで経済成長を追求すればよかった。それが可能だったのは、あくまで日本もまた、自由主義陣営のなかで冷戦体制に組み込まれていたからである。これが日本の「戦後体制」である。
だが、世界状況は、冷戦後、まず一つの歴史的屈折点を迎える。冷戦体制の崩壊は、自由主義陣営の勝利を意味し、それは米国流の価値観の世界的拡大を意味していた。グローバリズム、市場中心主義、リベラルな民主主義、といった価値観の世界化である。もちろんその中心に座るのは米国である。

では日本は、冷戦後の世界状況にどのように対処したのか。皮肉なことに、冷戦の勝者であったはずの日本は、バブル崩壊後、長期の経済低迷に陥っていった。そこで、平成日本の課題は、経済再建となり、そこに、グローバリズムと市場中心主義を唱える構造改革が出現する。だがこれはまた、米国流の価値観による日本社会の大変革であり、その最終段階が小泉改革であった。
ところが、この「冷戦後」の時代は、20年ももたずにうまくいかなくなる。2001年のアルカイダによる米国中枢部へのテロは、米国流の世界秩序への攻撃であり、イスラム主義と欧米的価値観の対立であった。08年のリーマン・ショックから09年以降のギリシャ財政危機へ、そしてその後のEU(欧州連合)の危機は、リベラルな民主主義や市場中心主義を決定的に揺さぶるものであった。
さらに、あろうことか、冷戦の敗者であったはずの共産主義の中国が、米国の地位を脅かす大国となったのだ。先進国は軒並み、大規模な金融緩和と財政政策にもかかわらず、低成長にあえぎ、また経済格差の拡大に苦しむ。その結果がトランプ大統領を生み出したのである・・・

この項続く

原子力災害伝承館が伝えることと残っていること

2020年9月22日   岡本全勝

朝日新聞ウエッブニュースのアナザーノート、大月規義編集委員の「伝承館に残る故・吉田所長の言葉 そして双葉病院」(9月20日配信)を紹介します。
20日に開館した、東日本大震災・原子力災害伝承館の展示についての解説です。展示を見るだけではわからないことを、解説しています。要点を書き出します。

1 オフサイトセンターが役に立たなかったことと、解体されてしまったこと。
2 原発事故後に避難指示が出た際に、置き去りにされた人たちがいたこと。しかも、病院の入院患者です。また記事には書かれていませんが、避難した人たちも、寝たきりの病人が行き先も決めず、バスで運ばれました。そして、死者が出ました。この運送方法と死者が出たことは、もっと反省されるべきです。
3 吉田所長の責任。記事に書かれていることの他に、NHKの検証では、所長のとった水の注入はほとんど届いていなかったとのことです。
4 経産省のけじめについてです。この記事では、「責任とっていない経産省」と書かれています。

このうち2と4については、このホームページでも取り上げてきました。次回、それを整理して書きましょう。

起業を妨げた認可行政

2020年9月15日   岡本全勝

日経新聞私の履歴書、9月は、寺田千代乃・アートコーポレーション名誉会長です。女性経営者の草分けです。苦労の数々が書かれています。9月10日の「事業免許」から。

・・・もっとも、引っ越し専業という業態が成り立つと考えていた人はほとんどいなかったと思う。1年間で見れば3月末、さらに月末、週末に依頼が集中し、繁閑の差が激しい、などの理由からだ。寺田運輸とは別の会社で運送免許を取る相談を陸運局に持ちかけた時のこと。「お宅は寺田運輸で引っ越しをやってはるんだから、それでいいじゃないですか」と言われた。

当時私は29歳。小柄で童顔なので経営者の娘が思いつきで考えた事業と思われたのだろうか。丁寧な口調で諭すように経営の難しさを指摘され、軽くあしらわれた。その後も「十分に成り立つ裏付け、一定の顧客が引っ越しを依頼することを証明する書類を出して下さい」と求められた。

事業を始める前に実績提示が必要とするような指導には疑問を感じた。どこにいるのか分からない顧客の依頼の確約証明など示せるはずがない。仕方がないので寺田運輸の仕事で取引のあった企業3社にお願いして、社員が引っ越す場合は運送を依頼するという契約書を作って提出した。地場企業で社員の地域間移動、つまり引っ越しがほぼない会社ばかりだったが、ほどなく申請が受理された・・・

北村 亘教授、日本の行政はスリムすぎる

2020年9月13日   岡本全勝

中央公論』10月号は、特集「コロナで見えた公務員「少国」ニッポン」です。よい視点ですね。
そこに、北村 亘・大阪大学教授「日本の行政はスリムすぎる コロナ禍が炙り出す宿痾、意識調査に見る府省間格差」が載っています。10ページの小論ですが、重要な視点からの、深い内容が書かれています。お勧めです。多くの公務員が、納得すると思います。

取り上げられている論点を、いくつか紹介します。
・先進各国に比べ日本は公務員数が少ないことは、既に指摘されていますが。これが災害対応やパンデミック、さらには官邸から指示される新規施策の設計実施に職員が足らなくなっていること。危機時だけでなく、平時においても、職員数不足が露呈しました。
私も、常々問題に思っています。職員数不足は、民間委託で切り抜けています。しかし、新しいことを考える時間がないのです。例えば、公共事業などを民間委託するのは納得できますが、近年では企画立案や国民からの申請交付といった業務まで、設計と実施が企業に委託されています。官庁と自治体に人的余力がなく、他方でノウハウもなくなっています。
・省庁別に予算と定員、幹部職員比率が、二次元のグラフで図示されています。これは面白いです。
・予算額と職員数を比較して、官庁を3つに分類しています。
これまで私たちは、制度官庁・実施官庁と区別していましたが、ここでは、政策助言官庁・移転官庁・政策実施官庁の3区分です。これは納得です。制度官庁・実施官庁の区分は、発展途上社会・昭和までの官僚主導国家での区分でしょう。
官庁がこれからどのように生き延びていくか。この「性格区分」が使えそうです。
・2019年に先生たちが実施した「官僚意識調査」の結果が利用されています。この分析も興味深く、納得します。官僚の皆さんには、ぜひ読んでもらいたいです。

官庁や自治体の構造的問題を、コロナ危機対応という事案から指摘する。久しぶりに、実のある官僚論を読みました。
先生が、この論点をさらに掘り下げられて、論文や書物にされることを期待しています。
ところで、私の連載「公共を創る」も紹介されています。ありがとうございます。