カテゴリーアーカイブ:行政

安倍内閣の成長戦略評価 

2020年10月8日   岡本全勝

10月4日の読売新聞1面「地球を読む」は、吉川洋・立正大学長の「アベノミクス後 成長戦略 矢は届かず」でした。

・・・読売新聞が9月上旬に行った世論調査では、安倍内閣の実績について、「大いに」と「多少は」を合わせて、実に74%の人が「評価する」と答えた。支持率も前回8月7~9日の37%から52%へと、15ポイントも上昇した。記事には「首相の辞任表明後、支持率が大幅に上昇するのは、過去の内閣と比べても異例だ」とのコメントが添えられていた。
アベノミクスの下で、日本経済の実績はどうだったのか。残された数字は、世論調査の結果と必ずしも平仄が合うものではない。 日本経済は、2012年11月を景気の「谷」としてその後「拡張期」に入った。その1か月後に誕生した第2次安倍内閣は、景気が上り坂に入ったその瞬間に誕生したのだから、こと経済に関する限り、運のよい内閣だったのである。

それでも、12年10~12月期から、新型コロナウイルスの感染が拡大する直前の19年10~12月期まで、7年間の実質国内総生産(GDP)成長率は年率平均0.9%と、1%に届かなかった。身近な個人消費の平均成長率は0.04%と、ほぼゼロ成長である。
同じ期間、世界的に経済の「長期停滞」が語られる中でも、米国の消費は平均2.7%伸びた。悪いと言われていた欧州連合(EU)でも消費は平均1.4%のペースで増えた。日本の消費ゼロ成長は、先進諸国の中で際立って悪い・・・
この項続く

内閣官房の肥大化

2020年10月7日   岡本全勝

9月29日の朝日新聞に、「内閣官房「分室」、安倍政権で40に膨張」が載っていました。
・・・安倍政権で目玉政策が打ち出されるたびに、省庁横断的に対応するため内閣官房に設けられてきた「分室」が過去最多の40にまで膨れあがっている
・・・分室は、法律や閣議決定などに伴い、特別職の官房副長官補がトップを務める内閣官房副長官補室(通称・補室〈ホシツ〉)の下に置かれる。内閣官房に与えられている総合調整の機能を使い、複数の省庁にまたがる重要政策に対応しやすくするのが役割だ。
内閣官房によると、分室は、中央省庁再編時の2001年には5室あった。その後、増えたり減ったりした。7年8カ月余り続いた安倍政権では、31室が役割を終えて廃止されたが、それを大きく上回る48室が新たに作られ、今では40室までに膨らんだ。各省庁から1~2年程度出向している職員を中心に、官房に約800人が常駐しているという・・・

・・・新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、対策強化のために3月下旬にできた「推進室」は多忙を極める。その一方で、安倍政権が選挙などのたびに打ち出したスローガン、「働き方改革」「1億総活躍」「人生100年時代」などを冠した分室は、4月1日時点で常駐の職員がいない。複数の分室の役職を兼務する職員も少なくない。ある官邸幹部は「中には何を今しているのか分からないものもある」と認める。
ただ、議員が主導した法律に伴い設置された分室もあり、「廃止や移管すると、『政府の意識が低い』と映ってしまう恐れがあり、なかなか簡単に減らせない」(官邸幹部)といった事情も、分室が減らないことの背景にある・・・

どのような室があるか、記事を見てください。
このような内閣官房をはじめ総理官邸を支える仕組み、そして各省など国家行政機構についての解説書って、ないのですよね。地方行政・地方自治は、大学に講座があり、研究者がいて、マスコミにも専門家がいて、学会もあります。本屋に行くとたくさん関係書が並んでいます。ところが、国家行政・中央政府の研究って、組織だって行われていないのです。「市場」が成り立たないからでしょうが。

幸い、私は総理官邸や内閣府などに勤め、霞が関全体を見るという経験をしました。もちろん、各省の細部までは知りませんが。時間ができたら(現在の連載が終わったら)、次の取り組みとして、国家行政を分析したいと考えています。いつのことやら・・・。

償いの主体

2020年10月6日   岡本全勝

「原子力災害伝承館が伝えることと残っていること」その2「失敗した際の償い」の続き3です。
9月30日に、原発事故を巡り、福島県内の避難者らが国と東電に損害賠償などを求めた訴訟の判決が仙台高裁で出ました。判決では、国と東電の責任を認め賠償を命じました。この判決の当否については、ここでは触れません。

ここで取り上げるのは、その判決への政府の対応です。報道によると、官房長官が記者会見で答え、原子力規制委員会委員長も答えています。もっとも、原子力規制委員会は、委員長が答えているように、この事故を受けてつくられた組織で、将来の事故を防ぐための組織です。東電福島第一原発事故について、責任を問われる組織ではありません。
「受け止めですけれども、改めて、原子力規制委員会というのは、東京電力、福島第一原子力発電所の事故に対する反省やほとんど怒りと言っていいようなものに基づいて、設置された組織ですので、今回も、今日も改めて引き締めていきたいというのは、今後とも我々というのは、原子力発電所をはじめとする原子力施設の規制を、厳正な規制を進めていくというのは、第一の所感につきます。」

日本の国家行政組織は、分担管理という原則があります。ある案件はどこかの府省に割り当てられます。どこの府省にも割り当てられず、内閣・内閣官房が所管する事務もありますが。
経済産業省原子力安全・保安院が担っていた事務で、他省に引き継がれなかった事務は、経産省に残っていると考えられます。ここで取り上げている「償い」は、まさにそれです。国が被告の裁判の判決が出た際に、国としての考えを述べるのは、経産省でしょう。
しかし、経産省は何も表明していないようです。このあと、国会で質問が出たら、答えるのは経産大臣だと思うのですが。

政策をどこで誰が決めるか

2020年10月5日   岡本全勝

9月28日の朝日新聞オピニオン欄に、「最低賃金、政治主導の限界 今なお低水準、地域間格差も深刻」が載っていました。記事の内容は、最低賃金の金額についてですが、ここでは、その決定過程について取り上げます。

・・・最賃は企業が最低でも支払わなければいけない賃金(時給)で、罰則規定もある。毎年審議され、都道府県ごとに決まる。まず、中央最低賃金審議会が都道府県をA~Dの4ランクに分けて目安を示す。これを参考にした地方最低賃金審議会の答申を受けて各労働局長が決める。いずれの審議会も、学者などの公益委員▽労働組合が選んだ労働側委員▽企業経営者などの経営側委員の三者で構成される。
中央の審議会では毎年、労使の意見の隔たりが埋まらず、最終的には公益委員の見解が答申になる。そこに政権の意向が大きく影響してきた。
新型コロナを受け、経営側から最賃の凍結を求める声が上がり、政権も理解を示した。審議では引き上げを求める労働側が押し切られた。地方では40県が1~3円の引き上げを決めたが、東京、大阪など7都道府県は引き上げを見送った。東京の審議会では採決の際に労働側が抗議の退席をした。新しい最賃は10月から順次発効する・・・

私は、このような審議会で利害対立を調整する方法はおかしいと考えています。かつて、「審議会政治の終わり?」に、次のように書いたことがあります。
・・・社会に利害対立がある場合、その両者と公益委員を入れた3者協議の場が作られます。国や自治体でもそのような3者審議会は、この賃金などの他にも例があります。かつては、公共料金、米価などが花形でニュースになりました。
政府の審議会は、シナリオを官僚が書くので、「官僚の隠れ蓑」と批判されました。ところが、この3者協議の形の審議会は、官僚の隠れ蓑ではなく、「政治家の隠れ蓑」と見る見方もあります。すなわち、社会の利害対立を調整するのは、本来は国会なり政治の仕事です。しかし、その調整を、省庁におかれた審議会に委ねるのです。そして、両者が意見を述べ、中立の立場の公益委員と官僚が、落としどころを探るのです。
政治が解決せず、丸投げされた官僚機構が編み出した「知恵のある解決の場、方法」だったのです。国会の場で大騒ぎにせず、審議会の場で静かに片を付ける。日本流の一つの解決方法でした。しかし、「官僚主導でなく政治主導で」という理念を実現するなら、このような審議会は不要になります・・・

参考「審議会の弊害1」「審議会の弊害2

安倍政権の位置づけ、激変した世界の中で。その2

2020年10月1日   岡本全勝

佐伯啓思先生「安倍政権の位置づけ、激変した世界の中で」の続きです。では、この大変動の中で、どうすればよいか。

・・・100年ほど前、文明論者のオルテガは、既存の価値観が崩壊し、しかも次の新たな価値観が見えず、人々は信じるにたる価値を見失って、社会が右へ左へと動揺する時代を「歴史の危機」もしくは「危機の時代」と呼んだが、まさしく、2010年代は、小規模な「危機の時代」である。グローバリズム、リベラルな民主主義、市場中心主義、米国流の世界秩序といった「冷戦後」の価値が失墜し、しかもその先はまったく見通せないのである。
安倍政権が誕生したのは、まさにこの「危機の時代」であった。この不安定な時代には、次々と問題が発生する。人々の不満は高まる。民主主義は政治家に過度なまでの要求を突きつける。安倍政権は、確かに、次々と生じる問題にその都度、対処しようとした。「仕事」に忙殺される。しかし何をやっても経済はさしてうまくゆかず、いくら外交舞台で地球上を飛び回っても、国際関係は安定しない。外交で、安倍氏個人への信頼は高まっても、今日の複雑に入り組んだ国家間の軋轢や経済競争は容易には改善されないのである・・・
・・・安倍政権が、大きな課題を掲げることができなかったのは当然であり、またその「仕事」が大きな成果を生み出せないのも当然である。もはや、この時代には、経済成長主義も日米同盟による安全保障も自明ではなくなってしまったからである。焼け跡の復興から始まった日本の戦後が、まだまだ上昇機運にある時代には、大きな課題、つまり将来へつながる国家目標を掲げることができる。しかし、世界状況がこれほど混沌(こんとん)とし、人口減少によって経済成長も困難となり、おまけに自然災害や疫病までが襲ってくる時代には、何を掲げればよいのであろうか・・・

・・・最高の地位にある政治家は、また行政のトップでもある。最高の行政官は、国民の要求に応えなければならず、また国家の直面する目前の問題に対して現実に対処しなければならない。まさに身を粉にして「仕事」をしなければならない。「仕事」をすれば支持率はあがる。だが、政治家とは、世界状況を読み、その中で国家の長期的な方向を示すべき存在でもある。「旗」をたて、その旗のもとに結集すべく人々を説得する「指揮官」でもある。
今日、「国民の要求に応えるべく必死で仕事をする」というのが政治家の決まり文句になり、人々もそれを求める。だがそれはあくまで行政官としてであって、政治家とは、人々にその向かう方向を指し示す指揮官でもなければならない。時代の困難さはあれ、安倍氏がこの意味での政治家であったとは思えないのである。その同じ課題は次の指導者にも求められるだろう。この不透明な時代にあって、たとえそれがどんなに困難なことだとしても、である・・・